エピローグ
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──エピローグ
「ヒビキさん!」
ボクはエリスちゃんと一緒に大図書館の最深部にまでやってきた。
ヒビキさんは無事なの!?
「い、今のは何だったのデスか、レーズィさん!? あんな上位悪魔を召喚できるなんて、伝説級の黒魔術師デスよ!?」
「ええっと。それはあ……」
って、ボクたちが最深部に下りてきたら、レーズィさんがミーナさんに問い詰められていた。ユーリ君はお化けでも見たような顔をして、唖然としている。
「これはどうか内密に! お願いしますよう!」
「もちろんだ、レーズィの姉ちゃん。俺たちは同じ仲間だからな」
何が起きたんだろう? レーズィさんが何かやらかしたのかな?
「皆さん! 大丈夫ですかっ!?」
「ええ。無事ですよう。危ないところではありましたけれど……」
ボクが部屋に飛び込んで尋ねるのに、レーズィさんが頭を掻いて笑う。
「リーゼ君? 何故ここに? 君は安全なエルンストの山の展望台にいるように──」
「ヒビキさん!」
ヒビキさんが変な6本足の機械から姿を見せるのに、ボクはヒビキさんに思いっ切り抱き着く。
「リーゼ君?」
「もうこれでヒビキさんの姿を見るのが最後になるんじゃないかって心配してたんですよ! ヒビキさんが負けっちゃったりするとか、ヒビキさんが何も言わずに元の世界に帰っちゃうとか!」
「リーゼ君……」
ヒビキさんの大きな手がボクの頭をなでる。
「大丈夫だ。俺はどこにもいかない。これからもこの村で暮らしていくよ」
「え? でも、ヒビキさんは元の世界に帰るって……」
「もういいんだ。元の世界に未練はなくなった。今の俺はこの村こそが居場所なのだと思える。この場所に忠誠と義務の代わりとなる愛情を感じている」
ヒビキさんはそう告げてニコリと微笑んだ。
「本当に、本当に帰らないんですか?」
「本当に、本当に帰らない。俺はここにいる。もちろん、君たちがよければだが?」
ボクが尋ねるのに、ヒビキさんは困ったような表情でそう尋ねる。
「もちろんいいに決まってますよ! ヒビキさん、これからもこの村にいてください! ボクたちはヒビキさんを歓迎しますよ!」
ボクは満面の笑顔を浮かべようとしたのだが、涙が漏れ出てきた。
「よかった。これからもこの村で過ごそう。俺が必要とされる限り。ずっと」
ヒビキさんはそう告げて、ボクの頭をポンポンと叩き、ハンカチを手渡してくれた。
「でも、どうして帰るのをやめちゃったんです?」
「何故だろうな。この村が心の底から好きになったからかもしれない。リーゼ君がいて、エステルがいて、レーズィ君たちがいて、みんながいるこの村が好きになったためだろう。忠誠と義務は双方向の関係。俺は十二分に忠誠と義務を果たした。余生は少しわがままに過ごさせてもらってもいいだろう」
ボクが尋ねるのに、ヒビキさんはそう返した。
「ボクたちもヒビキさんのことが大好きですよ!」
「ありがとう、リーゼ君。さあ、上に戻ろう。みんなの場所に戻ろう」
「はい、ヒビキさん!」
ヴァルトハウゼン村を襲った出来事はこれで終結した。
本当に大変な1日だった。けど、終わりよければすべてよし!
ヒビキさんがこれからも一緒に過ごしてくれるならそれに越したことはないよ!
そして、年月は過ぎていき、ボクたちの村は発展した。
“大図書館”を訪れる人々が増えて、ボクたちは旧文明の知識を手に入れた。もちろん神に関するものは誰にも教えないとアレクサンドリアさんは約束してくれている。
村はもう立派な学問の都となり、大きな建物が連なるようになった。
建物を建てるのに大活躍したのはレーズィさんのゴーレムであることはいうまでもない。レーズィさんは冒険者をやりながら、建築業でお金を稼ぎ、ちょっとした富豪にのし上がった。
ボクたちはと言えば──。
「“リーゼ”。明日の分の上級魔力回復ポーションの作成、任せたよ」
「はい、エステル師匠!」
ボクの錬金術師としての腕前も上がり、もう馬鹿弟子と呼ばれることもなくなった。今ではボクが上級ポーションを作っている。
「あれ? ユウヒノアカリ草が足りないですよ?」
「なら、取ってきな」
今日も今日とて薬草のストックが足りない。
「ラジャ! では、行きましょう、ヒビキさん!」
「ああ。行こうか、リーゼ君」
ボクが告げるのに、A級冒険者になったヒビキさんが頷く。
そして、ボクたちは山に繰り出す。
ヒビキさんと過ごした最初の日々と同じように──。
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