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ゼロとイチのソラ  作者: 黒河純
最終章 未来と終焉
20/33

バックドア

 仮想でのダイブポイントは、どこのコンソールからダイブしたかに依存する。俺と詩織はヴァーチャルロードのコンソールからダイブしたので――


「問題なし、だな」


 ――ヴァーチャルロードの社内区域(エリア)にダイブする。交差点(スクランブル)からここに侵入するのは俺でも無理だが、現実(リアル)から直接ダイブするのなら話は別だ。


「ここがヴァーチャルロード所有の区域(エリア)か」

 現実(リアル)の部屋と同じで、物置のような区域(エリア)だった。広さは俺のプライベート区域(エリア)と同じか少し広いくらい。床も壁も、ねずみ色の打放しコンクリート。窓はなく、閉塞的だ。


 予測はしていたが、人が居なくて助かった。ここの職員ならそこまで仮想戦闘に慣れては居ないだろうが、無駄な争いはしたくない。

「しかし、色々な物が置いてあるな……」

「だね。意外とごちゃごちゃ」

 床一面に、椅子やテーブルといった備品が山のように積んである。こうした家具などは意外とデータ容量を喰うので、個人の電脳ではなく、あまり使わない区域(エリア)に放置しているのだろう。ヴァーチャルロードは仮想の管理会社なので、区域(エリア)はほぼ無限に使えると聞いたことがある。


「贅沢な使い方だ」

 本来、小さな区域(エリア)一つを維持するだけでもそこそこの金がかかる。なので、こうポンポンと区域(エリア)を作ることは難しい。ヴァーチャルロードならではの力業といえるだろう。


「うだうだ言っている暇はないよ陸。無事に潜入できたことだし――」

「ああ。……区域(エリア)にハックしてバックドア作るか」


 ◆ ◆ ◆


 バックドア――仮想空間における裏口のこと。正規の認証システムやセキュリティーを欺き、区域(エリア)に侵入するための裏道。基本的にバックドアは作った本人しか認識することはできない。教えられない限り、第三者がバックドアを通過することは不可能である。

 バックドアは、区域(エリア)の制作時に制作者が意図的に作っておくパターンと、区域(エリア)に侵入してからセキュリティーホールを活用し制作するパターンの二つがある。


 ◆ ◆ ◆


 詩織と電脳を並列化し、ここから俺のプライベート区域(エリア)までのバックドアを制作する。専門のツールを使い、二人がかりでも簡単にはできない。

「ほらほら、急がないと気づかれるよ」

「黙って手――というより脳を動かせ。バックドアを確立させたら、俺のプライベート区域(エリア)と繋げて、ソラをこっちに呼ばないといけないんだからな」

「わかってるって。まずはソラちゃんを呼ばないと始まらないからね」

「ああ。ソラを呼んで、仮想の神様と繋げてやろう」

 俺が用意できる最高のプレゼントを、あの少女には贈ってあげよう。俺は彼女の笑顔が、嫌いではないのだから。




武器を整え(ヒット)


 隙間なく作られた電子の壁。Kから購入したウイルスを使用し、穴を穿ち、徐々に大きくする。


相手を見極める(スプリット)


 ハックはトランプと似ている。重要なのは駆け引きだ。


姿を消し(シャッフル)


 攻めすぎると手痛いしっぺ返しを喰らう。弱気過ぎると勝機を逃して大損だ。


後ろから突き刺す(ダブルダウン)


 俺たちには、逃走(サレンダー)失敗(バスト)も許されない。唯一開かれた血路を、一心不乱に走り抜けるのみ。


これにて終了(ショウダウン)




俺の勝ち(ブラックジャック)

 ――作業開始からおよそ二十分。疲労を残しながらも、無事に作業終了。


「よし……バックドアは確立したな」

「つーかーれーたー」

 一仕事終えた詩織は、放置してあった椅子にぐったりと座り込む。緊張の糸が切れたのだろう。


「りーくー。おみずー」

「あとでな」

「うー」

 幼児退行を引き起こしている詩織は面倒なので放っておこう。いつものことだ。


 バックドアが確立され、ヴァーチャルロードの区域(エリア)内に鉄製の扉が現れる。現状では、制作者である俺と詩織以外には見ることも触れることもできない。例え、この区域(エリア)の管理者でも使用は不可能だ。

「よし、じゃあちょっと行ってくる。お前はどうする?」

「一応ここで見張りしておくよ。陸はさっさとソラちゃんを連れておいで。きっと、首を長くして待ってるよ」

「……ソラに気を遣っているのか?」

「そんなんじゃないよ。ただ単に疲れただけ。ほら、さっさと行った行った」

「了解」


 相変わらず、詩織は妙な空気の読み方をする。

 俺は早速、できたばかりのバックドアを開く。この扉の先は、交差点(スクランブル)ではなく俺のプライベート区域(エリア)まで繋がっている。そこでは、詩織の言う通り、ソラが俺を待っているだろう。



「いつの時代も、お姫様を迎えに行くのはいい男の役目だな」

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