錬金術師さんと新パーティー
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──錬金術師さんと新パーティー
レーズィさんの歓迎会から一夜が明けた。
今日はエルンストの山で苗集めだ。ついでに、上級魔力回復ポーションを必要としているレーズィさんのためにユウヒノアカリ草も回収しなければならない。ユウヒノアカリ草は群生地がまばらだから集めるのは大変だ。
それに、今エルンストの山ではお化け魔狼探しが始まっている。
暇な冒険者の人たちは懸賞金目当てに捜索してるけど、今のところお化け魔狼が見つかったという報告は入っていない。ボクたちが見たのは幻じゃないはずだから、どこかに潜んでいるはずなんだけどなー。
まあ、何はともあれ、冒険者ギルドにいかなければ。
「この村にも冒険者ギルドがあるのですねえ」
「そうですよ。何せ、開拓村ですからね!」
ボクは早朝でぼんやりしているレーズィさんを連れて、ヒビキさんと一緒に冒険者ギルドヴァルトハウゼン村支部に向かった。
早朝のためかいつもより人が少ない。農家の人はもう働き始めてるけど、冒険者の人たちはそこまで早起きではないのだ。害獣駆除を依頼された人なんかは早朝に動き出す害獣に合わせて行動するけど、他は昼でもできる仕事だし。
「こんにちは、クリスタさん! 今日は新人さんを連れてきましたよ!」
「ええ。オスヴァルトさんから話は聞いています。シュトレッケンバッハの山のダンジョンで生活されていた青魔術師の方だとか?」
「そうです、そうです。レーズィさんって言います。こちらの方です」
もう話は通っていたようだ。クリスタさんはレーズィさんをカウンターに出迎える。
「ようこそ、北部冒険者連盟ヴァルトハウゼン村支部へ、レーズィさん。青魔術師の方は帝都などの工業地帯で魔道具の作成に関わられますので、冒険者になられる方は稀です。ギルドとしても歓迎いたします」
「どうもです」
青魔術師の冒険者の人ってあんまり見かけないもんね。みんな安全な工業地帯で魔道具を作ってる方がいいって思ってるみたい。
「しかし、シュトレッケンバッハの山のダンジョン、ですか。シュトレッケンバッハの山ではここ最近ゴブリンのゾンビが目撃されるなどの情報が寄せられていましたが、それとは一切無関係ですね?」
「は、はひっ! 無関係ですよう!」
思いっ切り挙動不審になるレーズィさん。余計に怪しまれるよ……。
「いろいろと聞きたいことはあるのですが、せっかくの新人冒険者を逃すようなことはしたくありません。この村にやってくる新人冒険者の数はそう多いものではないのですから。それに我々は“あなたが黒魔術師であることを把握していません”ので」
クリスタさんらしいやり方だ。自分たちは黒魔術師だと知らずに登録したのだから、後になってそれが発覚しても冒険者ギルドの責任じゃないと。規則には本当に律儀というか、融通の利かない人だな。
「では、登録手続きを始めましょう」
クリスタさんとレーズィさんが冒険者登録手続きを始めたので、ボクとヒビキさんはクエスト依頼掲示板を眺める。
「ふむ。今度はシカの農作物被害か。森の生態系が崩れているのだろうか?」
「どうでしょう。去年の冬は特に寒かったから、森の実りが少なったかのかもしれないです。後はレッドドラゴンがいなくなって、低位魔獣がうろうろするようになったから、安全な人里まで野生動物が下りてきているのかも?」
クエスト掲示板には害獣駆除依頼や収穫の手伝いを募集するクエスト依頼書が貼りだされていた。山菜取りの護衛の依頼もある。
「ん? 聖ペトロのお祭りの準備?」
「ああ。もうそんな時期ですね。お祭りですよ、お祭り! 6月に行う有名なお祭りで、ボクたちの村でも盛大に祝うんです。ちなみに聖ペトロは最初に白魔術を神ジーオから授けられた人なんですよ。知ってました?」
「いや。別のイメージが思い浮かんでいた」
別のイメージって何だろう?
「白魔術のお祭りとも言われてますけど、ボクとしては許せませんね。白魔術は商売敵ですし! でも、お祭りそのものは好きですよ! バーベキューパーティーなんかもやりますからねっ! ヒビキさんの世界ではどういう日にお祭りしてました?」
「ふむ。この時期に祭りはないが、来月になれば七夕のお祭りがある」
「それってどんなお祭りなんです?」
「祭りそのものは竹に願いことを書いて下げたり、照明やデコレーションで街を飾ったり、花火を上げたりする祭りだ。星座に関係する祭りで、星々を離れ離れになった恋人たちに見立てて行われるものだった。あまり関心がなかったので詳しくはないが」
ふむふむ。星座に関わるお祭りなんかもあるのか。世界は広いな。
「おい、ヒビキ」
などと、やっていたら後ろから声が。
「今日もクエストか? 付き合わせろ」
「構わないが、今日はレーズィ君も一緒だ」
声をかけてきたのはユリアさん。相変わらず“黒狼の遠吠え”はさぼりみたい。お金稼がなくていいのかなー?
