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ゼロとイチのソラ  作者: 黒河純
第一章 仮想と現実
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プロローグ

SF二作目です。荒廃した世界を舞台に、仮想空間を行ったり来たりします。

もうすべて書き上げているので、ポンポン上げていきます。


◆ ◆ ◆ で囲んであるのは用語説明部分です。

 ネットニュースによると、牛肉1キロとダイヤモンド1カラットの値段が同じになったらしい。


「肉の価値が上がったのか、宝石の価値が下がったのか……どっちもだな」


 俺は網膜に投影していたホログラムウィンドウを消し去り、乱暴に頭をかく。今の時代、明るいニュースなんて欠片もありはしない。


「はぁ……」

 疲労が蓄積された目を閉じ、ため息と共に淀んだ空気を吐き出す。最近、この辺りは空気までもが苦くなったような気さえしてくる。空気に入れる砂糖でもほしいところだ。


「ちょっと(りく)、暇なら機械のメンテ手伝ってよー」

 薄暗いアジトの奥から、恨めしそうにこちらをにらむ()(おり)。俺の仕事仲間であり、幼馴染みでもある。色の薄い茶色の髪と、団栗眼が印象的な相棒だ。本日も、お気に入りのミニスカートに、(どく)()がプリントされた趣味の悪い緑のパーカーを羽織っている。


「暇じゃねぇよ。見てわからないのか? ニュース見てたんだよ。情報収集中だ」

「あんたの網膜に映し出されたホログラムなんだから、わたしに見えるわけないでしょ。電脳化してもう十年以上経つのに、そんなことも理解してないの?」

 やれやれと首を横に振り、栗色のポニーテールを揺らす詩織。相変わらず人を小馬鹿にするのがうまい女だ。


「口の減らねぇやつだな。そのポニーテール引っこ抜くぞ」

「おー、怖い怖い」

 詩織は楽しそうにきゃーきゃー言いながら、アジトの二階へと逃げていった。追いかける気にもなれずに、ソファーに深く身体を預ける。


大きく息を吐き、徐々に全身の力を抜く。最近はハードな依頼が多かったので、まだ疲労が体の中で(くすぶ)っているような気分だ。


「すぐに仕事も来るだろうし、休めるうちに休んでおくか」

 まだ見ぬ依頼者が来るまで一眠りすると決めた俺は、早々に夢の世界へとダイブした。


 ◆ ◆ ◆


 電脳――ナノマシンを埋め込み、ネットワークとの通信を可能にした脳。『思考を外部とやりとりする』『ネットワーク経由での情報の検索』『ネットや他の電脳から入手したデータの保管』など様々なことが可能。


 ◆ ◆ ◆


 人間が携帯電話やパソコンなどの機械(マシン)で通信をしていたのは、もう百年近くも昔のことだ。一世紀前に比べ、人間の技術力は飛躍的に進歩した。


 科学の進歩とは、すなわち情報伝達の進歩でもある。


 遠方の相手に情報を伝達する――その方法は時代と共に変革していった。太古は狼煙(のろし)や伝書鳩。中世では電気を活用するようになり、電気通信を行うようになった。近代では人工衛星を宇宙空間に打ち上げ、衛星通信を行うなんてことまでできるようになった。


 携帯型の通信端末を一人一台所持するのが当たり前になった。

 ネットワークの広がりにより、世界中の人たちと瞬時に情報交換することも可能となった。


 そして、人間は通信機を手に持つことすら(おっ)(くう)になり、自らの体内に埋め込んだ。


 自身の脳と電子を結合させ、人間は半分コンピュータのような存在になった。それが電脳化。神経電子工学(ニューロエレクトロニクス)の終着点だ。


 この国では、十歳以上の国民全員に電脳化の権利が与えられる。『義務』ではなく『権利』だ。強制ではない。

 しかし、今の世の中を考えれば、電脳なしで生きるには厳しすぎる。義務ではないとは言え、ほとんどの人間が電脳化を済ませる。


 電脳が普及し、世界は大きく変わった。調べ物をするのに、近所の図書館に行く人なんて居なくなった。調べ物をするのに、パソコンの電源を入れる人は少なくなった。今では、調べたい言葉を電脳でネット検索すれば、検索結果が自分の網膜にホログラムとして投影される。本を開くよりも、マウスとキーボードでブラウザを立ち上げるよりも、電脳を使った方が早いのだ。


 今までより早く、今までより便利に、今までより快適に……そんな妄執じみた――あるいは狂気的な――考えで人類は進んできた。


 そんなわけで、人間は何かに取り憑かれたように、科学を進歩させ続けた。ありとあらゆることに利便性を求める。それに関しては成功したと言えるだろう。世の中は確実に便利になった。


 ――ただ、反動で失った物も多い。何かを得るためには、何かを捨てなければならないのが世の道理だ。

 森は消え、海は灰色に濁り、砂漠化は進み続ける。今の地球環境は過去最悪だ。ガイア理論の支持者ですら、怒りを通り越して笑うことしかできない。


 もしかすると、地球の寿命は秒読みのところまできているのかもしれない。

 例えそれでも、人間が今の技術全てを捨て去り、棍棒を持って原始人のような生活はしない。恐らくできない。

 十を得るための努力はできても、一に戻る努力はできない。


 だからこそ、これからも人間は盲目的に(まい)(しん)し続ける。


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