姫君
順調にストックを消化中。
11/5現在これがラスト。
これ以降が出るのが先か、それともここまで来るのが先か。
「潜水モードに移行完了、以降自動航行で問題ないと思います」
「ありがとう、各員に告ぐこれ以降現状を警戒態勢として、皆注意しながら休憩してくれ。問題が起きた場合即座に行動に移れるようにだけしておいてくれ」
それだけいうと、椅子に腰を下ろし、息を一息つき体をリラックスさせる。
「おつかれさまです。このあと少しお休みになられたほうがいいのでは?」
「そうかもしれんな、みんな俺は仮眠を取る。索敵、聴音班は三つのグループを作り、八時間交代で二十四時間監視して欲しい、また君たちには専属の医療班をつける。体調が悪いものはそちらに相談してくれ」
そう指示を出すと、不思議そうな顔をして索敵班のひとりがたずねてきた。
「なぜ、そこまで手厚くしてくれるのですか?」
「戦闘班は、有事の際に働けるようにたっぷり休息をとってもらうからな。だが索敵、聴音に関しては二十四時間航海で休む暇はない。しかし、俺の戦術には敵の早期発見及び位置情報は絶対に必要なものだ」
「お心遣い頂きありがとうございます。マスターのお心のままに」
いない間の指示を伝え終えると、マスタールームへ赴き自分のベットに横になるとそのまま眠りについた。
「マ―――、――ター、マスター。マスター緊急事態です」
急な起床を促されると焦った顔の葵が、目の前にいた。
起き上がりながら、
「何がおきた、簡潔に報告して欲しい」
「海面上に着水音多数及び大量の死体が海中に!!」
「ッ!死体よりも海中でもがいている生存者を優先。魔力を与える」
そっと手を差し出す、その手をとり魔力を譲渡する。ありえない量の魔力が葵に流れ込む。
「この量なら、行けるかと」
「急いでくれ、時間との戦いだ。海上の状態も知りたい。それも並行してくれ」
「マスターのお心のままに」
立ち上がり部屋を出る、ついてくる葵に、
「俺も間違う、それを正してくれ」
「無論です」
艦橋に着くまで無言だった。
「状況を報告してくれ」
艦橋に着くなり、そう言った。
索敵班のひとりが、こちらを向きながら。
「海上で海戦、いえ訂正します。蹂躙が行われています」
「詳しく頼む」
「複数の艦艇が一隻を包囲、わざと命中弾を減らし相手の心を折るつもりです」
「敵は海賊か、襲われているのは?」
「おそらく、貴族所有の艦艇です。護衛艦艇はいま海中に没しています」
「俺がここに来るまでの間に……か?」
否定の意を示すように首を振りながら、
「音だけは拾っています。お聞きになりますか」
聴音班の一人が言う、
「いやいい」
手で制して、続ける。
「聞かせなきゃいけない相手がいる、死なせるわけにはいかん。捕獲モード起動!!」
「了解!!捕獲モード起動!!繰り返す、捕獲モード起動!!各員衝撃に注意せよ!!」
捕獲モード、それは船首をただ単に変形してダンジョン内の部屋に仕舞い込むだけのモードである。
欠点としては、装甲の薄い内部を露出すること、ダンジョンとは言えそれでも現状の戦力では強力な個に対応が厳しいということ。なのでいままで試験すらしてこなかったモードである。
こちらとしても、不安なままというのがあるがそれを表に出すことはない。
それよりも、こちらは迅速に回収して海中に潜らねばならない。
焦った顔、不安げな顔をせず毅然とした態度で挑まなければならない。
ここから先は、
「戦いだ、抜かるなよ!!」
『了解』
船首に変化が生まれる。船丸々一つを飲み込まんとする、大きな口だ。
「抵抗の増大による、速度低下が考えられる。注意してくれ」
「問題ない範囲です、開くタイミングは?」
「海上に出て、あの船を飲み込む十秒前だな」
「了解です。……予定位置に到着。浮上します、上方にいる敵艦を押しのけます。各員衝撃に注意してください」
その言葉とともに一度大きく揺れる、その揺れが伝わったのは、艦橋のみでありそれ以外に伝わることはなかった。
「そのまま口開きます!!」
艦首を大きく開けながら襲われていた船を飲み込む。囲んでいた者たちが正気に戻る頃には、
「閉口、続けて潜水します。急速注水!!」
その船の姿は海中に没していた。
海賊たちは慌てて指示を出すがあちらこちらで指示が飛び交い何もできずにいた。
それを聴く者の存在にすら気づけずに。
「どの船も混乱の極みにあるようです、こちらに何らかのマーカーを設置した様子はありません」
聴音班からの言葉に、一息ため息をつく。
「じゃ、行くか。どこのドックに入ってるんだ」
「二十番ドックです。柩もそこに」
「残酷なことは俺が伝える、それでいいか」
「その代わり、あなたを守ることを許してください」
「許可するがその代わり、死んでくれるなよ」
「マスターの代わりに、なら約束できますが。ともに、は約束できません」
「それでいい、護衛は隠れていて欲しい。できるか?」
メイドスライム達がこくんと頷くと、船の床と同化して消えた。
