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錬金術師さんと路地裏の戦闘

…………………


 ──錬金術師さんと路地裏の戦闘



 ボクたちはゾーニャさんを加えて、トールベルクの街の市場に向かった。


 エステル師匠は何か錬金術の素材を調達するつもりらしい。ボクたちのヴァルトハウゼン村の方では採取できない素材とかで。でも、エステル師匠がわざわざ調達してまで作ろうとしてるポーションって何なんだろう?


「ふむ。ここがインゴの奴が言ってたバーテルスの店、か」


 エステル師匠が看板を見上げてそう告げる。


「よう、姉ちゃん! 見かけない顔だね! 錬金術師かい?」


「錬金術師も錬金術師さ。帝国錬金術学校を首席で卒業したね」


「そいつはすげえな! それならうちの店の扱ってる品の良さも分かるだろう!」


 店主らしい人が告げるのに、エステル師匠は陳列されている品を眺める。


「ふん。悪くはないね。でも、このヨルノナミダ草はちょっと傷んでるよ」


「ありゃ。目ざといね。うちの息子に手伝わせたんだが、しくじったな」


 ヨルノナミダ草はエステル師匠が指摘するようにちょっとだけ萎れている。これでは乾燥させたら薬効が全部抜けてしまうだろう。


「で、ライコウミツの実を扱ってるって聞いたんだけどあるかい?」


「ライコウミツの実かい。あるよ。だが、珍しいな。あれを買い求めるなんて」


「いろいろと事情があってね」


 ライコウミツの実って赤い色がする実だったよね? 特にポーションの材料ではなかったと思うけれど、どうしてエステル師匠はそんなものを買いに来たんだろう?


「ほら。これだ。これは傷んでないぞ」


「悪くないね。1瓶貰おうか。いくらだ?」


「そうだね。これは置いておいてもしょうがないし、2000マルクでいいぞ」


「よし。次来るときはまた別のものを買いに来るかもしれないからよろしくね」


「こちらこそ、ご贔屓に!」


 エステル師匠は大雑把に1瓶頼むと、店主さんに2000マルクを手渡した。


「エステル。それは何に使うんだ?」


「ああ。聖ペトロ祭で使うのさ。オスヴァルトに頼まれててね」


 うん? 聖ペトロ祭でライコウミツの実を?


 謎だ。


「ゾーニャ君。尾行がまた付いたようだ。前方に2名、後方に3名。挟まれている」


「そいつらは武装はしていますか、ヒビキ?」


「表立ってはしていないが、どうも臭う。ナイフの1本、2本は隠し持っているだろう」


 そして、尾行だ。


 尾行しているのは恐らくガルゼッリ・ファミリーの人たちなんだろうけど、ずっとボクたちを付け回すだけで、手出ししてこないからこちらも手が出せないのだ。なんという嫌がらせだろうか。全く!


「暇な連中だね。ちいとおしおきしてやろうか?」


「いいのか? それなりのリスクはあるぞ」


「いつまでも付いて回られるのも気分が悪いからね」


 エステル師匠はそう告げると、路地裏を目指していった。


「ヒビキ。尾行は?」


「増えた。後方から4名。脇から3名だ」


 ボクたちが路地裏に入っても尾行の人たちは付いてくる。どうするんだろう……?


「そこで止まれ、クソ錬金術師!」


 ボクたちがすっかり路地裏に入った時、男の人の怒鳴り声が響いた。


「誰かクソ錬金術師だって? もう1回言ってみな」


「てめえのことだよ! そこのクソでかい男もだ! この間は随分とこっちに恥かかせてくれたみたいじゃねーか!」


 うわあ……。やっぱり、ガルゼッリ・ファミリーの人たちだ。滅茶苦茶怒ってる。


「この間の礼だ! 可愛がってやるよ!」


「覚悟しな!」


 ぞろぞろと建物や路地から男の人たちがでてくる! 囲まれたっ!?


