作戦『トンボ』開始
ダンジョンの入口が閉じて、数分の時が経過したとき、聖女のすぐ近くに画面が表示される。
『ようこそ、スライムダンジョンへ聖女様』
失礼のない言葉と礼が、画面の向こうからなされた。
「はじめまして、私はカミラ・アフィエイと申します。この度ダンジョン調査でこちらに着させていただきました。私はあなたたちと直に話し合いたいと思います、後ろの方々はそうではなかったのかもしれませんが」
『わかりました、そこで少々お待ちください』
そう言うと、聖女の足元が輝き、床にできた魔法陣の光に包まれる。
光に目がくらんだのは数秒、それだけで、景色は一変した。
「ようこそ、マスタールームへ」
そうしてで迎えたのは、青い半透明の少女だった。
「私の名前は葵、マスターにつけてもらった大切な名前です」
「そうでしたか、アオイさん改めて名乗らしていただきます。聖女候補の一人カミラ・アフィエイです」
「候補ですか?聖女の一人かと思ったのですが」
「いまでも、聖女ではないんです。たとえ皆から祝福されようとも、あの男に認められようとも彼女がならなかったそれだけでも今でも私は聖女候補です。この行いも彼女を真似ているだけです」
「そうですか。すいません、辛いこと思い出させてしまいまして」
「いいえ、気にしないでください」
「いいえ、お詫びと致しまして、こちらの方でお風呂をご用意させていいただきました」
「お風呂ですか?湯浴み…ですか」
「はい、汚れた姿で殿方にお会いするのは女性としては、いただけないでしょう」
「……なるほど、理解しました。そこまで言われたら、仕方ありません。案内してください」
聖女が案内されたのは、大衆浴場である。
一から手作りして、全員に衛生の徹底指導をしてみんなが安心して使える浴場にしてある。
現在の時刻は、ちょうどどちらの種族も入る時間ではないため、貸切のようになっている。
「随分と広いのですね。これは、民衆用ですか?それにしては作りも材質もいいもののように見えますが」
「はい、民衆用です。マスターいわく、下の人への福利厚生はケチるべきじゃないっていってましたから。でも、マスターもここを使うことがあります」
「そうなんですか?」
「裸の付き合いは必要なことだといって」
「随分と庶民派なんですね」
「もともと庶民だと言っていましたが、マスターが考えることが庶民なのかはわかりません」
そんな和気藹々としているそのさなか、脱衣所の方では、そのマスターともうひとりケモ耳の生えた少女がいた。彼女の名はフラム、コボルトと人のハーフであり、ダンジョンマスターへの献上品だった。
「どうだ、反応の方は」
そう念話で伝えながら、聖女の服を調べるマスターを見ながら、
「これ普通に喋ったほうがいいんじゃないの?」
「盗聴器を探してんだから、しゃべっちゃ意味ないだろ」
「その盗聴器をがなんなのか答えなさいよ。私はあなたの味方になったつもりよ」
「それでもだ、意味が通じないうちはな」
「なんか釈然としない」
黙々と下着を漁る彼女もはたからみ獲れば変質者の仲間に感じられるだろう。
「こっちには反応なし、そっちは?」
フードを注意深く観察していた、遠谷はその布の一部を切り裂いた
「ちょ?!」
驚く声を上げる彼女を制して、そっと裂いた布の隙間に手を入れてその中に合った物を取り出す。
それは小さな、マイクロチップほどのものである。
それを握り締めながら、フラムに合図を出す。
合図を受けて、下着を戻し終えたフラムが風呂場へ声を出す。
「マスター!!こんなところでなにやってんの?!」
「ちょ待て誤解だ!!」
声だけの演技をしながら、葵が来るのを待つ。
「マスター?なにをしているのですか?」
聖女から見れば、黒いオーラが出ていたことだろう。
「申し訳ありません、もう少々お時間を頂きます。それまで、このフラムのお相手をしていてください」
「は、はい」
この女の気迫に押されそんな返答しかできなくなる聖女。
この時点で彼女は、無関係とされているからこその扱いである。
ともあれ、作戦トンボは開始される運びとなった。