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錬金術師さんと飛行船

…………………


 ──錬金術師さんと飛行船



 ついに街にポーションを売りに行く日が訪れた!


 目玉商品はエステル師匠お手製の上級ポーションの数々! レッドドラゴンの素材をふんだんに使った品々だ。レッドドラゴンの無傷だった鱗もついでに売り払ってしまう予定である。ヴァルトハウゼン村にいる冒険者さんたちはレッドドラゴンの鱗のでできた鎧という高級な品を手にするほど裕福な冒険者じゃなかったので。


 ボクの方もこの間のオークなどを倒してできたポーションや、低級体力回復ポーション漬けの南蛮漬け──面倒くさいので以後、南蛮漬け──を準備し、ついでにボクが作った上級体力回復ポーションを手にする。


「ここが飛行船乗り場ですよ、ヒビキさん」


「ふむ」


 ボクたちがいるのは村の名もなき丘の上に設置された飛行船の離発着場だ。ここには一応整備施設もあるのだけれど、整備員はいない。整備員を駐留させるような場所じゃないってことだよ。ふんだっ!


 いずれこの村も大きくなったら飛行船の便数も増えて、離発着場も拡大されるのだろう。そうなると帝都まで気軽に遊びに行けるようになるかもね。


「馬鹿弟子。忘れ物はないか?」


「ないです!」


 準備万端だよ、エステル師匠!


「ヒビキの方は本当にその恰好で行くのか?」


「ああ。俺以外にこの世界に来た人間がいれば、この服装を見れば分かるはずだからな。そこまでおかしいものだろうか?」


「そりゃ変だろう。そんな砂埃みたいなまだら模様の服を着ているのは、この世界でもあんたぐらいだと思うぞ」


 ヒビキさんはこっちにやってきたときに纏っていたまだら模様の服。エステル師匠が言うみたいに砂埃を浴びたみたいな茶色のまだら。ヒビキさんが言うには迷彩服というそうだけど、こんな変わった服を異世界の軍人さんは着ているんだね。


 だけれど、ヒビキさんの仲間を探すのにはもってこいの服装なのかもしれない。こんな変わった服を纏っているのは、ヒビキさんとその仲間ぐらいだ。一緒に“とくしゅさくせんしよーのゆそーき”でこっちの世界に来ているなら、見つけてもらえるかもね!


「そろそろだな」


 エステル師匠がそう告げて地平線の向こうを眺める。


 すると向こうからするするとした速度で飛行船がやってきた!


 飛行船は大きなどんぐりのような船体に小さなゴンドラを下げている。見た目は大きいけれど、実際に運べる人や荷物の量は小さいので、今回も大所帯大荷物とはいかない。街に行くのはボク、エステル師匠、ヒビキさんの3人だけだ。


 そして、泊りでもなく日帰りで!


 朝一に出発して、夕方も便で帰るのだ。結構なハードワーク……。でも、トールベルクの街で宿を取ったり、1泊するだけの荷物を運ぶだけでもお金がかかるからなー。


 早く街道できないかなー。村、発展しないかなー。


「飛行船と聞いたが本当に飛行船とはな……」


 ヒビキさんが感心したような、呆れたような微妙な表情で頭上に迫った飛行船を見上げている。ヒビキさんの世界には飛行船はないのかな?


「ヒビキさん、ヒビキさん。あの船体には空気より軽い特殊なガスが詰まってるんですよ。水の中で空気を出すと浮かびますよね? あれって水よりも空気が軽いからなんです。それと同じで空気より軽いガスが詰まっている飛行船は飛ぶんです」


「ああ。知っている。思っていたのとは違っていたが」


 なんだい。ヒビキさんの世界にも飛行船はあったのか。せっかくボクの知識を披露する機会が訪れたと思ったのにさっ!


「あれには、その、魔術とかは使われていないのか?」


「飛行船に魔術ですか? 製造過程ではいろいろと使うそうですけど、乗る分には使いませんよ。使うのは何を隠そう錬金術です! あの飛行船を浮かべているガスは錬金術で作られるんですよ!」


 ふふん! ヒビキさんの世界の便利なナノマシンにだって飛行船は浮かべられないだろう! 勝ったぜっ!