「ああ、それと葵。先行して諜報部隊を大陸中に放て、目印はあの船についていた国旗だ。そこから何が起きているのかを調べて欲しい。どうにもきな臭い」
「わかりました」
一路、葵の案内で二十番ドックへと向かう。
二十番ドックの中は、魔力譲渡で増やしたメイドスライム隊が東奔西走する野戦病院さながらの光景となっていた。
その中で、指揮をとっているメイドスライムがいる。仕方なく思うが話しかけよう。
「忙しいなかすまないが、ちょっといいだろうか」
「はいどちら様で……マスターそれに葵様?!なにかこちらに不備がありましたでしょうか」
驚いた様子で、指揮していたメイドスライムが言う。
皆の手が止まりそうになったので、
「大丈夫だ、君たちは十分にやっている。その支援とあの船に乗っている重要人物と話がしたい。できるか?」
「はい、ありがとうございます。トリアージの導入で包帯替わりのスライムが少なくなってきている程度で済んでいます。……重要人物ですか、意識が戻っている人の中にそのような人物がいるかどうか……いました。案内させます」
「いらないと言おうかとも思ったんだが、この状況ですまんな」
「構いません、マスターには申し訳ありませんがここは命の最前線です。無駄な行動はしないでください」
「重ね重ねありがとう」
そうして案内役に案内されるままに、救護所の一角に据えられた特別室に案内された。
そのベットで、上半身を起こしていたのは、金髪の美しい美人だった。
装飾の少ない格好なのにも関わらず右腕についた豪華な腕輪に、かすかな違和感を覚えたが今はそんなことを聞いている場合じゃない。
言わなければならないことがあるのだ。
「すまない。今、彼女と話はいいだろうか」
「はい、短時間なら許可できます。しかし心身に負担のかかることは、それとアレのことですが」
そう言いながら、視線で腕輪のことを示す。
声を小さくしながら、
「効果は?」
「魅了、隷属、探知。詳しくはわかりませんでしたが、見えた効果はこれだけです」
「わかった、説得してみる。外させるだけでいいのか」
「こちらでディスペルをかけます」
「とりあえず話そう」
そう言って、彼女に近づく。
「はじめまして、私はあなたがったを助けた責任者のシュトローマンと申します。呼びづらかったのならシュトで構いません」
「シュトさんですか?」
「ええ構いません、あなたのお名前は?」
「私は、アリーゼと申します」
「私はあなたに大変お辛いお話をしなければなりません。その前に、その腕輪いつ誰にもらったかわかりますか?」
「え、この襲撃と何か関係があるのですか?」
「関係あるのか、ないのかは今からです。渡していただけますか?」
「拒否します。関係があるのかないのかわからない段階で、これを渡すことはできません」
「では、鑑定を使います。抵抗しないでください」
「なぜですか、この腕輪にどんな価値が?」
「価値ではなく、込められた魔法です」
「それなら守護に、防壁、浄化の三つのはずですが」
「いいえ、そこに込められているのは魅了、隷属、探知です」
その言葉に首を振る。
「そんなはずがありません!!彼はそんな人ではない!!」
強い否定、だがその間に鑑定そのものは済んだ、結果は伝える気になれなかったが。
「そこまで言うのであれば仕方がない、こちらもあまりことを荒立てる気はない。があなたの装備しているものは、こちらの魔法を阻害する。外に出るのはしばらく控えていただきたい」
「わかりました、外出したい時は係りの人を呼べばいいので?」
「ええ、そうしてください。くれぐれも逃げようとか傷ついたものの慰問に行こうなどと考えないように、使っている魔道具の中には生命維持に使われているものもあるので、不用意に近づいてこれ以上犠牲者を増やさないよう願います」
「……わかりました」
うなだれる彼女に見向きもせずに、彼は一人葵を置いて進んでいく。表情は変えず、されど心は怒りに震えながら。
ある程度進んだところで、力強く壁を叩いた。
「マスターどうしたんですか?!」
叩いた壁に反応して、葵が姿を現す。
「葵、徹底的に調べ上げろ。腕輪の贈呈者のことを」
「あの魔法はどんな効果だったので」
「装着者は贈呈者を信頼する軽度の魅了。装着者は贈呈者の言うことに従ってしまう軽度の隷属。そして、専用の魔道具を使えばいついかなる場所に置いても感知可能強度の探知、なお探知によって彼女の周囲での魔法は阻害される。これだけやれば、彼女の生命の保証はできない。死んでくれと言っているようなものだ。今回の一件、贈呈者のこの上ない悪意が見え隠れしている。贈呈者のこと、その周囲及び裏で手を引いている物も、全部白日の下にさらけ出せ」
「マスターのお心のままに」
そう言って葵は、廊下の床に消えた。
あとに残った彼のその表情は照明に隠れ見えなかった。
ホントはもう一つサブタイついてました。
でもそこまでいかんのです。
こう言っちゃなんですが、君たち勝手に動きすぎ。