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錬金術師さんと軍人さんの初めてのパーティー

…………………


 ──錬金術師さんと軍人さんの初めてのパーティー



 ボク、ヒビキさん、ユリアさんの3人はラインハルトの山にやってきた。


 今回は討伐任務じゃないので、3人とも低級魔獣除けポーションを使用。


「とりあえず、何を集めたらいいんだ?」


「そうですね。まずはキタノスズメ草の苗を確保したいですね。これは日ごろから痛み止めのポーションとして需要があるので。後はヨルノナミダ草の苗も確保しておきたいです。これは中級疲労回復ポーションの材料になるんですよ。それから、それから──」


 ラインハルトの山の恵みはとっても豊富だ。薬草だけで10種類以上。木の実となるとこれまた10種類以上はある。いくつかは庭で育てるのは難しいけれど、かなりの数を裏庭で育てる予定だ。裏庭も大きくして、いろいろと植えるのだ!


「しかし、それだけのものを全て揃えられるだろうか」


「まあ、ある程度群生している場所は把握しているのでご安心!」


 ラインハルトの山は昔はレッドドラゴンがいたからそこまで探索できず、こそこそと位置を把握して採取したら速攻で脱出するということをやっていので、どこにどんな薬草や木の実があるかは把握済みだ。


「というわけで、レッツゴー!」


「うむ」


 そして、ボクたちはラインハルトの山を進んだのだが──。


「あのー……。ヒビキさんもユリアさんも機嫌悪いんですか?」


 ふたりがびっくりするほど無口なのだ。ヒビキさんはナイフをに抜いた状態で周辺に目を走らせているし、ユリアさんはいつでも矢を番えられる姿勢で同じように周囲に目を走らせている。会話は皆無だ。


「いや。そのようなことはないが?」


「別に」


 う、このふたりに挟まれているとプレッシャーを感じる……。


「そ、そうだー。お昼ご飯はお弁当を作ってきたんですよ!」


「そうか。ありがたい」


「そう」


 も、もうちょっと会話を膨らませる努力を!


「おかずとか気になりません?」


「リーゼ君の作ったものなら心配ない」


「腹が膨れるなら何でもいい」


 ダメだ。会話がまるで弾まない。


「な、なんと今日はお肉ですよ! 前に出たイノシシを駆除した際のお肉ですけど、香草で臭みを抜いて、シンプルに塩と胡椒で味付けしたものをパンに挟んであるんです。きっとジューシーで美味しいですよ」


「期待しよう」


「うん」


 ひょっとしてボクってばふたりに何か悪いことした?


「それから──」


「静かに」


 ボクが無理やり会話を続けようとした時、ヒビキさんが制止した。


「聞こえたか、ユリア君?」


「聞こえた。魔狼の足音だ。奴らのテリトリーらしいな」


 げっ! また魔狼!? というか、ボクには何も聞こえなかったんだけど!


「3方向から、数はそれぞれ4体ずつ。ユリア君、君はリーゼ君の護衛についてもらえるか。この森ではリーゼ君を避難させる場所がない」


「了解した」


 ヒビキさんはナイフを構え、ユリアさんは弓を構える。ボクは頭を押さえてしゃがみ込む。いや、錬金術師は基本的に戦闘力はないからね?


「来るぞ──」


 ヒビキさんが告げるのに魔狼の群れが現れた!


「援護は必要か?」


「いや。この数ならば大丈夫だ。君はリーゼ君の身を」


「ならば、お手並み拝見だ」


 ユリアさんが告げるのに、ヒビキさんがジリッと地面を踏みしめてそう返した。


「全く。銃火器がないのが困りものだ。銃火器がなければこの手の獣は人を殺せるポテンシャルを有しているというのに」


 ヒビキさんはそう言いながらも、飛び掛かって来た魔狼の1体に回し蹴りを叩き込み、そのままの勢いで別の魔狼の喉を裂く。


「ひえっ!」


「じっとしていろ。守りにくくなる」


 目の前に魔狼の死体が飛び込んでくるが、ユリアさんは冷静沈着にボクたちめがけて進んできた魔狼に矢を放つ。矢は的確に魔狼の瞳を射抜き、魔狼はキャンと甲高い悲鳴を上げて、地面に崩れ落ちていく。


