表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/31

無彩病

新藤ゆず shinndou yuzu

高校二年生。兄は有名選手。

清水誠一 simizu seiichi

高校二年生。ゆずの幼馴染。

承和春己 soga haruki

高校三年生。先輩。

千草百合奈 chigusa yurina

高校二年生。留年しているので一個上。


それは始まってしまった、思い出を重ねる物語













「という事で、今日から一緒にお昼を食べる事になりましたー!」


わー。一人で声を上げて手を叩く。目の前の二人は静かなままだった。


「あの、反応してくれません?辛い」


「あ、ご、ごめんね!でも、あの清水君は大丈夫…?お昼一緒にして…」


「いや、別に大丈夫っす」


教室の片隅、一人盛り上がる私をよそに、幼馴染は浮かない顔をしていた。新しく出来た友人はと言えば、ただ彼にビビっている。完全にビビっている。この不機嫌オーラを察している。怖い。


「誠ちゃん何怒ってんの」


「怒ってねえよ、普段からこんなんだよ」


「ああ、なるほど。ごめんね百合奈、誠ちゃん人見知りだからビビってるのです」


「何でだよ」


控えめに笑う彼女はやっぱり可愛かった。


「で、経緯は分かったんだけど、敬語は使わない方が良いんですか」


「あ、うん。年上だけど同じ学年だし。その方が嬉しいな」


「じゃあ千草で」


そう言った彼はそっぽを向く。彼女は嬉しそうに頷いていた。その様子が、少し違う気がする。気のせいだろうか。


ゆっくりと、少しずつ私達の間に馴染んでいく百合奈に安心する。誠一は何だかんだで優しいから、百合奈の言葉を待っていてくれる。一つ一つ、ちゃんと噛み締めて返事を返す。それを見た百合奈も嬉しそうに笑う。時折見せる気遣いに、やっぱり一つ上なのだと感心してしまった。


けれど、私は恐怖を感じていた。



共に昼食をするようになってからもう一月近くが経っていた。その空間はは、私がいなくても出来上がっていた。


移動教室のせいで遅れてしまった。二人が待っていると思い早足で教室に向かう。窓から見えた二人に声をかけようとして止めた。いや、止まってしまったのだ。私の足が。

仲睦まじく話す二人。仏頂面の幼馴染が、あんなにも綺麗な顔で笑っている。それを嬉しそうに彼女は話を続けている。私の見た事もない姿に、足が止まってしまったのだ。


「おかしいな」


私は見た事がない。そんな笑顔。私の知っている君の笑顔は、もっと困ったように眉を下げる呆れた姿の笑顔だ。そんな嬉しそうな顔を見た事がない。知らない。私の知らない君がいる。

目の前の彼女は、芽を細めて嬉しそうに笑っている。その表情に、私はようやく気が付く。


「ああ、好きなんだ」


「誰が?俺が?」


突然聞こえてきた声に驚いて振り返れば、そこには先輩が立っていた。


「いや、貴方じゃなくて」


「何だよ照れるなあ。ついに振り向いてくれたか」


「話聞けよ」


「大体何見てたのゆずちゃん」


遮る私の手を掴んで視線の先を見つめる。ああ、と言って彼は納得した素振りを見せた。何がああだよ。よく分からないよ。


「千草ねー、清水と仲良いんだ」


「知ってるんですか」


「そりゃ、割と有名人だもん。まあ俺には負けるよ?」


「聞いてない」


有名人とはどういう事だろう。その言葉を聞く前に、答えが彼の口から出てしまった。



「無彩病だったんだよ、あいつ」



「え?」


突然の出来事に思わず聞き返す。彼は何の悪気もない様子で言葉を続けた。


「だから無彩病。早期発見出来たって事で治療に専念するために入院してたの。そしたら出席日数が必然的に足りなくなるじゃん?それで留年したの」


唐突に明かされた事実に頭が付いて行かなかった。無彩病。こんなにも身近にいた事。


「まあ今は後遺症を治すために通院してるらしいけど、知らなかった?」


「…知らなかった」


「あーもしかして隠したかったのかな。言っちゃったよ」


不意に彼女がこちらに気が付いて手を振ってくる。その手を振り返した私は上手く笑えているだろうか。


気が付かなければ良かったなんて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