錬金術師さんと聖ペトロ祭に向けて
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──錬金術師さんと聖ペトロ祭に向けて
今年もお祭りの季節がやってきた!
聖ペトロ祭のために開拓局は大忙し。今年は目玉商品があるとかで、他の地方からも観光客呼び込むつもりらしい。目玉商品って何だろう?
「というわけで、俺とレーズィ君は冒険者ギルドに寄せられた魔獣駆除のクエストを行うことになった。暫く留守にする」
「はい! お弁当を作っておきますね!」
聖ペトロ祭に魔獣が乱入しないように開拓局は念入りに魔獣駆除を行っている。魔獣は確かに減ってるんだけど、魔獣が餌にするシカやイノシシが増えて、麓まで下りてくるのはちょっとした悩み事である。
「おい。馬鹿弟子。爆裂ポーションを作ってみたいか?」
「ええっ!? いいんですか!?」
エステル師匠が思いもよらぬ提案が。
エステル師匠は爆裂ポーションは危ないって言って、ボクにはまるで作らせてくれなかったし、作り方もレシピをみただけど作らせてくれるんだ!
「言うまでもないが、爆裂ポーションはとてつもなく危険な代物だ。そう易々とは作れない。安全第一で行動してもらうからな。手を失うかもしれないという覚悟で挑むんだよ。覚悟はできているかい?」
「はいっ!」
ボクも早く錬金術の腕前を上げて、エステル師匠みたいになりたいのだ。
「では、レシピを教える。アカヒカリ草、魔狼の脂肪、オリーブオイル、エメラルドモドキの欠片、そして蒸留酒。アカヒカリ草は乾燥させたものをみじん切りにする。魔狼の脂肪はオリーブオイルを加えながらよくこねて、アカヒカリ草と一緒に爆破用混合液に混ぜる」
ボクはエステル師匠が告げるように慎重に慎重にポーション作成に励む。
「この時点ではまだ衝撃を与えても爆発しない。全ての材料が混ざった爆破用混合液を素材をろ過しながら、不純物を除いて、蒸留酒と共に錬金釜で煮込む。この時点では既に爆発する可能性があるから慎重に扱うんだぞ」
「ラジャ!」
ボクは全ての作業を慎重に、慎重にと進めていく。
「錬金釜の中身を樽に注いで冷やせばできあがりだ」
「できたー!」
やっぱり上級ポーションといい爆裂ポーションといい、エステル師匠の指導を受けないとなかなか上手いもの作れないや。細かな温度設定や素材をろ過していく作業の細かさはエステル師匠の方が抜群だ。
「今日はついでにこのポーションにライコウミツの実を加える」
「え? どうしてです?」
「それは後でのお楽しみだ」
ライコウミツの実って赤っぽいだけで薬効なくなかった?
「それかこれをヒビキが言っていた砂に混ぜて……」
ヒビキさんの提案? そう言えばヒビキさん、どうやったら爆裂ポーションを安定化させられるかって考えてたよね。
「これで爆裂ポーションの安定度が増して、使いやすくなった」
「けど、これが聖ペトロ祭とどう関係するんです?」
「そんなに気になるなら開拓局の若造にでも聞いてきな」
ハンスさんかー。教えてくれるかなー?
「まあ、あたしはノルマとして後10個は作らないといけないよ。全く、何がヴァルトハウゼン村名物になるだ。そんなに名物とやらを作りたかったら自分たちで作れって言いうんだい」
エステル師匠は不機嫌さ満点で爆裂ポーションを製造していく。
聖ペトロ祭に関係する爆裂ポーションか。白魔術師のお祭りだけど、エステル師匠はそれを爆破するつもりはないよね……?
「馬鹿弟子。お前は聖ペトロ祭のバーベキューのために、山で香草を集めてきな。お前はバーベキューで山ほど食うからな」
「ええー。そんなに食べませんよ」
「前回、バーベキューの肉を食いまくった奴がよく言う」
「えへへ……」
日ごろからお肉に飢えているボクなのでお肉を食べる機会があったら、すかさず食べに向かうのだ。けど、この間新生竜の肉を食べて、その次はグリフォンの肉を食べてで、太らないといいんだけど。
「じゃあ、素材集めて来ますね。香草、どんなのがいいですか?」
「あたしは辛めの奴がいいな。アカヒカリ草なんかでもいいし、カラネギ草なんかもいい。お前のお子様の味覚なら、シオモドキ草なんかもいいんじゃないかい?」
「ラジャ! 集めてきます!」
「冒険者に警護してもらうことも忘れるなよ」
というわけで、ボクはバーベキューの際の香草集めにまずは冒険者ギルドへ!
