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錬金術師さんと庭園の拡大

…………………


 ──錬金術師さんと庭園の拡大



「庭園の整備、ですか?」


 トールベルクの街に戻ってから2週間後のこと。


 ボクたちは南蛮漬けの材料になる低級体力回復ポーションを調味料寄りに作って、それをインゴさんのお店に郵送した。特許が取れたと連絡が来たのは1週間後のこと。


 それで、ボクたちは低級ポーションを作って、南蛮漬けやマリネの材料としてトールベルクにちょっとずつ出荷する。それからゾーニャさんの騎士団が買い取ってくれるらしい低級ポーションを出荷した。


 だが、やっぱり飛行船じゃ無理がある。一度に運べる量は少ないし、飛行船の便数は少ないし、飛行船だけじゃどうしたって運びきれない。増えた貯蓄は微々たるものである。もっともエステル師匠はインゴさんとの取引で大金をゲットしたので、当分は生活に困らないと言っているのですが。


 それで、そのエステル師匠が庭園を整備すると言い出した。


「庭園っていいうか裏庭の畑ですよね? あそこを整備するんですか?」


「そうだよ。ラインハルトの山は今は魔獣騒ぎだし、シュトレッケンバッハの山にはいつも魔獣がいる。それにエルンストの山にはお前さんが目撃したお化け魔狼の件で冒険者たちが捜索中だ。些か物騒だろう」


「物騒ですね」


 今、ヴァルトハウゼン村の3つの山はちょっと物騒なことになってる。


 ラインハルトの山はレッドドラゴンがいなくなったせいで、魔狼やゴブリン、果てはオークなんかも闊歩している。シュトレッケンバッハの山は前々から魔獣たちで満ちている場所だ。エルンストの山は魔獣は少ないけれど、この間のお化け魔狼の件がある。


 素材を取りに行くのも冒険者──ボクの場合はヒビキさんを指名で──を雇って、厳重に注意を凝らしてから進まなければならない。まあ、ヒビキさんがいれば魔狼の大軍に遭遇したってどうにかなるんだろうけど。


 けど、万が一の場合もあるのでヒビキさんに頼ってばかりもいられない。ヒビキさんは相変わらずソロで活動しているし、ソロの冒険者の死亡率は少なくないのだから。


「というわけで、庭園で栽培できるものについては栽培する。温度管理が必要なものに関しては温室を作る予定だ。ガラス張りの立派な温室をトールベルクの街の職人に依頼したから楽しみにしておけよ」


「おおーっ! 凄いですね!」


 ボクたちの家に温室ができるなんて! これで夏場にしか取れない薬草などが採取できるようになるわけだ。ボクたちとしては大助かりだよ!


「それから庭園──畑も拡張するぞ。いちいち森に入らないでいいように、需要のある腰痛、肩こりのポーションの材料や、低級、中級ポーションの材料なんかも栽培する。畑を広くするのは任せたぞ、馬鹿弟子」


「ええー!? こうときこそ冒険者の人を雇いましょうよ!」


 ひとりで畑を広くするなんて大変だよ!


「温室を作るだけで金がかかるんだ。無駄な出費は抑えたい。それに、お前さんは低級ポーションばっかり作ってて腕前が上昇する気配もないしな。ちょっとは泥にまみれて、自然の恵みのありがたさを感じることだね」


「はあい……」


 ここのところ低級ポーションばかりを作っていて、手慣れた作業であるために腕前が上昇した気配がしないのだ。もっと上級ポーションとか作らせてくれたらいいんだけど、上級ポーションは素材も高価だから、そう簡単には実験には使えない。


「帰ったぞ、リーゼ君、エステル」


 そんな話をしていたらヒビキさんが帰ってきた。


 ヒビキさんは今日は農家さんの依頼で、早朝にイノシシ退治に向かっていったそうだ。イノシシは森の中で生活している分にはいいのだけど、魔獣に追われたりして麓に来ると面倒なのだ。イノシシは麓の畑を荒らして、農家さんの収入が減る。


 でも、確かにD級冒険者ならぐらいの依頼でいいだろうけど、レッドドラゴンをひとりで破ったヒビキさんがイノシシ退治をしているというはちょっとシュール。


「ヒビキ。冒険者の階級は上がったかい?」


「まだD級だ。もっと依頼をこなしていかないといけないようだ」


「それならあたしたちから依頼を出そうかね。裏庭あるだろう? あれを整備したいと思ってるんだ。手伝ってくれないかい?」


 おーっ! エステル師匠も最初からこのつもりだったのかな? これでヒビキさんの冒険者階級の上昇につながるし、ボクは楽ができるって寸法だ!


