錬金術師さんとゴーレムの素体作り
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──錬金術師さんとゴーレムの素体作り
よ、ようやく裏庭の拡張が終わった。
ヒビキさんにも手伝ってもらって、来る日も来る日も畑を耕して、肥料を錬成しては畑に撒き、薬草の苗を植えていった。裏庭は薬草に覆われ、収穫の時を今か今かと待ち続けている状況だ。
エステル師匠はトールベルクの職人さんに温室を作ってもらうよう依頼したらしいけど、まだ職人さんたちはやってこない。トールベルクでガラスの下準備をしてから、ここに運んで加工するらしいので、時間がかかるのだろう。
さて、裏庭の拡張も終わり、エステル師匠が一日中上級ポーション作りに励んでいる今、ボクたちはレーズィさんのゴーレム作りを手伝うことにした。
手伝うと言っても鍛冶職人の人を紹介するぐらいだけど。
「──というわけで、こういうものが欲しいんです!」
レーズィさんが自分で図面を引いたゴーレムの設計図を鍛冶職人さんに見せる。
「無理とは言わないが、ここまでやると相当高くなるぞ」
「具体的なおいくらぐらいで……?」
「そうだな。100万マルクってところか」
「100万マルク……」
いけない。レーズィさんが失神しそうだ!
「もっと簡単にはできないのか? 普通の鎧を利用するなどして」
レーズィさんが理想としているのは全身が完全な金属でできたゴーレム。仲間でびっしり金属が詰まっている。これだと確かに高くなるってもんだ。
「うーん。それだと軽すぎて、重い荷物を抱えたときのバランスが……」
ヒビキさんが告げるのにレーズィさんが考え込む。
「では、鎧の中に砂を詰めると言うのは? 土嚢を詰め込めばゴーレムの重量はどうにかなるだろう」
「ほうほう。悪くないアイディアというかベストアイディアですねえ!」
ヒビキさんの提案にレーズィさんがガッツポーズをとる。
「普通の鎧はおいくらぐらいしますか? こんな感じのフルプレートアーマーで」
「そうだな。それだと20万マルク程度でできる。中に土嚢を詰めるなら大きめに作った方がいいか?」
「そうですね。お願いします!」
これでレーズィさんのゴーレム開発計画は一歩進んだ。
「後は土嚢を作らないとな」
「丈夫な布が必要ですね」
土嚢は基本的に水に強く、頑丈な布が袋として使われる。村の外れを流れる川や帝都の外れの河川を整備するのに使われていたのを覚えている。
「材料はあるだろうか?」
「ありますよ! 布を作るにも使えて、錬金術の材料にもなるニシノアサ草を栽培している農家さんがいますから! ニシノアサ草は頑丈な繊維として需要が高いし、ヴァルトハウゼン村では栽培しやすいからある種の村の特産品なんです!」
「その、錬金術の材料というのは痛め止めとかではないか……?」
「違いますよ。咳止めです。ニシノアサ草から痛め止めは作れないですよ」
「そうか。それはよかった」
ヒビキさんが困惑したように尋ねるのにボクがそう返すと、ヒビキさんは何だか安心したような表情を浮かべていた。何か不安なことがあったのかな?
「とりあえずニシノアサ草を栽培している農家の人まで案内しますね」
「よろしくお願いします!」
ボクはレーズィさんにそう告げて、ニシノアサ草を栽培している農家まで向かう。
「ここですよ! 一面のニシノアサ草畑! ここのニシノアサ草は良品で、帝都から注文が来ることだってあるんですよ!」
ボクは青々したニシノアサ草で覆われた畑を指さす。
「おおっ! それは期待できそうですねえ!」
「早速、出来上がっているニシノアサ草の繊維を買いに行きましょう!」
レーズィさんが感嘆の声を上げるのに、ボクがレーズィさんたちを農家さんの家まで連れていく。ヒビキさんはニシノアサ草に興味があるのか、十二分に見学しながらボクの後ろからついて来ていた。何か変わったことでもあったのかな?