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「リーゼ君?」
「あれ? ヒビキさん、クエストがあったんじゃなかったんですか?」
「それがもう終わってしまってな。他の依頼がないか探しているところだ」
クエストがあると言って出かけていったヒビキさんは、もうクエストを達成していた。本当に素早いし、規格外の人なんだなー……。
「ちなみに討伐した魔獣の数は?」
「魔狼が10体、ゴブリンが12体、グリフォンが1体だ」
そ、それだけの獲物を狩るのにもう終わったって言うの!?
す、凄すぎる。ヒビキさんは本当にぶっ壊れ性能だ。
「レーズィ君のおかげだ。彼女の魔術はとても頼りにある」
「そんなことないですよう。私がいなくてもヒビキさんならやれましたから」
ううーん。青魔術で相手の戦闘力に制限をかけ、こちらの戦闘力を上げるレーズィさんの青魔術は確かに強力だ。だが、それはただでさえ強いヒビキさんを強化しきって、そこらの雑魚では相手にならなくなっているのではないだろうか。
「何はともあれ、依頼は達成した。報酬は特別報酬を含めて9000マルク。かなり稼げた気持ちだ。ようやくこの世界にも落ち着けるようになってきた」
「ヒビキさんってば報酬は半分にしましょうっていうのに、私の方に多めにくれるんですよう。私も財政難なのでありがたいのですが、申し訳ないです」
9000マルクとは結構な額の報酬だ。きっと開拓局が依頼したのだろう。
「あっ。ヒビキさん、お手数でなかったらこれから素材集めのクエストを依頼するので受けてくれませんか? やっぱりヒビキさんたちの方が安心できるので」
ヒビキさんは素材を集めてから加工するのも手伝ってくれるしな!
「構わないが、今日は俺とレーズィ君だけだぞ?」
「ユリアさんは?」
「“黒狼の遠吠え”が戻って来たから、そちらに同行している。なんでもエルンストの山のお化け魔狼捜索に向かっているらしい」
「なるほど」
ようやく“黒狼の遠吠え”も動き始めたのか。遅いよ。
「じゃあ、素材集め、よろしくお願いしますね」
「ああ。任された」
その後、ボクが依頼を出したのにクリスタさんから特定の個人に仕事を斡旋するのはそろそろやめてくれとまた言われた……。。
それでもヒビキさんたちがいいんだよ!
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狙いはバーベキューをよりおいしくする香草。
辛い風味が好きな人にはたまらないアカヒカリ草やカラネギ草。老若男女にとってポピュラーな味付けになるシオモドキ草。そういう香草を集めて、聖ペトロ祭のバーベキューパーティーをより盛り上げるのである!
「アカヒカリ草はこの間の場所で採取するとして、カラネギ草とシオモドキ草はどこだったかなー?」
香草は料理には使うけれど、錬金術には使わないので場所がうろ覚えた。
「大体、どういった場所に生息しているか分からないのだろうか?」
「カラネギ草は水辺です。シオモドキ草は大きな木の影によく生えてます」
「ふむ。では、こちらの方を探そう」
ボクたちはヒビキさんの誘導でラインハルトの山を進む。
そうすると、行く先には水辺が。
「ヒビキさん。もうこの辺りの地形覚えちゃったんですか?」
「そうだな。ここにはもう2ヶ月もいるし、依頼やリーゼ君との素材集めで頻繁に森には入っていたからな。必要最小限の地形は覚えたつもりだ」
「ほへー……」
冒険者の人たちっていうのは地形とか把握するのが得意だそうだけど、ヒビキさんもそうだったんだね。2ヶ月でもう山の地形を把握してるとか凄いや。ここには獣道があるだけで、目印になりそうなものも特にないのにさ。ボクなんて慣れた場所じゃないと未だに迷子になりそうだよ!
「形状はどのような形をしているのだろうか?」
「ええっと。カラネギ草は葉っぱが傘みたいになってて、根っこ事引き抜くんです」
「理解した。探してみよう」
うーむ。これで本当に伝わったのだろうか。いまいち具体的には伝えられなかった気もするんだけど。
「ああ。ありましたよう!」
なんと最初にカラネギ草を発見したのはレーズィさんであった。
「本当だ! 根っこから抜いてくださいね。根っこも必要なんです」
「分かりました! 引き切れないようにそっと……」
ボクが告げるのにレーズィさんが慎重に、慎重にカラネギ草を引き抜く。
「抜けました!」
見事根っこの部分からレーズィさんはカラネギ草を抜き取った!
