ねこばんばん
冬になると冷え込む地方で車に乗っている方にはわりと周知されている言葉、「猫バンバン」。
別に猫様が夜中に歌い踊ったりするわけでもなければ、逆に猫をエアガンで狙撃するような物騒な行為でもありません。
寒い時期、走行を終えた車を野外に駐車しておくと、ほどよく温くなったエンジンルームに猫が入り込んで温まっていることがあります。
それが、翌朝になってもそのままで、車の所有者が気づかずエンジンをかけてしまったらどうなるか。
とても悲惨な結末になるのは、車を持っていない方でも想像がつくでしょう。
一旦そういう事態が起きると、猫も可哀想だし、所有者はトラウマものだし、車の整備員も大変だしで、誰にもいいことはありません。
ということで、寒い時期、エンジンを動かす前にタイヤ周りやボンネットを叩いて猫が入り込んでいない確認する行為の総称、これが「猫バンバン」です。
エンジンルームに入り込めないような構造にならないのかな、とも思うのですが、JAFや車の大手メーカーがこういう行為を率先して推奨しているあたり、なかなか難しいんでしょうね。
で、友人のMが先日、仲間と一緒に友人の家で飲み会をしたときのお話。
といっても、M自身は飲めません。雰囲気が好きなんだそうです。
持ち込みの酒やおつまみで楽しく過ごしていたのですが、そのうち酒が足りない、コメが食べたい、やれ甘いものが食べたい、という声が上がり始めました。しかし一番近いコンビニは徒歩で片道15分ほどの場所。
車で行っていいよと、まったく飲んでいなかったMが、友人のひとりから鍵を渡されました。お使いを押しつけられたわけです。
外に出ると、昼間はちょうど良いくらいでも夜になると割と冷え込む初春の気候。
肌寒さを感じながら、駐車場にたどり着き、車に乗り込もうとしてMは、「猫バンバン」のことを思いだしました。虫の知らせ、とでもいうのでしょうかね。
ボンネットを叩くと案の定、エンジンルームからかすかに「にゃーん」という声が。
いやいや、これは洒落にならないだろ、とMは運転席のスイッチを使ってボンネットを開き、駐車場にある外灯のか細い灯りを頼りにエンジンルームをのぞき込みました。
バッテリーとか、配線とか、なにやりらぐねぐねとある中の細い隙間に、明らかに車のパーツではない青白いなにかが見えます。
顔を近づけると。
青白い、面長のおじさんの顔だけが隙間に挟まっていて、Mと目が合うと無表情のまま口を開きました。
「にゃーん」
Mはすぐにボンネットを閉じ、徒歩だと往復30分かかるコンビニまで歩いて買い物に行ったそうです。
Mいわく、
「猫バンバンする気にならなくなるから、ああいうのはやめて欲しい」
問題はそこじゃないと思う。