「こんにちはー!」
「おや。リーゼちゃん。咳止め作りかい?」
「いいえ。今日はニシノアサ草でできた繊維を買いに来ました!」
ニシノアサ草農家の人は家族5名でニシノアサ草を栽培している。畑の面積としてはそれなり以上に大きい。もっとも全体で見ると、野菜や穀物などの食べれる作物を栽培している農家が多く、占める割合はそこまで大きくない。
というのも、開拓村では万が一の場合に備えて自給自足できることが望まれているからだ。もし飛行船が故障して飛行船の便が途絶えたり、荒れ地同然の道を通ってたまーにやってくる行商の人が途絶えたら、村は孤立する。
そういう場合に備えて、村では日ごろから食料を保存食にして貯蔵し、農家の人たちも食べられる作物を植えることが開拓局から推奨されていた。そのおかげでいまのところ、この村は飢饉などには見舞われていない。
「ニシノアサ草の繊維かい? 変わったものをご所望だね」
「ここにいるレーズィさんが土嚢を必要としてるですよ。その土嚢の材料にニシノアサ草が必要なんです!」
「へえ。どこかの川でも工事するのかい?」
「違いますよ。ゴーレムを作るんです!」
「ゴーレム?」
ううん。まあ、すぐには分かってもらえないだろう。
「便利な道具ですよ。それでニシノアサ草の繊維がいるんですが」
「それなら小屋にいっぱい干してあるよ。袋になってる奴もあるけどいるかい?」
「お願いします!」
というわけで、ボクたちはニシノアサ草農家さんちの小屋にゴー。
「ほら。この間、帝都から注文があったんだが、急にキャンセルになっちゃってね。そのせいで偉く余っちゃってるんだよ。キャンセル料は貰ったけど、この在庫はどうしようかって悩んでいたところだったんだ」
「じゃあ、ちょうどよかったですね」
小屋には繊維になったニシノアサ草が干されていた。これを編んで土嚢を作れば、レーズィさんのゴーレム開発計画も一歩前進だ。
「レーズィさん。どれくらい必要ですか?」
「とりあえず試作機を1機完成させたいと思っているので、1機分ですねえ。あのサイズの鎧だとこれぐらいでしょうか?」
レーズィさんが適当にニシノアサ草の繊維を指し示す。
「既製品の袋もありますよ」
「それを使うならこれぐらいですねえ」
小屋にはキャンセルになっただろう既に袋になったニシノアサ草の繊維も置かれており、ボクがそれを指さすのにレーズィさんが悩みながらニシノアサ草の繊維を選ぶ。
「これでおいくらぐらいです?」
「他ならぬリーゼちゃんの注文だし、割り引いて1500マルクでいいよ」
「ありがとうございます!」
ボクとレーズィさんは格安価格でニシノアサ草の繊維を売ってくれる農家さんに頭を下げる。普通ならこれだけの量だと4000マルクぐらいするからね。
「では、設計図とにらめっこしながら、袋を編んでいかないといけませんねえ」
「手伝いますよ! ちょうどボクも暇しているんで!」
エステル師匠はまだまだ承久ポーション作りに精を出しているだろうし、裏庭の拡張も終わったし、必要な素材もないし、今は特にやるべきことはないのである。
「助かりますよう。こういう作業は得意なんですが、量が多いですからねえ」
「頑張っていきましょー!」
そういうことでボクたちはニシノアサ草の繊維を抱えて家に帰った。
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帰宅。
エステル師匠は今も上級ポーション作りに精を出している。ボクは手伝わせてもらえないので、見ているだけになるけど、錬金術も見ているだけでは上達しないのだ。実際に作ってみなければ。細かな温度調整や、素材の薬効抽出は分からない。
幸いにしてボクも上級ポーションのレシピは覚えているので、後でエステル師匠が作らせてくれるなら、実際に作ってみて経験値を蓄積することにしようっ!
