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雑木林戦記  作者: 山家
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第11話 1916年後半の悪夢の日々2

 こういった荒んだ気持ちに、田中頼三中尉がなるのも無理はなかった。

 実際、海兵隊や海軍航空隊の勇戦は、日本本国において称賛される報道に溢れているのに対し、遣欧艦隊の悪戦苦闘ぶりは、逆に日本本国の報道で叩かれる例が多発しているのだ。

 もっとも、報道する側にしてみれば、それはある意味、当然の話だった。


 何しろ、この1916年夏の時点に至っても、遣欧艦隊は懸命の努力にもかかわらず、敵の潜水艦を未だに一隻も沈められていないのである。

 努力過程と結果と、どちらを重視するかは、難しい問題だが、この戦況においては戦果を挙げていないという結果から、遣欧艦隊がある程度は叩かれるのは仕方のない話だった。

 更に。


 日本海軍が欧州に赴くことで、輸送船、商船の被害は激減するものと期待していたのに、従前と同様の被害が輸送船、商船に出ているのである。

 相変わらず、日本から欧州に送られる人員や物資(故郷からの手紙等)の一部は失われ、貴重な遺骨、遺品も欧州から日本に届かないことが起きている。

 出征した兵士の家族等から不満の声が上がり、新聞等がそれを報道するのは、ある意味で当然の話だった。


 ともかく、このような報道が日本国内で為されているというのは、自然と遣欧艦隊にまでどうしても広まってしまうものである。

 更に、「常陸丸事件」等を引き起こした日露戦争時の上村彦之丞第二艦隊司令長官の方が、八代六郎遣欧艦隊長官よりも遥かにマシだという主張まで公然と日本国内で出る有様となっては。

 遣欧艦隊の最上層部から末端までに、現場の苦労も知らないで、新聞等の報道では好き放題のことを言われているという憤懣が高まるのも、ある程度は仕方のない話だった。


 だが、夜明け前が一番暗い、という(英海軍の教官が日本海軍の教え子に伝えたと伝わる)英国のことわざ、また、雑木林こそ今の日本には必要なのだ、という山本権兵衛首相の言葉、をこの当時の遣欧艦隊の面々は思い起こし、胸に刻んで頑張り抜いた。

 だが、具体策が無くては、単なる精神論である。


 師匠の英海軍のみならず、同盟国の仏海軍等にも具体的な対応策を求め、更には。

「堀、何を調べているのだ」

「いえ、秋山真之提督が、日露戦争に備えて、村上海賊のことを研究したというのを思い起こしまして、この際、世界各地の海戦史の戦訓等を調査するのも役に立つかと考えました」

「成程、一理ある考えだ」

 そんな山梨勝之進大佐と堀悌吉少佐の会話等もあり、遣欧艦隊の面々は世界各地の海戦史の調査等まで、まさに溺れる者は藁をもつかむ想いで行うことになった。


 そういった調査等の結果を踏まえ、少しでも商船護衛の為に役立つ方策を提案し、更にそれを検討して、採用しと言うことをやっていた遣欧艦隊の面々にしてみれば、1916年末にようやく曙光が差してきた思いがすることが出てくるようになった。


「やはり船団護衛戦術を採用するのが一番、有効なようだな」

「はい、数々の検討の結果、それが最善だと思われます」

 遣欧艦隊の招集可能な佐官以上の幹部を集めた会議の席で、そのような結論が下った。

「よし。何としても日本船籍に関しては、これで守りぬくことにしよう」

 八代提督の決断が下った。

 更に。


「英海軍から朗報です。対潜用の聴音機が、ようやく実戦使用可能かつ量産可能なレベルにまで改良できたとのことです」

「よし、これで海中の潜水艦を探知することが可能になったか」

「はい。日本海軍の駆逐艦にも順次、英海軍は無償提供するとのことです。これまでの遣欧艦隊の奮闘に対する返礼とのことです」

「爆雷の提供といい、本当に師匠の恩義、忘れまじだな」

 遣欧艦隊司令部に明るい声が響き渡ることになった。

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