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錬金術師さんと二度目の上級ポーションへの挑戦

…………………


 ──錬金術師さんと二度目の上級ポーションへの挑戦



「馬鹿弟子。上級ポーションを作らせてやる」


 いつもの朝食の場でエステル師匠がそう告げた。


「やった! ちなみに何を?」


「上級疲労回復ポーションだ。新生竜の素材で作れる」


 よしっ! レシピは覚えているぞ!


「新生竜の油漬けにした膵臓、乾燥させたヨルノナミダ草、オリーブオイル。素材はこれで間違いないですよね?」


「そこは間違ってない。作り方は分かっているかい?」


「ばっちりですよ!」


 新生竜の油漬けにした膵臓は細かく刻んで、乾燥させてそのままのヨルノナミダ草と一緒に治癒用混合液に浸す。2時間ほど浸したら、オリーブオイルを加えて、それで生じた上澄みを錬金釜に注いで煮詰める。


 コトコト弱火で煮込むこと1時間で完成だ。


 注意しなければいけないのは、膵臓をあまり細かく刻まないこと。それからヨルノナミダ草が折れたりしないようにすること。そして、本当に上澄みだけを綺麗に採取すること。どれも間違うと薬効がガクリと下がって中級ポーション程度の薬効しか示さなくなる。注意深く素材を扱わなければならない。


「では、始めますね」


「ああ。やってみな」


 まずは油漬けの膵臓を瓶から取り出して、刻む。概ね1センチ角ほどになるように刻んでいく。細かく刻みすぎると、薬効成分がじわりと滲みでるのではなく、ドバーッと放出されてしまい、上手く抽出できなくなる。


 ヨルノナミダ草も扱いに気を付けなければならない素材だ。中級疲労回復ポーションを作る際には煎じるのだが、上級疲労回復ポーションを作る際には膵臓と同じようにじんわりと薬効成分を絞りだすため、傷つけないようにして治癒用混合液に浸す。


 上級疲労回復ポーションの基本はじんわりと。時間をかけて、じわじわと薬効成分を引き出すことで新生竜の膵臓とヨルノナミダ草の薬効成分が上手く反応し、上級疲労回復ポーションになるのだ。急いではいけない。


 そして、上手い具合に薬効成分がにじみ出てきたら、オリーブオイルを使って薬効成分のある部位とその他の部位を分離する。薬効成分がある部位は油に浮くので、薬効成分のある層、オリーブオイルの層、薬効成分のない層に分離される。


 ボクは薬効成分のある層をスポイトを使って慎重に吸い上げる。この時オリーブオイルや薬効成分のない層が混じるとやはり薬効が低下する。かといって、本当にちょろっと上澄みだけを取ると素材がもったいない。これも慎重に。


 そして、最後は錬金釜で薬効成分をより引き出していく。蒸発しすぎないように弱火で慎重に煮込むこと1時間。


「完成っ!」


 上級疲労回復ポーションの完成だ!


「見せてみな」


「どうぞ!」


 エステル師匠はボクからポーションを受け取ると、光にかざしてみる。


「不純物はなし。色はちょいと緑っぽいがまあいいだろう。今回はインゴの奴が買い取ってくれるかどうか試してみるかい?」


「是非とも!」


 この間の上級体力回復ポーションは買い取ってもらえなかったから、今回は買い取ってもらえるか試してみたい。見事、本職の薬屋の人が買い取ってくれたら、ボクとしても自信が付くってものだよ!


「明日、出来上がった上級ポーションをトールベルクに売りに行く。今回も日帰りだ。ちょいと買い物もしなければならないから付き合いなよ」


「ラジャ!」


 買い物ってなんだろう?


「ヒビキ。悪いが今回も付いてきてもらえるかい?」


「ああ。大丈夫だ。レーズィ君はどうする?」


 ヒビキさんの視線がレーズィさんの方を向く。


「え? トールベルクですか? あそこはちょっとした宿があるだけの寂しい村じゃありませんでしたっけ?」


「それはいつの情報だい。今は立派な交易都市になっているよ。あたしたちがポーションを売りに行く看板だけは立派な薬屋もあるし、レストランも洒落たのがいくつもある。あんたの情報をアップデートするためにもついてきた方がいいね」


「では、失礼します!」


 トールベルクって昔は寂れた場所だったのか。レーズィさんって300年ダンジョンに籠ってたらしいけど、本当に昔の人なんだな。


「それからトールベルクの職人たちにも早いとこ、温室を作ってくれるように催促しないとね。全く、いつになったら来るんだか。前金は払っているんだからさっさとしてくれないと困るってもんだよ」


 ああ。温室もまだ未完成だったな。ガラスって調達が難しいらしいけど、そのせいで後れてるんじゃないかな?


「さて、明日の朝は早いよ。今から支度をしておき。寝坊したら置いていくからね」


「はーい!」


 トールベルクに行くのに寝坊なんてするもんか! またトールベルクで美味しかった大盛オムライスを食べるんだ!


 今からトールベルクに行くのが楽しみだよ!