「構わない。むしろ、それぐらいなら無償で引き受けて構わないのだが」


「これもあんたの冒険者階級を上げるためだよ。いつまでもD級冒険者じゃあ、レッドドラゴンが墓場で恨んでいるぞ」


 レッドドラゴンは墓場に行くどころか、ボクたちに素材を毟り取られましたが。


「そういうことならば冒険者ギルドを経由しよう。だが、冒険者ギルドの階級を上げるにはもっと派手な仕事をしなければならないとクリスタに言われた。危険性の高いクエストを達成することで、より難易度の高いクエストを任されるそうだ」


「規則馬鹿のクリスタの言いそうなことだね。なら、ついでに庭園に植える薬草の苗を採取してきてもらえるかい。ラインハルトの山、シュトレッケンバッハの山、エルンストの山でそれぞれ特徴のある薬草が取れる。それなら難易度も高いだろう」


「なるほど。理解した。そうしよう」


 ラインハルトの山で採取できる素材と、シュトレッケンバッハの山で採取できる素材と、エルンストの山で採取できる素材はそれぞれ異なっているのだ。


 ラインハルトの山は痛み止めの材料にあるキタノスズメ草が豊富だし、シュトレッケンバッハの山は魔獣除けポーションの材料にあるオニノスズの実が良く取れる。そして、エルンストの山ではボクたちが特許を取った低級体力回復ポーションの素材であるシトリアの実が採取できるのだ。


 木から採れる素材でも1年ほど待てば成木になって実をならしてくれる。様々な木々も育てれば、家にいながらにして錬金術の素材が手に入るって寸法だ。


「では、まずはラインハルトの山からかかるか。どのようなものを採取すればいい?」


「そこは馬鹿弟子に詳しい話しを聞きな。あの庭園で育てられるものについて教えてやれるはずだよ」


 案の定、ボクが行くことになった。


 まあ、ヒビキさんとなら安心だけれど!


「では、行きましょうか、ヒビキさん! あっ、これも冒険者ギルドを通しておいた方がいいですかね?」


「当たり前だろう。そもそも、ヒビキの冒険者の階級を上げるための仕事だぞ」


 てっきり抜け落ちていた。


 では冒険者ギルドに依頼を出しにゴー!


…………………


…………………


「ラインハルトの山での素材集めですね」


 いつものようにカウンターにはクリスタさんがいる。


「それならばD級冒険者でも受けれる仕事でしょう。ですが、まだパーティーを組まないのですか、ヒビキさん。何度も申し上げているように万が一の場合があった場合、ソロでは危険が大きくなるといことを理解されていますか?」


「理解している。近いうちにパーティーを組む予定だ」


「それは1ヵ月前にも聞きましたよ。早くパーティーを組んでください」


 あー。ヒビキさんがクリスタさんに怒られてる。


「いや。しかし、パーティーを組むとなるとそれなりに信用のおける人間と組みたい。練度不足で目の前で死なれたりしたら目覚めが悪い。報酬についても揉めないようにしておきたい。それから──」


「そんなことを言っていたら一生パーティーは組めません。妥協してください」


「う、うむ。考えてはおく」


「考えるのではなく実行してください」


 流石にヒビキさんもクリスタさんには押されがちだ。


「だが、パーティーを組むのは義務ではないのだろう? もう少し冒険者の階級が上がれば、危険度の高いクエストを受けることにもなるだろうから考えるが、D級冒険者の仕事と言えばちょっとした害獣駆除や山菜取りの手伝い、収穫の手伝い程度だ。そんなにパーティーを組むような危険なクエストはない」


「D級の依頼とはいえど何が起きるか分かりませんよ。この間はE級の依頼でケルピーと交戦なさったと報告していたでしょう。ケルピーは通常C級冒険者のパーティーが討伐するものです。それがE級の依頼でできたということの意味はお分かりでしょう?」


「うむ。予想外の危険があると言いたいのだな」


「そうです。冒険者が単独で犠牲になれば、その捜索に時間がかかります。加えて今回のように依頼主を護衛するケースだと、依頼主が犠牲になる可能性もあります。そのようなリスクを考慮されているのでしょうか?」


「……確かにその通りだ。パーティーを組んだ方がいいのかもしれない」


 クリスタさんの攻撃を前にヒビキさんがどんよりする。


 けど、ヒビキさんをやっつけられるような魔獣も山賊もいないと思うけどな。だって、ヒビキさんってば素手でレッドドラゴンを殺すような人だよ? 魔狼やゴブリンの群れに囲まれても無傷で鏖殺する人だよ?