「貴様ら、私が灰狼騎士団の騎士であると知っての発言か?」


「何が騎士団だ。うざったらしい蠅が。てめえも切り刻んでやるぜ」


 ゾーニャさんが剣を抜くのに、男の人たちがナイフを構えた。


「騎士殿。ここは正当防衛だね?」


「ええ。そうです、エステル。何をしても構いません。ですが、できれば生かして捕らえてください。こいつらの尻尾を掴むチャンスかもしれません」


「あいよ。じゃあ、やらせてもらおうか」


 エステル師匠が尋ねるのに、ゾーニャさんがそう返す。


「レーズィ。やるよ」


「了解ですよう! <<速度低下>>!」


 開幕一撃はレーズィさんの青魔術だ。


「クソ……! 青魔術師がいるなんて聞いてねえ!」


「生憎だったね。こっちには赤魔術師もいるよ。<<爆裂槍>>」


 エステル師匠が手を掲げると、そこから炎の槍が飛び出した!


 槍は真っすぐ男の人たちにめがけて飛翔すると、命中して炸裂した。男の人たちは吹き飛ばされて、壁や地面に叩きつけられる。そのまま気を失った人もいれば、火傷を負って悲鳴を上げている人もいる。地獄絵図だ……。


「対人戦で魔術を使うのは久しぶりだから手加減はできないかもしれないよ。それでもよければかかってきな」


「畜生がっ! 舐めんなっ!」


 エステル師匠が挑発するのに男の人たちが突進してくる。


「ゾーニャ君。俺はエステルをカバーする。君はレーズィ君を頼む」


「任されました!」


 突進してくる男の人たちを前にヒビキさんとゾーニャさんが立ちふさがる!


「<<速度上昇>>!」


 そして、レーズィさんがみんなに青魔術をかけてサポート。


「くたばれや、おらあっ!」


「甘い」


 ヒビキさんは突進してきた男の人の腕を捻りあげると、そのまま武装解除させ、地面に叩きつけるように放り投げた。凄い動きだ。


「てめえっ!」


「死ねやっ!」


「クソ野郎!」


 今度は3名だ!


「<<火球弾>>」


 そこにエステル師匠が赤魔術を叩き込む。炎が男の人たちを燃え上らせ、男の人たちは必死に火を消そうと地面の上でのたうつ。


「<<活力低下>>!」


 更にレーズィさんが青魔術を。


「う、動けねえ……」


「もうダメだ……」


 これも凄い威力だ。さっきまで殺気に満ちていた人たちが武器を捨てて、地面に跪き始めている。レーズィさんってば本当に凄い魔術師なんだな。


「野郎っ! ひとりだけでもぶっ殺してやる!」


「ただじゃやられねえ!」


 それでもまだ諦めてない男の人たちがヒビキさんに突進してきた。


「ふん」


 ヒビキさんは男の人たちの足元を薙ぐように蹴りを叩き込むと、男の人たちは悲鳴を上げて地面に倒れ込んだ。よくみたら足があらぬ方に曲がっている……。ちょっとボクには刺激が強すぎる光景だ。


「こちらは制圧できたようだ。そっちは?」


「制圧しました」


 ヒビキさんが尋ねるのにゾーニャさんが答える。


 ゾーニャさんの側も死屍累々だ。死者こそいそうにないものの、腕とかぶった切られた人がいてショッキング過ぎる光景。


「逃げたものはいますか?」


「こちらはいない。全員倒れているか、戦意を喪失して降伏している」


「なら、全員確保ですね」


 路地裏はヒビキさんに捻りあげられた人たちと、エステル師匠に焼かれた人たちと、ゾーニャさんに切り倒された人たちと、レーズィさんの魔術で戦意喪失して茫然としている人たちだけになった。


「ザルツァ卿! 騒ぎがあったと聞きつけてきましたが……」


「敵は制圧した。拘束するのに手を貸してくれ。それから負傷者たちの治療も頼む。ここで死なせて口を塞ぐわけにはいかない。洗いざらい喋らせなければ」


 遅れて騎乗した騎士の人たちがやってきた。遅いよ!