「流石です、レーズィさん! しっかり取れましたね!」
「えへへ。やりましたよう!」
カラネギ草は根っこも調味料に使える逸品なのだ。根っこをすりおろして、お肉とかにつけて食べると鼻にツーンと来る感じがして美味しい──とエステル師匠は言っていた。ボクは正直苦手だ。だって、鼻がツーンとするんだもん。
「リーゼ君。これだろうか?」
「ああ! それです、それ! うわあ、みんなボクより見つけるの上手いですね……」
次はヒビキさんが発見。
「根っこを折らないように上手く抜いてくださいね」
「理解した。やってみよう」
ヒビキさんの腕力だと地面ごと抜けそうな気もしたが、そこら辺はちゃんとセーブしてくれた。ヒビキさんもレーズィさんと同じように見事に根っこから綺麗に抜けた。ヒビキさんの抜いた奴は丸々としてて大きいぞ!
「これはどのような味がするのだろうか?」
「辛いです。鼻がツーンとします」
「……ワサビのようなものか」
ワサビは知らないけれど、これは人を選ぶ辛さだよ。
「しかし、バーベキューにそのような香草を使うとは珍しい。ワサビというよりもマスタードという扱いなのだろうか?」
「うーん。これでお肉を焼くと確かに香ばしくて、辛くなるんですけど。マスタードはマスタードとは別の辛さで別に用意してありますからね。エステル師匠とか、オスヴァルトさんとか、辛いのが好きな人がこれを使ってよりお肉を辛くしたがるんですよ」
「ふむ。2倍の辛さか。試してみたくあるな」
そういえば、ヒビキさんもさりげなく辛党だったな。アカヒカリ草の実をあれだけ入れても平気で食べてたし。案外ヒビキさんもカラネギ草を気に入るかもしれないね。
「ヒビキさんは辛いの好きなんですか?」
「辛いの好きというよりも味覚音痴なんだ。味付けの濃い食事ばかりを食べてきたから。レーションも長期戦闘用のものだと最近では随分と味が濃いしな。軍にいたおかげで舌が馬鹿になってしまった」
「軍隊の食事っておいしくないですもんね……」
一度、ファルケンハウゼン子爵閣下のところで兵隊さんの食事を味見させてもらったけど、塩っぽくて具の少ないスープに麦の粥だった。量だけは大量にあったけれど、あれじゃあ美味しいとは思えないな。
「というわけで、辛い食事は味を感じられていい。ここら辺の辛さはまだ未体験のものだから試してみたいものだ」
「ええ。カラネギ草は辛いけど美味しいって評判ですから期待してください!」
ヒビキさんってなんでも美味しいって食べてくれるので作る側としては嬉しい。
「では、カラネギ草も集まったので、シオモドキ草を探しましょう。ヒビキさん、大きな木が茂っている場所って分かります?」
「それならこっちの方だな」
すっかりヒビキさんの方が山に詳しくなってしまった。
「おお。いい感じに大樹が茂ってますね。では、その根元の方を探しましょう。シオモドキ草は細長い茎に葉っぱがちょろちょろっと生えた感じの奴です。火の光が差す方向に伸びてるんで分かりやすいと思います」
「ふむ。探してみよう」
シオモドキ草は特徴的な外見をしているし、大樹の下で育つ植物は少ないから簡単に見つかると思う。
「あったー!」
ほらね。今度はボクが一番に見つけたよ!
「シオモドキ草というのはどんな味がするんだろうか?」
「その名の通り塩と言いたいのですが、実は胡椒の味がします。何考えてシオモドキ草なんて名前つけたんでしょうね?」
「謎だな」
「謎です」
名前はシオモドキ草なのに胡椒の味がする。謎植物。
「でも、これって胡椒より風味がよくて、お肉が倍は美味しくなるから大人気なんですよ。うちの畑でも育てられたらいいのになー」
「育てられないのか?」
「普通の環境じゃ真っすぐ伸びないんですよ。ぐにゃってなってそのまま枯れちゃって。こういう大樹の陰でほんのり日の光に当たってないとダメみたいです」
「それは珍しい生態系をしてるね」
シオモドキ草が大量生産できたら大金持ちだろうけど、生憎人の作った環境ではシオモドキ草はなかなか育たないのだ。仮に育てられたとしても、コストがかかりすぎて、採算が取れなくなるのが目に見える。
「さて、残りはエステル師匠の大好物のアカヒカリ草を採取してこないと」
さあ、残すはアカヒカリ草だけだ。
祭りに備えて蓄えるぞー!
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