「片付いたな」


「うん」


 戦闘開始から3分も経たない間に魔狼の群れは屍を晒すだけになった。


「お前、凄いな。そんな小刀で魔狼とやり合うなんて」


「そちらこそ、弓矢で狼を仕留めるのは初めて見た」


「それは嫌味か?」


 ユリアさんが感心したように告げるのに、ヒビキさんがそう返す。


「嫌味などではない。純粋に感心している。俺の聴覚はナノマシンで補正されているが、そちらは生身。手足も生まれ持ってのものだ。よく戦えるな」


「山育ちならこれぐらいは当たり前だ。やはり嫌味か?」


「山育ちだからという理由で説明が付くことなのだろうか……」


 ボクも山育ちだからという理由で魔狼を次々に射殺せる人はいないと思う。


「それにしても、レッドドラゴンを蹴り殺したというのは本当だったんだな。出まかせかと思っていたが、魔狼の頭がはじけ飛んでいるなんて初めて見た。どんな鍛え方をしたらそんな脚力が付くんだ?」


「複雑な事情がある。これは義肢だ。俺本来の足ではない。だからだ」


「義肢? 手足を失って義肢をした冒険者は見たことはあるが、普通は生身の足より動きが鈍くなるものだぞ。嘘を吐くな」


「嘘ではない。触ってみれば分かる」


 ヒビキさんがズボンの裾を引き上げるのに、ユリアさんが無造作に拳でヒビキさんの足を叩く。すると金属音が響いた。人間を叩いた時に上がる音じゃない。


「本当に義肢か……。金属製の義肢とは珍しい……」


「分かってもらえただろうか?」


 ユリアさんが目を丸くするのにヒビキさんがそう告げる。


「義肢であの動きとはお前は本当に凄い奴だな。どこで武術を習った?」


「軍にいた。いや、今もいるというべきか。そこで教わったことを応用している」


「そうか。私は親から教わった。弓の使い方、短刀の使い方、獲物の捌き方。だが、やはり本職の軍人には及ばないようだな。所詮は我流か」


 ユリアさんはワイルドだなー。


「そんなこともあるまい。君の聴覚は聴覚を補正している俺の聴覚と同じように狼の群れの足音を聞きつけた。常人を超えるというコンセプトで“作られた”俺のようが軍人と同じことができるだけ凄まじい。この世界の冒険者はみんな君のようなのか?」


「ふむ。A級ともなれば同じ芸当をやってのける奴はいるだろう。だが、B級ではそこまでの数はいないはずだ。山育ちはあまり冒険者にはならない。他人とつるむのは稀だ」


 山育ち、山育ちっていったい何なんだろう。ボクには分からないよ……。


「では、今回はクエストに付き合ってくれて感謝しなければならないな」


「別に。レッドドラゴンを蹴り殺したという男の実力を見てみたかっただけだ」


 ヒビキさんが告げるのに、ユリアさんはそっぽを向いた。


「だが、お前は本当に強い。付き合って正解だった。新しい発想が得られた気がする」


「それならばよかった」


 このクエストの報酬はヒビキさんに任せるつもりだったから、そこまでの額はでないのだ。平均的なラインハルトの山の護衛よりちょっと下。B級冒険者でバリバリ稼いでいるユリアさんは付き合ってくれたのは、幸運なことである。


「では、薬草探しを続けようか、リーゼ君」


「はいっ!」


 今日はもう魔狼に襲われたから、これ以上魔獣に襲われることはないだろう。低級ながら魔獣除けポーションも使っていることだしね!


