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雑木林戦記  作者: 山家
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第8話 悪夢の日々の始まり

 1916年5月になり、第三海兵師団の欧州への輸送を成功させたとはいえ、いきなり駆逐艦2隻を喪失するという現実に、八代六郎提督以下の日本海軍遣欧艦隊司令部の面々は、独潜水艦や機雷といった欧州における輸送船護衛任務の厳しさに、背筋を正さざるを得なかった。

 マルセイユへ第三海兵師団を輸送する輸送船団を護衛するという任務を果たした後、マルタ島へ基本的に移動して、そこを拠点とする地中海での商船護衛の任務に、遣欧艦隊は励むことになったのだが、その厳しさに遣欧艦隊の面々の多くが頭を抱え込む羽目になった。


 何しろ(後知恵交じりで言うならばだが)、この当時においては地中海を航行している連合国側の商船は稼航率重視の余りに思い思いに出航した後で、被害発生に伴い各国海軍の護衛を依頼する有様だった。

 従って、何が起きたかというと。


「アレクサンドリアからマルタ経由でマルセイユに向かう日本船籍の〇〇〇から、救援依頼が」

「護衛艦はいなかったのか」

「附いていません」

「何で護衛艦を付けずに出航したのだ」

「護衛艦を待っていられない、とのことです。実際、護衛艦は不足気味でアレクサンドリアで丸1日以上待たねばならないなら、出航して運を天に任せるという船主は多数います」

「馬鹿野郎。護衛艦を待たずに出航して実際に損害が出たら、こっちが悪いだと。やっていられるか」

 遣欧艦隊参謀長の竹下勇提督は、言っても仕方のないことだと、自分自身も分かってはいたが、罵倒の言葉を口にせざるを得なかった。


 稼航率が下がると、当然のことながら、商船の船主にしてみれば、利益が減ってしまう。

(言うまでもないことだが、商船で利益を上げるに際しては、稼航率が極めて重要である。)

 そして、商船の損害率は未だに1割には到底満たないし、それくらいなら他の船が上げる利益で、その損失は多数の船を持つ船主は充分に穴埋め可能だった。

 従って、竹下提督等の罵倒にもかかわらず、商船は自由に航行しようとし、更に損害が出れば、日本を始めとする連合国の海軍がまともに護衛してくれないのが悪いと商船の船主(と商船の船主を広告主とする新聞各社)は喚き散らして、連合国の海軍に責任を転嫁してくるのだった。


(もっとも、彼らの主張が完全に間違っているとも、また言い難い。

 被害が増加するようになったら、護衛等を増やして商船防衛に努めるのは、国家の当然の義務である。

 例えば、犯罪が多発したら、国民の自衛努力が当然、国家に犯罪防止を期待するのが間違いだ、と喚いて国民に犯罪防止を丸投げして、自衛を推奨する国家は、国家の体を為していると本当に言えるだろうか?) 

 更にその結果、不足気味の駆逐艦を酷使して、英仏等他の連合国海軍と共闘し、日本の遣欧艦隊は連合国各国の商船の護衛に当たらざるを得なくなり、そして、悪い意味での日本人の勤勉さが出た結果、遣欧艦隊所属の駆逐艦の出動率は英仏伊を凌ぐという有様となり、そして。


「昨日から丸24時間寝ていないので、眠くてたまらんな」

「情けない、わしなどは28時間不眠不休で頑張っているが眠くないぞ。お前は大和魂が足りない」

 という(今でいうところの)ブラック極まり無い会話を、遣欧艦隊の乗組員は交わす惨状となった。

 だが、こんなことを続けられる訳が無い。

 こんなことをずっとやっていては、遣欧艦隊の乗組員が過労で倒れる事態が続出するし、終わりが全く見えない状況に現在は突入している惨状なのだ。


 そういったことから、八代六郎提督以下の遣欧艦隊上層部は、これまでの乗組員の酷使を当然とする考えを改めて継続的に戦いが続けられるように、乗組員の健康に配慮せざるを得ないことになった。

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