外の住人たちと
計画実行から二日ほど経った時だ。
「マスター、このダンジョンに侵入してきた魔物がいます」
「知ってる、コボルトとフェアリーだろ」
「そうですが、まさか移住させてきたのですか?」
「そのまさかだ、条件をつけてな」
「その条件にノンスライムコアが関わっているですか?」
「ああ、あれはモンスターにとって栄養になるんだ」
「そうなんですか、初めて知りました」
意外だという顔をした葵に対して訊ねる。
「なんだ知らなかったのか?説明文に乗っているんだが」
「私は知っているつもりでいましたからそんなものは見てなかったんです」
「そっか、こういう落とし穴があるから気をつけないとな、そっちはどうだ?」
「今は、形態移行と浮上試験の最中です。嵐の中だとさすがにいくつか問題点が出ますね」
「問題点の洗い出しとその対策も終わっているのか?」
「はい。あとは、本体にフィードバックするだけです」
「わかった日数を遅らせてもいい、安全最優先だ」
「わかりました、交渉はもうお済ですか?」
「ああ、ここに来た時点で済んでいる。あとはここを嗅ぎつけられる前に、あれが完成するかどうかだな」
「間に合わせてみせます。では、失礼します」
軽く礼をするとそのまま部屋を出ていった、これまでと違い余裕はない。
諜報部隊を編成して、聖国の方へやっていたがそちらの方で大きな何かがあったのかもしれない。
こちらも働かなければなるまい。
その翌日のことだ、葵は俺が起きたあとと朝食を共にするとそそくさと出て行った
前日は、俺ひとりで二つの種族との交渉に入っていた。
ここに来た時点で、捨て駒として扱わないことを約束しているので、そのまま全員三層目に住んでもらった。
コボルトたちには穀物と野菜の育成に入ってもらうことになり、フェアリーたちには果物の育成だ。
無論コボルトたちの方が重要度は高いが、果物による壊血病予防もあるので意外と重要な役どころかもしれない。
果物を食べさせたのは効果的だったか。
などと考えていると、スマフォに連絡が来ていた。
内容はいくつかの穀物と野菜が備蓄態勢に入ったということだ。
これでいくらかの安心ができるようになった。
しかしいくらかだ、根本的には何ら解決にはなっていない。
何ら事態になった時すぐに逃げ出せるように、コボルトとフェアリーたちを三層目に住まわせているのだから。
葵に頼んでいるのは、逃げ出すための方舟だ。
とはいえ、あれを方舟と言ってしまうと方舟に乗った方々にラリアットを食らいそうなのだが。
こちらでも、やれることはあるがそのためのアイテムが足りない、受信側はなんとかなったが送信側の機器がまだリストにない。
それさえ手に入れば逃げる時に、聖国の混乱(あの国は傍目では分からないが上のいくらかは腐っている)を誘えるのだがそのための一手がない。
思いのほか手にいれづらいものだなとは考えつつ、ほかにも出てきた証拠にをばら撒く手段は簡単だ。
蛇足になるが諜報部隊は、葵と俺とで分けてある。
理由としては、俺が脱出の際の混乱を起こすための攻めの情報を欲しがっているのに対し、葵はこのダンジョンの関する情報いわば守りの情報を集めている。
この食い違いは、一つの諜報部隊で分けてやるよりも役割特化させて、それぞれの欲しい情報を得られるようにするべきだとの考えの一致からこのようにした。
ともあれ、彼らを迎え入れた我がダンジョンは比較的穏やかにこの日を終えてゆく。
まるで嵐の前の静けさのように。