 クリスタさんはちょっと心配性なのかもしれない。


「では、聞きたいのだが、パーティーとは一時的に編成して、クエスト終了後に解散するようなこともできるのだろうか?」


「信頼の面からあまり推奨されてはいませんが、可能です。臨時にパーティーを編成されたいというわけですか?」


「ああ。リーゼ君をエステルから預かっている身としてはその安全に細心の注意を払うべきだと思い知らされた。1、2名でいいので冒険者と組みたい」


 ほへー。臨時パーティーかー。それってパーティーメンバーに欠員が出たときにやるようなことじゃなかったっけ?


 それにしても、ヒビキさんがボクのことを思っていてくれて嬉しいよ! ボクの身の安全のためにわざわざパーティーを編成してくれるなんて!


「では、パーティーメンバーが揃いましたら、登録にお越しください。それで、リーゼ。依頼の方は早速貼りだしますか?」


「ヒビキさんの準備ができてからにします!」


 ヒビキさんに頼むつもりだからね。ヒビキさんの準備ができてなきゃ!


「リーゼ。依頼を特定の人物にばかり斡旋されるのも困るのですが。もちろん、あなたとヒビキさんが親しい関係で彼に信頼が置けるのは分かります。彼はレッドドラゴンを単独で討伐した人物でもあることも。ですが、ラインハルトの山の素材集めの護衛程度でしたら、他の冒険者でも行えるのですよ」


「う、うん。考えてみるよ」


「考えるのではなく実行してください」


 クリスタさんはボクにも厳しい……。


 確かに冒険者ギルドで特定個人を指定するようなクエストばかり貼りだしていたら、他の人に依頼が回らなくて迷惑するのは分かる。でも、今回のクエストはヒビキさんの冒険者階級を上げることも含めた依頼なのだ。なので他の人には譲れない!


「こ、今度からはちゃんと他の人も参加できるようなクエストにしますから! 今回の件は勘弁していくださいっ!」


「次回からはちゃんとそうしてくださいね」


 ま、まあ、次回も多分ヒビキさんに任せることになると思うけどね……。


「クリスタ。パーティーメンバーを募った。ひとりだが、参加してくれるそうだ」


「そうですか。では……ユリアさん?」


 ヒビキさんが連れてきたのは“黒狼の遠吠え”のパーティーメンバーであるはずの、ユリア・ヤンセンさんだった。この間ボクたちがレッドドラゴンの素材を採取するときに、ずっと周囲に睨みを利かせていた弓使いの人だ。


 冒険者らしく鍛えられた体つきなのは分かるけど、身長は結構低い。多分、150センチくらいかな? ボクが140センチなのでボクより頭半分ほど背が高い。


「ユリアさん。“黒狼の遠吠え”の方はどうなさったのですか?」


「遠征中だ」


「同行はしなかったのですか?」


「しなかった」


「理由を聞かせていただいてもいいですか?」


「実際は遠征という名のデートだからだ。最近レベッカとミルコが付き合っている。邪魔したくはない。そして、リオはリオで女を女を引っかけにトールベルクにいった。だから、私は暇だ」


「なるほど」


 なるほどなの!? うちの村のエース冒険者パーティーが呆けてるんだけど!? デートとナンパって、冒険者らしいことしてくださいよ!


「それでユリア君とパーティーを組みたいのだがいいだろうか?」


「構いません。臨時編成のパーティーですので。ユリアさんもよろしいですね」


 クリスタさんが尋ねるのに、ユリアさんがコクリと頷いて見せた。


「それじゃ、依頼の方もお願いします!」


「はい。ラインハルトの山の素材集めの護衛クエスト、確かに受領しました」


 クリスタさんはカリカリとクエスト依頼書を記すとヒビキさんに差し出した。


「これはそちらで受けられるということでいいですね?」


「ああ。引き受けた」


 というわけで手続き完了!


「それではよろしくお願いしますね、ユリアさん!」


「うん」


 ボクが告げるのに、ユリアさんが一言頷いた。


 というわけで、ボクたちは3人でラインハルトの山に向かうことになった。ヒビキさんにとっては初めてのパーティーだけれど上手くいくかな?


…………………

明日より1日1回更新となります。

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