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悪夢の裏側

「これほどの一方的な戦いになるとは思いませんでした」


とは、葵の感想である。

なんのことを言っているのか、それは彼らが出港した頃にまで遡る。




「おたんこ、あほう、間抜けの出航を確認、されど追跡できず」


「ステルスか、想定どうりだな」


「あの、おたんことはなんでしょう?」


「ま、気にすんな。ただの記号だ」


「はぁ」


なんともはっきりしない返事だが、これ以上尋ねるのは後回しと考え次の話に入る。


「ハリネズミの準備は整いました」


「よし水中砲身形成」


「了解水中砲身形成」


ハリネズミことヘッジホッグは水上遊撃双胴艦である。

現在、主砲試験の真っ最中であり、仮説の指揮所と主砲しか積んでおらず。

このため秘匿兵器として、表舞台に出さないことにしたのだ。

そのための水中砲身形成である。

空気の結界を形成し、それを海面まで砲身の延長線上に伸ばす。

火薬を濡らさずに、砲をつかうための技として考えたのだが、それならば魚雷でいいのではという声に負けており、今の今まで使われる選択肢はなかったものである。


「形成完了。右一左一右二左二いつでも撃てます」


「転移弾用意、弾頭は海中拡散粘着弾で」


「了解、いつでもどうぞ」


「至近弾に留めろよ……撃て!!」


画面の中から聞こえる音は、抑えられているとはいえそれなりに響く。


「な、何の音だ!!」


この場にいる場違いな人間が叫ぶ。

救助者の一人でありながら、葬儀に参加せずに、仇を自分の手で討てると勘違いした男だ。

結果は、的確な指示もなくただわめき散らすだけの欠陥品のスピーカーのようになってしまっている。

これがこの男の限界であり、そして、


「この男を始末する理由でもありますが」


小さくつぶやかれた言葉に、男が反応するはずもなく。


「なんなのだいまの音は、なぜこの小さな板から音がしたのだ?」


「答える義務はありません、あなたのように口の軽い人間には特に」


「何?!」


むしろ今ここで始末すること自体計画の一端だと、男には伝えられることはない。

この男の罪は、きっと知られることはないだろう。

自分の専属娼婦(だと思っていた)にべらべら内情を喋っていたことが、始末される理由などということは。

男を守ってくれる存在も諌めていた存在も、もうこの世にいないのだから。

自ら漏らしたその渡航計画が、彼の寿命を縮めてしまったことなど。

男は思いもよらなかっただろう。




男をとある個室に案内しておいた間にも事態は進行してゆく。

既に護衛の帆船団は、海中に潜んでいた潜水艦の餌食となっており。

もう主力である、動力船五隻しか残されていないのだ。

なぜ帆船団をピンポイントに狙えたのか。

それこそが先ほど打ち込まれた。海中拡散粘着弾を撃ち込んだ理由である。

たとえステルスを使用されていようとも、あれに使われているのがノンコアスライムである限り。

こちらからは、相手の位置が丸見えなのだ。

たとえどれほどうまく隠蔽しようとも、ビーコン付きのままでは、子供のお遊びに等しい。

微笑ましいがここは実戦、容赦はしない。

動力船についても同様、こちらは結界の外周部に同化するようにノンコアスライムを貼り付け、特定の位置に来たら発動するように仕掛けたトラップをおいた。

起動したトラップは簡単に言えば、粘性の網を展開するものである。

それが船底に張り付くと同時に、重さ二十トンもの錨が海底に打ち込まれるのだ。

当然船は身動きが取れなくなり、あとは沈むのを待つばかりとなってしまったわけである。

このトラップは、人のみでは岸にたどり着くことは不可能な距離の海域に出たときに最大の効力を発揮する。

そのまま船が動かなければ、船員たちに不満が発生するだろう。

海の中に入って確認しようにも、先ほどの正体不明の攻撃が、また来たらどうする?

その恐怖が、彼らをひるませた。

結果、攻撃することもできずにただとどまるしかなかったのだ。

あとは、攻撃命中圏内に入り込む寸前に、ランダムに配置した不可視の刃が最後の一隻を切り刻む。

その最後の刃は、薄く固い障壁だ。

あの船には、攻撃兵器は一切積んでいない。

しかし最後の一撃はあの船に行わせたい。

この二律背反のつじつまを合わせるのために障壁の刃が必要だったのだ。

結果見事に、すべての船は沈黙し、四隻の動力船は罠から解放されると。人員救助に急行した。

青い船は、その役目を終えた後海中にその姿を消した。

クリスマスにプレゼントです。

今年中の次話更新は無理かもしれません。

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