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雑木林戦記  作者: 山家
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第4話 今は戦艦よりも雑木林だ

 ちなみに東郷平八郎元帥が激怒したのには、もう一つ理由がある。

 第一次世界大戦勃発に伴い、海兵隊が欧州に赴き、更に航空隊を欧州に日本海軍は派遣した。

 だが、そんな予算が第一次世界大戦勃発前から準備されている訳が無い。

 そのために急きょ、予算の見直しが為された結果、影響を被ったのが。


「伊勢」と「日向」という超ド級戦艦2隻の建造だった。

 ぶっちゃけた話、そのために「伊勢」と「日向」の建造が既に1年遅れになっているのに、更に「山城」まで建造停止になったのである。

 東郷平八郎元帥ら、海軍本体の戦艦重視派が激怒するのは当然だった。


 だが、当時の国際情勢に鑑みるならば。

「東郷が怒るのは分かるが。そもそも万が一の対米戦に備えて、駆逐艦を後回しにして、大至急、戦艦を建造せねば、という発想自体がおかしい」

 山本権兵衛首相は牧野伸顕外相に愚痴り、牧野外相はその言葉に肯かざるを得なかった。


 何しろ日露戦争の結果、南満州鉄道を始めとする南満州権益は事実上の日米共同経営になっている。

 更に独立国の大韓王国にしても日米の勢力圏と言って良かった。

 満州、韓国の開発資金は米国民間資本が出し、それに日本は軍事力の保護を与える。

 それで、日本は満州、韓国の開発に必要な資金を、日本国内に投資できる。

 また、米国は軍事費を出さずに満州、韓国の権益を維持できる。

 という、日米双方にとって旨みのある話である。


 もっとも、これに怒る者もいる。

 特に怒っているのが、孫文を始めとする中国の民族主義者だった。

 米国は門戸開放宣言を行っておきながら、日露戦争後、結果的には血を流さずに南満州一帯で自国の特権を手に入れて、旨い汁を吸っている。

 二枚舌もはなはだしい、と孫文らは米国に怒りを募らせていた。

 そのために、孫文らは反米主義者となった。


 そして、このことは米国と日本の友好関係を結果的に深めた。

 米国にしてみれば、孫文らの中国民族主義者に対処するために、万が一の際の軍事力が必要である。

 だが、自国の軍事費は増やしたくない、だから、日本の軍事力に期待するということになったのである。

 日本にしても、日清、日露で手に入れた満州、韓国権益を手放すつもりは無い。

 だから、米国の依頼を当然、受け入れることになった。


 更に第一次世界大戦で、山東半島の独利権を日米で南満州と同様の方法で分け取りしようとしている真っ最中なのである。

 こんな時に、更に当分の間、米国が対日戦の準備をする等(しかも、現在は日本は欧州に英仏露等の連合国の為に派兵している真っ最中で、米国が対日戦をするという事は対英仏露戦も吹っ掛ける話になる)、幾ら国際情勢は複雑怪奇で、一寸先は闇とは言っても限度がある話だろう。

 というのが、この当時の山本首相等の日本政府の主流の考えだった。


「それにしても、東郷らは樺型駆逐艦を侮蔑する余り、雑木林と陰で呼んでいるようだ」

 山本首相はため息を吐きながら言った。

「確かに、命名基準からすれば樺型駆逐艦は、雑木林と呼ばれても仕方がない。だが」

 山本首相は力説した。


「欧州に赴いた日本の様々な権益を守るのに必要なのは、戦艦ではなく、駆逐艦なのだ。そう、雑木林が無ければ、村々が維持できないようなものなのだ」

 山本首相は脳裏に雑木林と村々の関係を思い浮かべた。


 実際、(この当時までの歴史において)村々を維持するには薪や木炭、落葉等を確保しないといけない。

 そういったものを確保するためには雑木林、里山がないとどうにもならない。

 山本首相は、そのことを言っており、牧野外相は肯かざるを得なかった。


 後に遣欧艦隊の面々は、山本首相の発言を又聞きして、その言葉を胸に刻んで地中海で奮闘することになる。

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