それはそうとレーズィさんのゴーレムに使う土嚢袋を編まなければ。
「織機はこっちですよ。ほとんど使わないんで埃被ってますけど」
うちには織機がある。やはり土嚢袋のような道具を縫うのに使っていた道具だ。村の防災のために開拓局が土嚢袋を募集したことがあって、その頃はポーションがあまり売れていなかった──というか村に来たばかりで素材の場所が分からなかった──ので、ボクたちは中古品の織機を買って開拓局に土嚢袋を納めていたのだ。
その時はエステル師匠がぶーぶー言っていたのを覚えている。
ポーションが売れるようになってからは使ってないので、物置に放置してあった。
「じゃあ、編み編みしましょうね。この糸状になったニシノアサ草の繊維を織り込んでいって布を作っていって──」
ボクとレーズィさんは糸をセットし、ペダルを踏んでガッチャンガッチャンとニシノアサ草の繊維を織り込んでいく。分厚くて固いニシノアサ草の繊維を織り込むのは結構苦労するけれど、楽しいと言えば楽しい。
「土嚢に入れる土はどうする?」
「そうですねえ。あまり砂利が混じっていないものがいいです。砂利が混じっていると動きがカクカクしたものになるでしょうし、コアに触れる部位はこれから開発する緩衝材を痛めないようにしておきたいですからねえ」
「理解した。先に集めておこう。君たちは土嚢袋を編むのを頑張ってくれ」
「はい!」
というわけで、ヒビキさんは土砂集めにいった。裏庭は今は畑になっていて土砂は採取できないから裏山まで行かないといけないな。ヒビキさんの体力なら台車に土砂をたっぷり載せても運べるだろう。
ボクたちはひたすらにニシノアサ草の繊維を編む編む。
うん。布はできてきた。後はこれを袋にするだけだ。
「レーズィさん。袋の大きさってどうします?」
「ええっと。パーツ毎に大きさを変えなくちゃいけないです。脚部の土嚢は細長いものを、胴体の土嚢はそのままで。これが設計図になります。大きさを書いておきますねえ」
「ふむふむ。意外と複雑そうですね」
ゴーレムは脚部からみっちりと土嚢を詰める。レーズィさん曰く、脚部が軽いとバランスが崩れて、ゴーレムが転倒する可能性があるそうだ。逆に上半身の方は軽くして、重心を調節するとのことであった。
なんだか設計図に書いてあるゴーレムは上半身と比較して下半身がズンと大きくて、バランスが悪いように感じられる。でも、レーズィさんはこれがちょうどいいバランスだと計算したらしい。難しいことはボクには分からない……。
「脚部って細くって言っても結構分厚いですよね」
「そうですねえ。ゴーレムに力仕事をやらせるとなると、重い荷物を運んだりしなければいけませんから、下半身は重い方がいいんですよう」
チクチクと土嚢袋を縫いながらボクが告げるのにレーズィさんが頷く。
「ところで、ゴーレムってどうやって動かしてるんです?」
「魔道具と同じ青魔術ですよう。ちょっと複雑な術式になりますけど、魔道具と同じように一回刻み込めば、それ以降は魔力を注いでやるだけでいいんです。魔道具よりもちょっと多めに魔力を消費するので、上級魔力回復ポーションが必要なんですけどねえ」
「ふむふむ」
魔道具を作ってる人たちも青魔術師だ。彼らは物質に術式を刻み込んで、熱を発する魔道具や冷気を発する魔道具を作るという。青魔術師は主に工業地帯にいるので、ボクは実際にどのようにして魔道具を作っているかは知らない。
ただ、これだけ便利な魔術を使える人たちなのだから、とても賢いなのだろうとは思っている。錬金術に劣る白魔術師なんかと違って!
「できたー! これでいいですかね?」
「はい! 大きさも揃っているし、ちょうどいいバランスになりますよう!」
そんな話をしている間に土嚢袋が完成した。並べてみると人の半身の形になっているのでちゃんと設計図通りだ。
「後は土砂を詰め込むだけですね」
「ヒビキさんは戻って来たでしょうか?」
ボクたちは土嚢袋を抱えて、物置を出る。織機にはこれ以上埃を被らないようにシートを被せておいた。また使うかもしれないからね。
「リーゼ君、レーズィ君。土砂を集めてきた。なるべく小石などが少ないものだ」
「おおっ! ありがとうございますよう!」
ヒビキさんは台車でこんもりと土の山を作っていた。ちょっと湿っていて、レーズィさんの注文通りに小石などはほとんどないものだ。やっぱりヒビキさんは力があるな。
「では、土嚢袋に土を詰めて」
「手伝おう」
ボク、レーズィさん、ヒビキさんで土嚢袋を土でいっぱいにして土嚢を作っていく。出来上がった土嚢は土で膨れて、いよいよ人の形になって来た。
「後は外装の完成を待つだけですね」
「はい! 楽しみですよう!」
外装に詰める土嚢は完成。
後は外装が完成するのを待つだけだ。
外装は鍛冶職人さんに聞いたところ、3、4日後には完成するそうなので、3、4日後には完成したゴーレムのお披露目となるだろう。
人間大のゴーレムがどんなものになるか、今から楽しみだ!
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