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雑木林戦記  作者: 山家
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第2話 艦以外も無い

 そういった状況に、第一次世界大戦が勃発した時点の日本海軍はあった訳だが。

 こうした状況下で、同盟国である英国への信義から日本が連合国側で参戦したとして、更にアジア方面で跳梁する独東洋艦隊を撃滅した後、日本海軍本体が欧州に艦隊を派遣する必要があったか、というと。

 最も日本海軍本体内で、欧州への艦隊派遣を叫んだ秋山真之提督にしても、同盟国の信義を護るという、ある意味ではお題目を唱えることしかできないというのが現実だった。


 何しろ、幾ら独が艦隊拡張を進めていたとはいえ、実際問題として、仏まで英国側に立って参戦している以上は、英独の艦隊決戦は戦艦数等において英国側が圧倒的に有利であり、英独の戦艦が同数沈むという相撃ちでも戦略的勝利を英海軍は呼号できるというのが、現実なのである。

 こうした状況下で、日本海軍がただでさえ少ない戦艦を、英海軍に味方して欧州に派遣する必要性は乏しいと言って良かった。


 日本海軍が、例えば独の水上艦による通商破壊を阻止するために巡洋艦を欧州に派遣する必要があるか、というと英仏海軍が存在する以上は同様に必要性が乏しいと言っても良い。

 そう言った状況下で、日本海軍が欧州に艦隊を派遣する必要が唯一あり得そうなのが、対潜水艦用としての駆逐艦の欧州への派遣だった。

 だが、既述のようにそもそも日本海軍の駆逐艦の絶対数が不足しているというのが現状だったのである。

 更に、その日本の駆逐艦が対潜作戦用にどれだけ役に立つかというと。


(この当時の世界中の駆逐艦が大同小異で、日本が特に遅れていたわけではないが。)

 後に遣欧艦隊司令官になる八代六郎大将(最終階級)の晩年の回想録の一節によると。

「この時には何も無かったから。役立たずと新聞等で袋にされて叩かれるのが予め分かっていたから。自分の本音としては遣欧艦隊司令官等、なりたくはなかった。加藤友三郎海相から遣欧艦隊司令官の辞令を受け取った時の自分の気持ちはヤクザの鉄砲玉になって欧州で逝ってこいと親分に言われたような気分だった」


 実際、それは間違ってはいなかった。

 潜水艦を探す方法は、この当時の日本駆逐艦は目視に頼るしかなかった。

 さて、問題。

 海に潜っている潜水艦を、目視でどうやって探すのでしょうか?


 実際問題としては、この当時の潜水艦が水上にいる商船や軍艦を攻撃する際には、浮上して攻撃する必要があり、少なくとも潜望鏡で敵を確認する必要がある。

 この時の潜水艦や潜望鏡の航跡は意外と目立つ代物なので、目視探査が役に立たない訳ではない。

 しかし、潜水艦が潜望鏡も出さずに水中にいる間は、どうにもならないのである。


 また、首尾よく敵潜水艦を日本の駆逐艦が見つけたとしても。

 浮上中の敵潜水艦に体当たりをするか、砲撃を浴びせるかしか、欧州に向かおうとする日本の駆逐艦には攻撃手段がなかった。

 勿論、まだ潜水艦が充分に沈む前なら、砲弾の命中による敵潜水艦の損傷が全く起こらない訳ではない。

 しかし、そんなことはめったにない話で、潜水艦が海に潜航してしまっては、事実上、日本の駆逐艦は攻撃する手段を持たないというのが、哀しい現実だったのである。


 この当時の潜水艦は、まだまだ可潜艦だったのだから、日本の駆逐艦は欧州に向かった後、改装されるまで完全に役立たずだったわけではないという反論があるが、とはいえ、これを熟知している駆逐艦乗り達にしてみれば。

 何とかしてくれ、という愚痴が最初から出るレベルの話なのも否定できない話だった。


 だが、そんな状況なのに、日本海軍は消極的だった欧州への艦隊派遣をせざるを得なくなった。

 それは斎藤實海相の帝国議会における失言がそもそもの発端だった。

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