「錬金術とは何でもありなんだな。流石は化学の基礎になっただけはある」


「かがく? 学者さんは人の魂の在り方はどうだとか論じたりするだけですよ?」


「それは哲学だな。化学というのは錬金術の仲間のようなものだ。俺たちの世界では錬金術の先に化学があった。錬金術の知識はある意味では化学の知識となる」


「ほえー」


 よく分からないや。化学より錬金術の方が絶対に便利だとは思うけどね。


「さあ、乗るぞ。ちんたらしていると置いていくからな」


「ラジャ!」


 ボクたちは飛行船が着陸したのにタラップを駆け登る。重たい荷物はヒビキさんが持って行ってくれているので、ボクたちはとっても楽をしている! ……なんだか、ヒビキさんにちょっと申し訳ないのだけれど、ヒビキさんは気にしないでくれって言ってくれているからなー。


 ご厚意に甘えちゃおう!


 こういうときに男の人がいると本当にいいよね!


「飛行船、間もなく離陸します。お客様はお荷物を台座に固定し、シートベルトをしてお待ちください。繰り返します──」


 持ってきたポーションや南蛮漬けの入ったカバンはヒビキさんがしっかりと飛行船の荷物格納庫まで運んで固定してくれた。荷物のサイズによっては飛行船のバランスが崩れるそうなので、いろいろと大変なのだが、ヒビキさんは文句の一言も漏らさずに黙々と作業していた。


 うーん。まだヒビキさんはうちに泊めてもらっていることに恩義というのを感じているのだろうか。むしろこっちがレッドドラゴンから助けてもらって恩義を感じているんだけどなー。こうして街に出かけられるものヒビキさんのおかげだし!


「リーゼ君は窓際の席がいいだろう」


「はい! 窓際がいいです!」


 席も窓際を譲ってくれた! 飛行船の窓から眺める景色は最高なのだ!


「飛行船、離陸いたします。シートベルトは客室乗務員のアナウンスがあるまで外さないでください。繰り返します──」


 ふわりと飛行船が宙に浮く。この感触がたまらない!


「ほら、ヒビキさん。ここから見るとヴァルトハウゼン村って本当に小さいですよね」


「ああ。まだまだ小さな村だな」


 空から眺めるヴァルトハウゼン村は小さな村だ。畑がずうっと広がっている以外は山に囲まれ、建物はちょっとしか建っていない。開拓局も冒険者ギルドもここから眺めると玩具の家みたいに見える。我が家なんて隠れちゃって見えやしないよ。


「ヒビキさんはヴァルトハウゼン村はこれから大きくなると思います?」


「その余地はあるんじゃないか。森の手入れが進めば、重要な資源の宝庫になる。そうすればリーゼ君たちのような錬金術師たちを誘致する産業に繋がるだろう。冒険者ギルドでもよくよく森の魔獣退治を依頼されるから、方向性としてはそのようだろうしな」


「うー。商売敵が増えるのは嬉しくないですねー」


 ヴァルトハウゼン村の錬金術師はボクたちだけでいいや!


「何か他に産業ってないですかね?」


「畑の開墾は進んでいるようだが。この世界の農業は手作業なので畑の面積に応じた人間の数も多くなる。それで食べていけるのかは分からないが、農業という点でも成長の余地は残っているだろう」


「ん? ヒビキさんのところでは農業って何でやってるんです?」


「機械だ。トラクターなどの農業機械で行われている。最近ではドローンを使って農薬を散布することもある。それに都市部では食品工場が豊富になりつつあるな」


「しょくひんこーじょー?」


「建物内で全ての環境整備を機械が行う農業の一種だ。遺伝子操作した作物は自然環境化でどのように変化するか分からないから、繁殖力を高めたものなどは全て食品工場で生産されている。自動的に日光を取り込み、自動的に水を撒き、自動的に土壌の成分を調整するシステムだ」


「ほへー」


 もうわけが分からないや。けど、建物の中で作物が育つなんて凄いなあ。


「ヒビキ。そんな手間のかかったやり方で採算は取れるのかね。酷く金のかかりそうな話じゃないか。農業ってのは自然に任せる部分があるからこそ、リスクもあるがメリットもあるものだと思うんだがね」


「ああ。遺伝子操作された品種とナノマシンが生み出されるまではあまり採算が取れない事業だったと聞いている。だが、遺伝子操作されて低い栄養素でも丈夫に育つ品種が生み出されてから、そしてナノマシンで土壌環境を整備できるようになってからは採算が取れているそうだ」


「へえ。大胆な品種改良だね。その“いでんしそうさ”って奴は」


「もちろんリスクも皆無ではないがね」


 エステル師匠はヒビキさんの話が分かっているのかな? ボクにはさっぱりで置いていかれた気分だよ!


