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ゼロとイチのソラ  作者: 黒河純
最終章 未来と終焉
33/33

エピローグ 3

これにて『ゼロとイチのソラ』は完結となります。

「ここがひいおじいちゃんのアジト……だよね」


 電車で二時間の長旅を終えたわたしは、双道市のとある廃墟までやってきた。風化した小さい建物。住宅というよりは、倉庫のようなイメージだ。

 先ほど上から見下ろした時には、屋上にソーラーパネルまで設置されていた。恐らく、昔はそこそこ高性能な設備がそろっていたに違いない。


「しっかし、人っ子一人居ないなぁ。進入禁止エリアでもなかったし、浮浪者が住処にしていてもおかしくはなさそうだけど……」

 この付近には、人が住んでいる様子が感じられない。旧時代に取り残された風景が、色あせて残っているだけのゴーストタウンだ。

 昼に来たのは正解だっただろう。こんなところ、夜なら不気味過ぎて歩きたくもない。


「勝手に入って怒られないかな……親族だしセーフだよね」

 誰が見ているわけでもないのにいいわけをしつつ、わたしは扉を開けようとして――


「むう……開かない」


 ――ロックによって手の動きを停止させられた。

「日記に書いてあったっけ……確かパスワードは息子の名前……てことはおじいちゃんの名前か」

 扉に備え付けられていた小さなモニターにパスワードを打ち込む。幸い電気は通っていた。


「お、開いた開いた。お邪魔しまーす」

 小さな電子音と共にロックが解除され、わたしは廃墟の内部へと入り込む。淀んだ空気と静謐せいひつな気配がわたしを包む。


「さすがに物は少ないね……」

 いくつかの家具は放置されているが、部屋の内部はさっぱりしたものだった。(ほこり)が酷いので、とりあえず窓を開ける。

 色々と物色しながら、奥の部屋へ。まずはコンソールを探さなくては。大きい物だし、すぐに見つかると思うけど……。


「ええと……お、これかな? ひいおじいちゃんのコンソールって」

 実際にダイブ用のコンソールを見るのは初だが、これで間違いないはず。

「こんなの、学校の教科書でしか見たことないよ……電源入るかな?」

 スイッチを入れ、コンソールが駆動音と共に光り出す。外に設置してあったソーラーパネルの電気が、ちゃんと蓄えられ、生きている証だろう。わざわざソーラーパネルなんて高価な物を残して置いたのは、誰かがここに来ることを想定してだろうか。


「とにかく、接続してみよう」

 人工筋肉を取り外し、人間型接続子(ヒューマン・ジャック)を表に出す。さっそく、コンソールと自分をコネクト。


「仮想空間はないし、ダイブはできないよね」

 現実そっくりなヴァーチャルワールドに興味はあるが、生まれてくるのが遅すぎたことを恨もう。


「コンソールの中の古い友人……これのこと?」

 コンソールの中には、ぽつんと、とあるプログラムが眠っていた。他にファイルは見当たらないし、恐らくこれのことだろう。


「もしかして、ウチが代々密かに電脳化していたのって、これが理由?」

 ひいおじいちゃんの友人をいつでも迎えに行けるため……だったのだろうか。そもそも、このプログラムが友人?


「……ま、今は深く考えても仕方ない。とりあえず起動して……大丈夫だよね?」

 恐る恐る、プログラムを自らの電脳へ移動させる。容量が大きいので、電脳のキャパシティぎりぎりだった。

「移動完了。よし、それじゃあ……」

 わたしは恐る恐る、プログラムを起動させる。



『……ここは?』



 最初に聞こえてきたのは、若い女の子の声だった。身構えていたわたしは、一気に脱力してしまう。

「ええと……」

 どういうこと? AI? それとも、人間の意識を電子化するような技術が旧時代にはあったの?