「青魔術師とは正式にパーティーを組むのか?」
「それはレーズィ君次第だ。彼女が組むことを拒否しなければ組みたいと思っている。彼女は話で聞く限り凄腕の魔術師であり、魔術についてのいろはを知っているようだからな。学びたいことはいろいろとある」
「ふむ。お前はいまいち積極性に欠けるな。他のパーティーに取られる前に確実に確保するように動くべきだぞ。私にしてもそうだ。他のパーティーから奪ってでも、自分のパーティーを強化するべきだ。生き残りたいならば」
「それは不和を招く。ここは狭いコミュニティーだ。これから“黒狼の遠吠え”とは何かの折に協力することになるかもしれない。そういうときに不和があると、それこそ命取りになりかねないだろう。互いにとって」
ユリアさんがヒビキさんに勧誘されたがっているみたい。ヒビキさんが強いせいか、ユリアさんが滅茶苦茶惹かれてるんだよね。やっぱり逞しい男の人はいいよー。開拓局のハンスさんももうちょっと身ぎれいにして鍛えたらモテるのにさー。
「そこまで言うならば無理は言わない。だが、私が暇なときは誘ってくれ」
「喜んで。君のような熟練の兵士ならば歓迎する」
「兵士ではない。狩人だ。兵士は上官の命令を重視するが、狩人は自然を重視する。兵士たちは些細な自然の変化に気付かずに痛手を被ることがあるが、狩人はよく自然を観察して適応する。一緒にするな」
「すまない。では、君は優れた狩人だ」
ユリアさんってちょっと気難しいよね。山育ちのせいだろうか。
「ヒビキさーん! 登録できましたよう! パーティーを組みましょう!」
ユリアさんと喋っている間にレーズィさんの登録が終わったみたい。ヒビキさんが心配する必要もなく、レーズィさんはヒビキさんとパーティーを組む気満々だ。
「では、パーティーを編成しよう。正式なパーティーと臨時のパーティーは違うと聞いている。クリスタに聞いてみよう」
ボクもパーティーを結成する瞬間は見たことないから興味あるな。
「クリスタ。正式なパーティーを編成したい。どうすればいいのだろうか?」
「こちらでパーティー編成手続きを行います。この用紙にパーティーの氏名とパーティー名を記入してください」
「理解した」
最初にヒビキさんが名前を記し、続いてレーズィさんが名前を記す。
「それで、パーティー名だがレーズィ君は何か意見があるだろうか?」
「ええっとお。私は特にアイディアはないです」
「ふむ。そうなると俺が決めることになるな」
ヒビキさんたちのパーティー名は何になるんだろう?
レッドドラゴンを倒したから“竜殺しの雄叫び”とか!
「では、チーム・アルファで登録しよう」
「ええーっ!?」
何それ! 全然カッコよくないよ!
「これでいいだろうか、レーズィ君?」
「構いませんよう。あまり目立ちたくもないですからねえ」
いやいや! カッコよくはないけど、地味すぎて逆に目立つよ!?
「ヒビキさん、ヒビキさん。別の名前にしません? ちょっと変ですよ?」
「そうだろうか」
「そうですよ。もっとこう“炎竜の顎”とか“鋼鉄の鉄槌”とか“竜殺しの咆哮”カッコいい名前にしましょうよ!」
「う、うーむ。いまいちそういうものは……」
えー。こっちの方がカッコいいと思うのにー。
「この名前もなかなかいいと思うのだが。最初を意味するアルファ。この地にやってきた最初の日本情報軍の兵士として、最初という意味合いを持たせるのもいいだろう。それにこれならばはぐれた仲間たちが見ても、すぐに俺の世界のものだと分かる」
「そうですか……」
チーム・アルファかあ……。なんだかへんてこりんな名前になっちゃったな。
「チーム・アルファですか。アルファというのは以前にも使われていますね。今からおおよそ65年前ですが。記録にあります」
「ふむ。ということは俺たちは使用できないだろうか?」
「いえ。既にそのパーティーは解散しているようなので、構いません。これで受理してよろしいですね?」
「頼む」
65年前の記録まで残ってるんだ、冒険者ギルドって。
しかし、アルファって名前を使っていたのは誰なんだろう?
「65年前か……。あの認識票の男だろうか。65年前と言えばベトナム戦争の真っただ中だ。こちらに来て、俺と同じように冒険者になり、そしてここで死んだのか?」
ヒビキさんは考え込むように腕を組んでいた。
「はい。これで手続きは完了しました。では、これからの活躍に期待します、チーム・アルファの皆さん」
「名前に恥じないだけの仕事はするつもりだ」
まあ、何はともあれこれでヒビキさんもパーティーメンバーをゲットだ。まだふたりだけだし、レーズィさんはちょっとぼんやりしてて頼りないところがあるから、これからもっとパーティーメンバーを増やしていけるといいね。
「では、早速エルンストの山の採取クエストを依頼しますね!」
「リーゼ。特定のパーティーにクエストを斡旋することがこれ以上ないようにと言いませんでしたか?」
「ま、まあ、これはヒビキさんのパーティーの結成祝いということで……」
また叱られるボクである。でも、ヒビキさんたちに任せたいし!
「では、クエスト依頼を受け付けます。手続きを行いましょう、リーゼ」
「はい、クリスタさん!」
というわけで、今日はエルンストの山の素材採取に出発だー!
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