「あっ。ヒビキさん、ヒビキさん。あれがファルケンハウゼン子爵閣下の城ですよ。立派──とはいいがたいですけど、何かあった時には頼りにする場所なんです」


「ふむ。そのファルケンハウゼン子爵という人物は自分の城の上空を飛行船が飛ぶことを許可しているのか?」


「ええ。ヴァルトハウゼン村からトールベルクの街までの最短距離上にありますから。何か問題でもあります?」


「いや。軍事施設の中をこうして民間人に覗かれるのはあまり気分が良くないのではないかと思っただけだ」


 うーん。上空から眺めてもどうにかできるわけじゃないしなあ。


 一度、飛行船から爆裂ポーションを投下して敵地を攻撃って方法が発案されたそうだけど、それは飛行船の高度が高いと明後日の方向に落ちていくし、低すぎるとバリスタで簡単に撃墜されるからってことでダメになったはずだし。


「街道! ここまでは街道が伸びてるんですよね。もうちょっとで村まで届くのにー」


 街道はファルケンハウゼン子爵閣下の城とちょっと先の村まで延びている。


 ヴァルトハウゼン村に伸びる街道はまだ建築途中。土壌を均しているのが僅かに窺えるが、それだけである。ファルケンハウゼン子爵閣下の城の隣の村までは石畳の馬車が雨の降った後も、雪の降った後も使えるように整備されているのだが、そこからヴァルトハウゼン村にまで延びる街道はただ木を切り倒して、取り除いただけの野道だ。


 冬に雪が降った後は泥道になって馬車は通れなくなるし、雨がたくさん降った後もドロドロで使い物にならなくなる不安定な道。これじゃあ、行商人の人たちだって村まで来てくれないよ。村にしかないって特産物もないし。


「だが、あの村には飛行船の離発着場はなさそうだが」


「まあ、街道がありますからねー。飛行船は確かに速いですけど、運べる荷物の量に限度がありますし。その点、街道はいいですよ。馬車ならどんなに重い荷物もごとごと運べますし、行商人の人たちも馬車ですから」


「馬車が主要な輸送手段なのか」


「そうですよ。輸送量が半端ないからですね」


 飛行船で運べる荷物はほんの僅か。やっぱり馬車におる輸送がメインである。


「飛行船ではなあ」


 ヒビキさんも飛行船で運べる量については知っているようだ。


「そろそろトールベルクの街が見えてきますよ!」


 飛行船に乗ること数時間。ようやくトールベルクの街が見えてきた!


 周辺は城壁で囲まれ、街道が交錯する場所にそれはある。まさに交流の拠点だ。うちの村とは大違いだよ!


「ふうむ。そこまで大きな街でもないな」


「ええっ! 大きいですよ! ここだけでも人口数十万なんですから!」


 ボクもトールベルクの街の正確な人口はしらないけれど、それでもヴァルトハウゼン村とは比較にならないほどの大都会だということだけは分かる。


「そうか。この世界の基準としては大きいのか」


 ヒビキさんがそんなことを言っていた。ヒビキさんが暮らしていた街ってどらだけ大きかったんだろうか……。


「さて、降りるよ。馬鹿弟子はヒビキの手伝いをしてきな。なんでもヒビキだけに任せるんじゃないよ」


「ラジャ!」


 当然、ボクもヒビキさんを助ける。


 とはいってもヒビキさんは何から何まで自分でやってしまうのでボクのやったことと言えば自分の荷物を抱えてきたぐらいのものである。


 さて、無事トールベルクの街に到着したことだし、稼ぐぞー!


…………………

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[気になる点] レッドドラゴンの鱗のでできた鎧 ↓ レッドドラゴンの鱗でできた鎧 着陸したのにタラップを駆け登る。 ↓ 着陸したのを確認しタラップを駆け登る。
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