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命を張るもの達

「もうまもなく、ノンコアスライム達による探索隊によって確認できた集落につきます」


「わかった。こちらから出向くんだ、歩きで行くぞ」


「……わかりました、もう少し接近してから転移準備にかかります」





そこは静かな森の中、無論のこと人がいる気配はない。

音もなく現れた小さな魔力光だけが、彼らの出現を知らせた。


「転移完了、改良型転移陣の調子も良好です」


「問題は今のところなしか、どこに集落があるか案内してくれ」


「わかりました」




案内されると森の中で開けた場所に出た。

近くには、門がありそれなりの大きさの集落を形成しているようだ。

門番も立ち、警戒態勢もそこそこのようだ。

いきなり不審者として、扱われることもないと思いたい。

そのまま門番の近くに行き、話しかける。


「こちらは、新人のダンジョンマスターなんだが、上役と話をさせてもらえないだろうか」


敵意を全くださずに、話しかける。

門番は俺を見て、そして隣の葵を見て、


「少し待て」


そう言って、若いほうを知らせに走らせた。

そう言った彼は槍を上げているものの、その唯立っているその姿に一部の隙もなく。

歴戦の戦士の様相をみせていた。

こちらがなにかしらすれば、即座に彼はその槍をこちらに向けるだろう。

勝ち目はない、だからこそ俺は真摯に彼の目を見続けた。

こちらは、侵略者ではないと来訪者だと静かに態度で示す。

静かに言葉を介さぬ会話、それはさながら冷戦のような戦いだった。

この静かな戦いが終わりを迎えたのは、それからほどなくのことだった。




集落のおおよそ中央、彼らの長が住んでいる建物があった。

中に案内され応接間としてはやや簡素な広い部屋についた、その中央にゴザのようなものを敷いして、静かに瞑想をするかのように、瞳を閉じて座禅を組む一匹のリザードマンがいた。

歳などわからないが、その覇気が長年の経験と実績に基づくものだと素人の人間にも理解できた。


「おや、客人ですかな。……申し訳ない、瞑想の時間だったものですから」


「いいえ構いません、これほどのお方とは思わずこちらも驚きのあまり固まってしまいましたので」


すっと開かれた眼光は、特別な力なんてなくても相手を経験だけで見抜くことができるとそう告げていた。


「お話があるそうですが、それはあの国のことに関してですか?」


「そうです、我々は現状の戦力とダンジョンの能力を鑑み、この大陸よりの脱出を決定いたしました。ついて、彼らがダンジョンへ侵攻してくる前に彼らは、周囲の彼らに従わない者たちの掃討作戦を開始する運びとなりました」


「それは、本当ですかな?」


「複数の各所に耳のいいのがいましてね。そいつらに、録音させているのですよ。逐一、現状を。聞きますか?」


「……いいえ、聞かずとも見ればわかります。その言葉に嘘偽りはないようですな。では聞きましょう。この場所を、彼らが発見していると思いますか?」


「確証はありませんが、していると思います。おそらくかなり前から」


「その根拠は?お有りになるのでしょう」


「はい。ひとつお尋ねしますがこちらにあの国からの間の子が、来ていませんか?」


「来ていますが、その子に?」


「おそらく、埋め込まれているかと」


「なんということを、われらが子を見捨てられんのも子を疑わんのも見越してか」


「おそらく、どちらであったとしても結果には変わりがないそう考えていたんでしょう。あのアーティファクトは、たとえ焼かれても残るので死体が墓地に埋葬されても。かなりの確率でその集落の場所は予測できます。あとは確認のための部隊を送れば―――」


「こちらに気づかれることなく、位置の把握ができると」


「そうです、加えて生きているのなら、集落のおおよその広場、緊急時の集合場所も把握しようと思えばできるはずです。人質もたやすく取れるかと」


「……あの子は、なんのために生まれたのですか? ここに来たとき、かなりの傷を負っていました。今生きているのは、偶然の積み重ねの結果に過ぎません、お聞きしてもよろしいでしょうか」


「本人は?」


「聞かせられない話ですか?」


「できることならば」


「わかりました……今はここにはいないようですな」


「では、ここからは彼女の父親が放った言葉を、お伝えします。私は伝えるだけですから、その怒りを向けることのないように」


「わかりました、お聞きしましょう」


「『道具が使える道具を生んだだけだ』。正直言えば人としてどうかと思いますが、彼らの範疇ではあなたがたは物なのだから、自分が手に入れたものをどうしようと、構わないという理論の下ででた言葉でしょう」


老人の右腕に力がこもるのがわかる。まるでぶつけるべき相手を探すかのような怒りがそこに宿っていた。


「許すことなどできないとは、思っていました。ですが、手加減をする必要もないとは思いもよりませんでした」


「では我々は、伝えることだけを伝えに来たので、ではこれで」


そう言って立ち上がろうとすると、


「ひとつ、お伝えすることがあります」


「なんでしょう」


「帰る道は変えたほうがいいと思いますよ。それと、私の集落にいる彼女たちを預かってください」


「彼女……達?まさか私の言ったことに気がついたと」


「伊達に歳はとっておりませんので、この島の集落すべての者たちは歴戦の古強者しかおりません」


「覚悟を舐めておりました。申し訳なく思います」


深々と頭を下げる、それに倣って葵も下げる。


「気にせんでください私たちもあなたがたを試したんですからな」


「連絡手段もあると、正面切って戦えないとは思っていましたがこれほどとは」


驚いていると、思いついたように訊ねてきた。


「それと我々の戦いを伝えることはできますかな」


「はい、もちろんです。そのための機材も説明書と一緒にお渡しします」


即座に葵に指示して小型カメラとその取扱説明書を彼に渡す。


「ほう、これほどの機能を持ったものを惜しげもなく」


「構いせん、破壊されても回収は自力で行うので、どうぞお気になさらずに」


「ありがとうございます」


この数日後、この集落方面から黒煙が上がり、預かった子供たちが無言で黙祷していた。

一つの終が始まる。

脱出までの時間を稼ぐこと、それだけのために命をかけた彼らは俺の心にいつまでも残り続けるだろう。

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