洋上に見えた太陽前編 sideS
今回の話は前後編ですが、前編のみ、ユートピア紹介のために二人のサイドに分けてあります。
二つに分けたのも、サブタイの太陽が出せなかったからなのですが。
黒煙が上がってから二日後、録画部隊の帰還を持って、作戦は最終段階へと移行した。
録画された映像を見た者たちの目には、涙が浮かんでいた。
皆思うところがあったのだろう、その後そのまま黙祷していた。
次に議題に上がって法に触れ、刑罰を受けていた者たちは、皆人が変わったかのように仕事に精を出している。
やはりあの刑は、慢心した心を折るにはいいらしい。
この大陸でのやり残したことはもうない。
あとは脱出するだけだ。
「各員、配置についたか……といっても俺とお前だけでいいもんな」
「そうですか、人員の削減は徹底したほうがいいと思いますが?」
「ロマンだからな、気にしなくていい」
「そうですか、ではこれより仮称『ノア』改めユートピア級粘菌式万能戦闘艦一番艦『ユートピア』出航します」
その言葉とともに、ダンジョンのあった海岸沿いの壁面より何かがせり出してきた。
その姿を端的に捉えるのならば潜水艦である。
全長二百メートルという、潜水艦としては大型ながらもその形はさながら魚雷に指揮する場所をつけたかのようだ、速度もまた魚雷と見まごうばかりだ。その速度についてくる影がある。
「来ます、捕獲モード準備……3、2、1、起動!!」
まさに、海中の嵐だった。その巨体に似合わぬ速度で動くそれは、その動くものを破壊せしめんとしていた。
が、それが叶うはずもなかった。
突然開く船底に吸い込まれるように、それは引きずり込まれた。
多少の揺れはあったもののそこにあったのは、静かな海と竜を飲み込んだ潜水艦だけである。
艦橋にいた二人にもその衝撃はやってきた。
「ッ!被害状況報告!!」
「……被害状況、船底にダメージ、浸水レベル1、修理中!続けて推進装置に異常なし、なれども連絡回路にダメージ!想定通りです、急ぎ修理します。それまでは流体制御による低速移動しか出ません」
「よし、本艦は圧壊を防ぐために、浮上する。浮上中に水上戦モードへ移行。浮上後本艦と敵艦との相対位置確認及び優先順位の確認急げ!!」
「了解!!」
「俺は、あの竜から短剣を引き抜く、それまで任せていいか?」
「わかりました、航空戦力に音光弾、海上戦力に濃霧弾ですね」
「それだけでいい、あとは彼女にお帰り願うだけだ」
そう呟きながら、転移陣に乗る。
ふっと視界が変わる、そこは小さな部屋だった。
真正面の扉からものすごい音がしている。
扉を開けた先には、青いゴム状の物体にギチギチに拘束されている何かだった。
その蛇のように長い胴体もよく絵に書かれる、何かを持っていそうな手も、唯一拘束されていないのが、頭部にある銀色の短剣とその付近だけだった。
もはやもがくということすら不可能のように感じるが、それでも油断はしないほうがいいだろう。
静かに近づき、こちらに気づかれる前に短剣を一気に引き抜いた。
吹き出した血は一瞬で止まり、正気ではなかった目は光を取り戻し、こちらを睨みつける。
即座に距離をとり、話しかける。
「まてまて暴れないでくれ、俺はあんたになんかした奴らの仲間じゃない。わからないか?」
言葉が通じるかどうかわからないが、とにかく落ち着かせる。
しかしその目が憎しみに染まりきっており話を聞く気もないことを示していた。
どうしよかと悩んでいると、
「マスター、それはこちらにお任せを」
見ると葵がいた、いやそれよりもふた周りほど小さい。
「君は?」
「私は、マスターのサポートをする葵様の下位分体として生まれました。葵様が忙しくこちらまで来れないため、私たちが赴くことになりました」
「達?二人以上いるってことか?」
「そうです、では。こちらを」
そう言って、いつの間にかあったトレイの上に乗ったインカムともうひとりがどこかの画面を表示していた。
「聞こえるか?」
『はい。聞こえます』
「一応命じておいたはずだが、なにかやばいのがいたか?」
『八時の方向、空母です!!』
「艦載は」
『グリフォンとペガサスの混成部隊。事前資料によると愚連隊のようです、濃霧弾の発生させた濃霧で発見が遅れました』
「それは俺のミスだ、あとで反省会を開こう。対応は同じでいい、音光弾装填!!」
『了解、音光弾装填』
「発射タイミングをそちらに任せる、できるか?」
『できれば、そちらでお願いします』
「……わかった、モニターはリアルタイムを維持、画面は標準と同期。離陸した瞬間に発砲、遅延でちょうど部隊の中央で発光するように、時間計算を頼む」
『わかりました、……諸元設定完了!いつでもどうぞ』
緊張感が漂う中、彼らが離陸したのが見えた。
「……撃てぇ!!」
号令とともに、モニターからとんでもない音が出た。
彼らは散開して、弾頭をよけたようだがそれでは遅い。
光と音が彼らに襲いかかる。
防ぐことができなかった彼らは、発光が止むころには影も形も洋上に見うけることはできなかった。
「これで『申し上げます、11時から1時の方角まで敵艦多数!!』一難去ってまた一難か。ここを任せるいいいか?」
「かまいません、まかされました」
聞くや否や転移陣に乗った。