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雑木林戦記  作者: 山家
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第15話 森下信衛の初陣等の回想

 1942年当時に軽巡洋艦「矢矧」の艦長を務めた森下信衛大佐(当時)は、海軍兵学校第45期生であり、土方歳一や岡村徳長と海兵同期生と言う因縁がある。

 森下大佐にしてみれば、海軍兵学校在学当時の同期生の間柄でいうならば、伏見宮博義王は別格として、土方は海軍(海兵隊)きっての名門の出という想いから文字通りに敬遠する間柄であり、岡村は逆に問題児という印象しか残っていない存在だった。


 だが、三人共に1918年春、第一次世界大戦最後の激戦の場に放り込まれた存在でもあった。

 そんな森下大佐の第一次世界大戦参戦の思い出を述べるならば。

 土方や岡村と比較すれば、遣欧艦隊勤務だった自分は、まだしも天国だったという思い出だった。


 確かに自分達はそんなに潜水艦を沈めるという戦果を挙げることはできなかった。

 だが、潜水艦の攻撃から商船を守り抜き、自分達の多くも生きて還れたのだ。

 一方、土方や岡村は戦車という新兵器と共闘し、更に新たな戦術を駆使して、毒ガスが漂う地獄の中を戦う羽目になった。

 共にスペイン風邪の蔓延と言う地獄はあったが、自分はマシだと思える。

 そんな森下大佐の第一次世界大戦における実戦の思い出を語る。


 1918年春に遣欧艦隊に着任して早々に、「樺」の水測担当(主に水中聴音機担当)士官に任ぜられた森下少尉(当時)は、当初は水中聴音機の不具合に匙を投げたい想いに駆られていた。

 こんな代物が役立つものか、というのが森下少尉の偽らざる本音で、海兵同期生の間でも同様の想いが満逸していた。


 しかし、自分達以前から遣欧艦隊に所属している面々の意見は全く違っていたのだ。

 直属の上官になった木村昌福中尉(皮肉なことに、森下が「矢矧」の艦長となった際には、ほぼ同期間を木村は第二水雷戦隊司令官を務めており、直属の上官と部下という関係にまたもなる)は、水中聴音機無くして対潜戦闘は不可能、水中聴音機の改良に努めるしかない、と森下少尉に力説したし、「樺」の艦長の堀悌吉少佐も同様の意見だった。


 実際に商船団を護衛する任務についてみると、森下少尉は自分の蒙に恥じ入らざるを得なかった。

 海中に潜む敵潜水艦を探知する手段は、水中聴音機しかないのだ。

 勿論、森下少尉が欧州に着任した直後の頃から、対潜用の飛行船が一部の商船団の護衛に就くようになっていたのは事実で、これによって飛行船の早期警戒によっても、一部の潜航中の潜水艦が見つけられるようになってはいた。

 だが、それはあくまでも浅海面に潜水艦がいるというのが大前提であり、飛行船にしても、第二次世界大戦当時とは異なり、磁気探知機等によって潜水艦を探していた訳ではなく、専ら目視警戒に当時の技術的限界から頼らざるを得なかった。

 それに、飛行船の量的限界から、全ての商船団に飛行船の護衛を付ける等、夢物語だった。


 こうしたことから、森下少尉は水中聴音機を少しでも良くしようと、木村中尉等と協力して改良に努めることになった。

 森下少尉は水中聴音機にこだわったが、他の面々も対潜爆雷の性能向上はできないものか等、自分のできる範囲で少しでも潜水艦を仕留めようと試みており、いい意味での競争が生じていたのである。

 これは、森下少尉は直接知らなかったが、これまで敵潜水艦に翻弄されて、商船を大量に失ってきたという悔恨からくる日本海軍の面々の想いから生じているものでもあった。


 一般に竹下勇提督の言葉とされる

「独潜水艦をこの世から絶滅させないとこの悔恨は晴れない」

 という想いを、この当時の遣欧艦隊の面々は共有していたと言っても良い。

 そして、その共有した想いを抱えて森下少尉は船団護衛任務の一翼を担うことになったのである。

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