…………………


…………………


「ふう。集まった、集まった」


 ひたすらに薬草の苗を集めること3時間。


 ほぼラインハルトの山で採取できる低級、中級ポーションの材料は集まったと言える。後は3種類ぐらい集めればコンプリートだ。せっかくの機会なので、コンプリートしておきたいところである。


「リーゼ君。素材は集まっただろうか?」


「もうちょっとです! 夕方までには終わりますよ!」


 ヒビキさんが尋ねてくるのにボクはそう返す。


 とはいえど、倒したついでだし、そのままにしておくのももったいないと思って魔狼のポーションに使える部位も採取したから、大荷物になっているのだ。魔狼の部位も早く油に付けないと傷んで薬効が失われてしまうし、あまりのんびりはできない。


 できないのではあるが──。


「その前にお腹が減ったのでお昼にしましょう……」


「そうだな」


 ボクのお腹が空腹に小さく文句を告げるのにヒビキさんが頷いた。


 ヒビキさんとユリアさんは魔狼退治でボクよりも動いているはずなんだけど、お腹減らないのかな? 不思議だ。


「ユリアさん! お昼にしましょう!」


「了解した」


 相変わらず無口に周辺の警戒に当たっていたユリアさんに声をかける。


「では、お弁当をどうぞ!」


 ボクはヒビキさんとユリアさんにお弁当箱を渡す。


 ああ。イノシシ肉の香草焼きの香ばしい匂いがするー。


「今日のお弁当はミックスサンドです! イノシシ肉の香草焼きに、タマゴ、トマトとチーズと具のバリエーションは豊富です! 今回のクエストに付き合っていただいたお礼のようなものだと思ってご賞味ください!」


 ふふふ。今日はボク自慢のミックスサンドだ。シンプルだが、そのシンプルさが素材の味を引き立てるのです! このヴァルトハウゼン村は農作物が豊富! 養鶏家も少なくなく、新鮮なタマゴと野菜が手に入る!


 これが帝都の外れあたりだとボロクズみたいな野菜が高額で取引されてるんだから、たまったもんじゃないよね。ボクの発育が悪かったのは幼少期の栄養不足のせいだと思う。決して親から伝わったものではないはずだ。


「では、いただこう」


「はい! いたっだきまーす!」


 ボクたちはおしぼりで手を拭うとサンドイッチに食らいついた。


「ふむ。イノシシ肉というのは癖があると聞いていたが、これはそうではないな」


「香草のおかげですよ。この香草はポーションの材料にもなって、こうして料理に使うだけでもちょっとした疲労回復の術になるんです」


「医食同源というものか」


 ヒビキさんは納得したというようにサンドイッチに食らいつく。


 我ながらおいしい。上出来だ。ユリアさんからの感想の声が聞こえないけれど──。


「美味かった」


「もう食べ終わったんですかっ!?」


 既にユリアさんのお弁当箱は空っぽだった! 冒険者の人用って多めに作っておいたのに、あれだけの量をもう食べたの!?


「うむ。ごちそうさま」


「ヒビキさんも!?」


 ヒビキさんもボクが目を離した隙に完食していた!


「た、食べるの速すぎですよ! もうちょっと味わって食べてください!」


「錬金術師が作る飯は美味いと噂だったが本当だったと分かった」


 ユリアさんがそう告げるとまた弓を構えて周囲を探る。


「軍人として飯はなるべく急いで食べるように訓練されているんだ。申し訳ない。だが、リーゼ君の料理はとても美味しかったよ」


「そうですか。えへへ……」


 褒められると嬉しいものだ!


「それはそうとリーゼ君も急いでくれ。狼の素材は痛むのだろう?」


「はわっ! そうでした! むぐっ、もぐもぐ」


 美味しいご飯なんだけど急かされて食べると味わえないなー……。


「リーゼ君。お茶だ」


「ひゃりがとうごじゃいます。グビッ、グビッ」


 ボクがサンドイッチを喉に詰めそうになっているのにヒビキさんがお茶を差し出してくれた。ヒビキさんは本当に紳士な人だ。


「ぷはーっ! では、採取を続けましょうか!」


 予想外にお昼が早めに終わってしまったが、その分は素材集めに費やすのだ。


 頑張れ、ボク! ここで苗を集めれば、もうラインハルトの山には入らなくてよくなるかもしれないだからね!


 というわけで、ボクたちは素材集めのために再出発した。


…………………

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