「承知しました。直ちに手配いたします」


 ゾーニャさんは結構偉い人なのか、命令がすぐに通る。


「これから尋問か?」


「ええ。なんとしてもガルゼッリ・ファミリーの根本を暴き出さなければ。これだけの構成員をトールベルクの街に送り込んでいるのですから、敵もここを狙っているのでしょう。交易の拠点を占拠した犯罪組織が何をやるかなど考えたくもありません」


「そうか。頑張ってくれ」


 ヒビキさんはもう興味ないみたい。話を終わらせて、油断なく周囲を見張っている。


「しかし、ヒビキはもちろん、エステルとレーズィも強いのですね。これだけの実力者が集まっているヴァルトハウゼン村というのが気になってきました」


「あたしのは大したことはないよ。赤魔術は若いころにちょっとばかり齧っただけってだからね」


 エステル師匠の赤魔術は凄いと思うけどなー。


「わ、私も大したものではありませんよ。ほんのすこーし、学んだ気ですから」


「いえ。とても素晴らしい青魔術でした。師は誰を?」


「ちょ、ちょっと言えないです。内緒です」


 レーズィさんは正体がばれないように必死だ。


「おい。起きろ」


「う、何だ、てめえ……」


 そんなことをしてる間にヒビキさんが地面に叩きつけた男の人を起こしている。


「これはガルゼッリ・ファミリーの指導者が命じた作戦か?」


「クソくらえ」


「そうか」


 男の人の答えにヒビキさんが無造作に男の人の指を折ったー!?


「ああっ! クソ! 何しやがる!」


「もう一度聞こう。これはガルゼッリ・ファミリーの指導者が命じた作戦か? まともに答えなければ次に折るのは肋骨になるぞ」


 ヒビキさんがそう告げて拳を握り締めて地面を叩いた。


 ベコンと音がして、石畳にひびが入り、男の人の顔が青ざめる。


「ち、違う。俺たちが勝手に動いた結果だ。ボスは何も命令してない」


「嘘だな。目の動きと汗の量を見れば分かる」


「ぐっ……! た、確かにボスは前回の件に始末をつけろと言った! だが、具体的にどうしろとは言ってない! そもそもあの薬屋に入るまで俺たちはあんたらを見つけられなかったんだ!」


「ふむ。そのようだな」


 ヒビキさんがちょっと怖い。


「これから手を出してくる可能性はあるか?」


「わ、分からねえ。今回の件で随分と若いのがやられた。もう手出しはするなという命令がでるかもしれない。それか徹底的に報復しろと言われるか……」


「なるほど。よく分かった」


 そこでヒビキさんはようやく男の人から手を離し、男の人はそのまま地面に倒れた。


「これからトールベルクに来る際にはゾーニャ君に警護を頼んだ方がよさそうだ。どうも敵は犯罪組織らしく面子を大事にするようだからな」


「ちんけな連中だね。女子供を相手にして面子だなんて」


 ヒビキさんが告げるのに、エステル師匠が煙管を吹いた。


「それじゃあ、買い物の続きと行こうか。レーズィ、あんたも欲しいものがあったら今のうちに買っておきな。今度はいつトールベルクまで来るか分からないからね」


「そうですねえ。ちょっと研究材料を調達しましょうか」


「それからローブも替えを用意しておくといいよ。これから冒険者やるならね」


「ああ! そうですねえ! 野外で動きやすい服が必要ですよね!」


 レーズィさんはお化粧の類も買った方がいいと思うけどなー。


 レーズィさんってばちょっと色白すぎて顔色が悪く見えるし、お化粧で飾るのもいいことだとは思うのだが、まあレーズィさんは色恋にはまるで興味のない人だから、必要ないかもね。


「ヒビキも動きやすい服を買っておくなら今のうちだよ。今日のエステル様は儲けてるから奢ってやるぞ」


「それには及ばない。一応自分の蓄えはある」


「そうかい」


 エステル師匠はちょっと残念そう。


「馬鹿弟子。お前も欲しいものがあったら言いな。買ってやるぞ」


「わあい!」


 ということでボクたちはゾーニャさんの護衛を引き続き受けつつ、衣料品店でいろいろ購入したり、珍しい錬金術の素材を購入したり、よく分からない実験器具を購入したりした。ヒビキさんは動きやすい衣服を自前で揃えている。


「では、今日はありがとうございました、ゾーニャさん」


「これぐらいはお安い御用だ。またトールベルクに来ることがあったら声をかけてくれ。全力で力になるからな」


 ゾーニャさんの頼もしい見送りを受けて、ボクたちはヴァルトハウゼン村に帰っていった。新しく買ったキュロットスカートとブラウスは似合うかな?


…………………

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