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雑木林戦記  作者: 山家
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第7話 橘、榊が轟沈、どうしましょう

 このようにある意味ではグダグダな中で、日本海軍の遣欧艦隊は欧州へと赴くことになった。

 実際問題として、後に第一次世界大戦における最大の激戦の一つとなるヴェルダン要塞攻防戦のため、海軍次官から第三海兵師団長へと転じた鈴木貫太郎提督率いる第三海兵師団を、つつがなく欧州へと送り込む必要に当時の日本海軍本体は迫られていた、と言っても過言ではなかった。

 ある意味では、遣欧艦隊が護衛任務を遂行して、第三海兵師団を欧州に無事に送り込めるか否かに、今後の日本海軍本体の今後の評価の命運は賭けられていたのである。


 だが、この時の日本海軍の能力は、後知恵で言うならばだが、話にならないレベルだった。


 1916年3月、遣欧艦隊主力は、第三海兵師団の兵員を山積みした輸送船団を護衛して、日本本土から欧州への旅路へと赴いた。

 日本本土からシンガポール、更に紅海からスエズ運河の入り口ともいえるアデンまでは、順調に遣欧艦隊と輸送船団はたどり着くことに成功した。

 このことに後から振り返ればだが、結果的に遣欧艦隊司令部の首脳は油断していたのだろう。


 アデンで英海軍の分遣隊から、紅海ではトルコ海軍の遊撃戦が展開されており、触雷による被害も出ているという情報が提供されたにもかかわらず、遣欧艦隊は護衛する輸送船団と共にスエズ運河を目指して紅海へ、と充分に警戒態勢を取らずに侵入してしまうという過ちを犯したのだ。

 その結果の天罰は、てき面と言えるものだった。


「橘が」

 それ以上は、ベテランの筈の見張員が絶句してしまい、話せなくなっていた。

 とは言え、他の面々も同様だったので、人のことは全く言えない。


 スエズ運河侵入を目前にしていた遣欧艦隊の面々は、遣欧艦隊の一員である桜型駆逐艦の一艦、「橘」が轟沈する有様に言葉を失っていた。

(第一次世界大戦終結後の各種調査で判明することだが、)トルコ海軍が、せめて一矢報いようと行っていたスエズ運河近辺に対して行っていた機雷作戦により、橘は触雷して轟沈するという悲劇に見舞われた。

 生存者はナシ。

 

 日露戦争での「初瀬」、「八島」の喪失により、機雷の威力を熟知し、回避可能だと油断していた日本海軍本体に対する痛烈な逆メッセージに、この件はなった。

 そして、油断はダメだと遣欧艦隊乗組員は全員が警戒し、スエズ運河を通航して地中海からマルセイユへ、と遣欧艦隊は輸送船団を護衛しながら赴いたのだが。

 大胆不敵な独潜水艦の一撃により。


「榊が沈みます」

 八代六郎提督以下、遣欧艦隊の面々の多くが、乗り組んでいた見張員の絶叫に真っ青になりながら、呆然とせざるを得なかった。

 マルセイユに明日には輸送船団が入港できる、と多くの乗組員が気を緩めたのも、隠れた背景にあるのではないだろうか。

 大胆不敵にも独潜水艦の1隻が遣欧艦隊の間近にまで迫っていて、輸送船団に対して雷撃を放ったのだ。


 不幸中の幸いと言って良いのか、その雷跡に「榊」は気づいた。

「我、靖国に一足先に赴かんとす。天皇陛下、万歳」

(一部の歴史家からは、日本海軍のねつ造電文ではないか、と疑惑の目が向けられるが)「榊」は、そう電文を打った後、自らの信じる最善の態度を執った。

 魚雷の航跡に自らの船体を晒したのだ。

「榊」の船体には、立て続けに2本の魚雷が命中、「榊」はたちまちのうちに轟沈、「榊」の乗組員の中で生存者は僅か3名、それ以外の乗組員は艦長以下、全員が戦死するという結末を迎えた。

 だが、その代わり、輸送船団は無傷だった。


 かくして、遣欧艦隊は第三海兵師団の欧州への輸送任務に表面上は成功することが出来た。

 だが、いきなり駆逐艦2隻を喪失するという損害に、日本海軍は真っ青になった。

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