「あー……どうも初めまして。聞こえている……かな?」

 わからないことは多いが、とりあえず話しかけてみる。未知との遭遇に、わたしの心拍数は跳ね上がっていく。


『……あなたは?』

「ええと、ひいおじいちゃんの日記に、ここのことが書かれていたからやってきた者……なんだけど」

『ひいおじいさん?』

「そう。月霧陸。陸おじいちゃんがこのコンソールの中に古い友人が居るって……あなたがそうなのかな?」

『っ! 陸さん!?』

 ひいおじいちゃんの名前を聞いた瞬間、わたしの脳内で大きな反応を示す女の子。やっぱり知り合いみたい。


『まさか……本当にこんな日がくるなんて……もう二度と、目覚めることはないと覚悟していたのに……』

 女の子は泣きながら笑っていた――姿は見えないけれど、なんとなくそんな表情が脳裏に浮かんだ。


『あ、あの! 陸さんと詩織さんは……』

「あー……その、陸おじいちゃんと詩織おばあちゃんだけど……結構前に死んじゃったんだよね」

『そう、ですか……仕方ないですよね』

 置いてきぼりにされたであろう女の子は、ぽつりと諦めの言葉を落とす。


『そうだ、あなたのお名前はなんというのですか?』

「そういえば、まだ名乗っていなかったね。改めて自己紹介するよ。わたしは月霧陸と月霧詩織のひ孫で、月霧詩」

『詩さん……月霧、詩さん』

 噛み締めるように、女の子はわたしの名前をわたしの脳内で呟いた。


「恥ずかしながら、あまり状況が飲み込めないんだけど……あなたは一体誰なの?」

『あ、申し遅れました。私の名前はソラ。陸さんと詩織さんの古い友人で、AIです』

「AI……人工知能!?」

 驚いた。まさかこんなにも人間に迫った人工知能が開発されていたなんて。旧時代には、表沙汰になっていないだけで様々なテクノロジーが生まれていた、といううわさは本当らしい。


「す、すごい発見だよこれ。なんか偉大な賞とか取れるレベルなんじゃないの?」

『? そうなのですか?』

「もちろん! でも、ソラさんを公の場に出すの少し怖いなぁ。今って高度なAIはタブー視されているんだよねー」

『はぁ……今の時代はそんなことになっているのですね。ずっとネットにも繋がらずに一人きりでしたから、今の時世には疎くて』

「だったら……ねえ、ソラさん――」


 旧時代に生み出され、わたしのひいおじいちゃんの友人でもあったというAI。こんなことを言うのは少女趣味かもしれないけれど、まるで運命のように感じられた。


「――せっかくだし色々教えてよ。わたし、旧時代のこと興味あるんだ。ここで会ったのも何かの縁だし、もしよければ、話をきかせてほしいな。陸おじいちゃんと詩織おばあちゃんのことも知りたいし」

 わたしは神様なんて熱心に信仰しているわけではないけれども、ソラさんとの出会いは神の導きなんじゃないかと考えてしまう。だから、今日くらいは神様を信じてみてもいいかもしれない。


『はい。私も、今の時代のことを色々聞きたいです。……私の成したことが、どのような結果になったのか』

「うむ。任せなさい」


 そういえば、仮想空間を消失させたAIの名前が『ソラ』だったはずだけれども……まさかね。


「楽しみだなぁ。それじゃあ、ソラさんはこれからわたしのパートナーってことで」

『パートナー……いいのですか?』

「もちろん。ずっとこんな寂しい場所に居たくないでしょ? もう仮想空間もないんだし」

 いくらAIとはいえ、こんな陰気な場所で座ってばかりではカビが生えてしまう。


「まずは仮想空間消失事件から今までの歴史を教えてあげるね」

 Dケーブルを取り外し、コンソールとの接続を切る。電源を落とし、いたわるように鉄の肌をゆっくりと撫でる。恐らくこの機械が起動することは二度とないだろう。だからこそ、労いを込めて。


「さ、それじゃあ外の世界へ行こうか」

 開けていた窓を閉め、扉も再度ロックをかけてから、廃墟となったひいおじいちゃんのアジトをあとにする。


「うん。いい天気」


 わたしはどことなく晴れやかな気分で空を見上げる。錆び付いた地上を優しく見守るような、気持ちのいい晴天だった。


「見えるかな? これが現実の世界だよ」

『――はい。よく見えます。こちらの空は、こんなにも素敵なんですね』


 新たな電脳の同居人と共に、わたしはゆっくりと歩き出す。



 空はどこまでも青く、突き抜けるような世界が広がっていた。

それではまたどこかで。

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