…………………


…………………


 早朝。


 ようやく日が昇り始めた時間帯にボクたちは飛行船の離発着場にいた。


 エステル師匠はお洒落なパンツスーツ姿で、ボクは半袖のワンピース、レーズィさんはゆったりしたロングスカートとノースリーヴのブラウス。ヒビキさんは前回と同じようにまだら模様の服──迷彩服を纏っている。


「悪いね。今回も荷物持ちを頼んで」


「これぐらいなら安いものだ」


 エステル師匠とボクが作った上級ポーションはヒビキさんが抱えている。瓶が割れないように慎重に。緩衝材であるおが屑に包まれたポーションの箱は結構な重さがあるけれど、グリフォン2頭を運べるヒビキさんには軽いものみたい。


「来たな」


 今回も飛行船はゆったりとした速度で地平線の向こうから姿を見せた。


 ゆったりしているようでなかなか速い。地平線に見えたかと思ったら、あっという間に離発着場に到達して降下を始める。


「え? え? これが飛行船ですか?」


「どうかしました、レーズィさん?」


 レーズィさんは飛行船を見上げて、唖然としている。


「飛行船ってこんなに大きなものでしたっけ? もっとこうちんまりとしたものだと記憶しているのですが……」


「ああ。小型の飛行船もありますけど、それは帝都と周辺をつなぐような便でしか使われてないですよ。今はほとんどこのサイズの大きさの飛行船です」


「そうなのですか……。技術は進歩していくものですねえ……」


 きっとレーズィさんがまだ外にいた時代は飛行船は小さかったのだろう。


「さあ、急いで乗り込むよ。遅れたら置いていくからね」


「ラジャ!」


 ボクたちはいそいそと飛行船に乗り込む。


「中も広いですねえ。私が知っている飛行船とは随分と違いますよう」


 レーズィさんは飛行船に感心しながら、席に座る。窓際の席だ。


「荷物は固定してきた」


「助かります、ヒビキさん」


 ヒビキさんは貨物室で荷物を固定してきた。あれって結構力のいる仕事だから、やっぱり力のある男の人がいるといいものだ。


「飛行船、離陸いたします。シートベルトは客室乗務員のアナウンスがあるまで外さないでください。繰り返します──」


 アナウンスが繰り返されて、飛行船がふんわりと宙に浮かぶ。


「おおっ! 本当に麓に開拓村ができているのですね! あそこら辺が私がいたダンジョンの付近でしょうか? こうして空から眺めると本当に開拓が進んでいるようでびっくりさせられますよう!」


 レーズィさんは飛行船からの景色に大興奮だ。


「うーん。やっぱり街道の工事は進んでないですね」


「まだまだのようだな」


 街道はやっぱりファルケンハウゼン子爵閣下の城の隣の村までしか伸びていない。工事は行われているようで、土が積み上げられていたりするのだが、そこから先はさっぱりだ。以前見たときと同じように野道が伸びているだけ。


「ここら辺も様変わりしましたねえ。昔は何もなくて森が広がっていただけなのに」


 だけれど、300年振りに空の旅を楽しむレーズィさんには発展しているように見えるようである。今は切り開かれて城や村ができているけれど、昔は本当に森しかなかったんだろうな。


「レーズィさん。もう少しでトールベルクの街が見えますよ」


「ふむふむ。どのように発展したのでしょうか」


 レーズィさんは興味深そうに飛行船の窓から地上を見下ろす。


「ほら、見えてきました」


「おおっ!? あのトールベルクがこんな立派な街に!?」


 レーズィさんが驚きの表情で地上を見下ろす。


「む、昔は宿が1軒と民家と炭焼き小屋がある程度の場所だったのに、今や大都市ですよう。こんなに発展しているだなんて驚きです。やはり文明とはあっという間に進んでいくものなのですねえ……」


 レーズィさんの目にはトールベルクの街はちょっと刺激的だったみたい。ぼんやりとした顔をしてため息を吐いている。そりゃ、ボクたちの開拓村が都市に変わっていたってようなものなんだから驚くってものだよね。


 飛行船はゆっくりと降下していき、トールベルクの街の離発着場に着陸する。タラップが下ろされ、ボクたちはいそいそと飛行船を降りた。


「ここがトールベルク……。本当に街ですねえ……。あの村がどうやったらここまで発展したのでしょうか。確かあの頃は街道もろくに整備されてなかったはずなのですが」


「ここは南北の交易線の交錯する場所だ。交易都市になるべくしてなったのさ。宿屋が増えて、それに従事する人間が増えて、それと取引する商人が増えて、隊商を護衛する冒険者が増えて、あっという間さ」


 レーズィさんが感慨深そうにトールベルクの街並みを眺めるのに、エステル師匠がそう告げる。


 トールベルクも元は小さな村だったなら、ボクたちの開拓村もこれから大きくなる可能性はあるのかな? 街道できれば、村の農作物やボクらのポーションなんかを売って、それを扱う行商人の人たちが頻繁に訪れるようになって、大きくなるのかも?


「じゃあ、今回もインゴの店に行くとしようか。そこで金を手に入れたら、ちょっとばかり買い物だ。いろいろと入用のものがある」


「ラジャ!」


 エステル師匠がトールベルクの街の綺麗な街並みを歩きだすのにボクたちはその後ろを付いて行った。


 今回はボクのポーションも買い取ってもらえるかな?


…………………

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