3. 骨拾いのナユタ――3
ナユタのどこがおかしいか、片鱗が見え始めます。
ナユタの装備は、色々と変わっていた。
一対の双剣、というだけならどこにでもありそうであるが、形質がどこか鋸のようであり、材質は骨で出来ていた。骨拾いの面目躍如といったところであるのかもしれないが、しかし、果たしてどれほど持つものなのだろうか。
シャーリーズからすれば、かなり脆そうな武装である。
しかし、ナユタは特に気にすることもしていないようだ。
腰に巻いてるベルトポーチもかなり小さく、装備も胸元と肩以外は案外軽量のようである。ただ、濃い緑の服装に赤毛のモヒカンもどきは、なんだか無駄に嫌な感覚を相手に与えるものだった。
「……何でそんな格好なんだ?」
「最適化さー」
間延びして答えるナユタであったが、シャーリーズはいまいち意味が分からなかった。
「ポーチも小さいようだが、携帯食やポーションは足りるのだろうか」
「無問題、無問題。気にしたってはじまらないし、私↑はいつもそぉんな感じなんさ」
やはり会話の仕方が変で、シャーリーズは妙な苦手意識を覚える。
しかし、これがギルドの受付嬢やら鍛冶屋の娘やらが彼を忌避する理由でないことだけは確かだ。異国の風体、異国のなまり、異国特有の髪型……なのかは知らないが、フォースメラ大陸にあってなおナユタの印象は「異邦人」という感覚を受けさせるものだった。
ふと、思いついてシャーリーズは聞く。
「君は、もしや異世界人だったりするのか?」
「違うさー。んー、でも私の出身地は↓、初代国家元首が異世界人疑惑あったかなー」
「そうなのか?」
「友達がそう言うんさー。まーたしばらく会ってないけど、↓元気にし↑てるかなー」
「……なら、その喋り方はその国のなまりか?」
「いやー、違うさ」
全くもって、意味の分からない相手であった。
話しながらも、二人は湊から山の方へと向かう。
火山帯と森とが、魔王による過去の土地改変で、捩れるように融合したようなそんな場所。
目玉のようにひずんだ、熱風吹き荒れる低山。
島の規模としては「腰」などには負けるものの、それでも「頭」の島は全体として大きい場所であった。
二人が向かうのは、そんな山の中枢。
ちょうど焼け付いた火山と木々が生茂る山とが、奇跡的なバランスで融合している場所だ。
空中に蒸気が漂い、異臭が立ち込める。聖女教会や神殿で「身体保護」の加護を受けていなければ、まずこんな場所にこようとはおもえない。
いや、受けていても普通は来ようと思わない。
いくら実力を試すためとはいえ、間違ってもこんな場所に来る冒険者は少ないだろう。
そういう意味では、シャーリーズとてナユタのことを言えないくらいには、十分変わり者であるといえた。
そんな彼女は、ナユタの突然の行動に思わず質問をする。
「何をやってるんだ?」
「燻すんさ」
なにを、とは聞かない。
ジョウグ用の餌を、あらかじめ買い付けてきたシャーリーズ。
その彼女から「荷物くらいなら持つよ」と言ってもらい受けたナユタが、突然火を起こし始めたのだ。
聞くまでもなく、何をやるかは予想がついた。
だからこそ、冒険者としての知識を求めて確認をとる。
「なぜ、餌を燻すんだ? 別に悪いわけではないだろうが、意味がよくわからない」
「ジョウグは、こんな地帯に生息してるでしょ↑お↓。だから、まだ血の匂いが残っている肉だったら、こうやって匂いを周囲にばらまいた方が、たくさん釣れるんさ」
「……私たちも危なくない? それ」
「そう思うのなら、シャーリーズはんは下がっておけって。俺は、まー、大丈夫だからさ↓」
やはり彼女からすれば、なんとも調子のつかめない男であった。
離れるシャーリーズを見て、ナユタはどこからともなく取り出した団扇をつかい、火に空気を送る。鉄分の臭いと、たんぱく質の焦げる臭いとが彼女の鼻をつく。
ジョウグのエサは基本的に肉ならば何でも良い。
なので、ナユタたちは消費の期限切れ、腐った肉を買っていった。
その肉であっても、加熱すると多少は美味しそうに感じるから、不思議なものである。
少しだけ口元を拭って、シャーリーズは警戒を続ける。
と、そんな時。
ナユタが、肉を少し千切って口に放り込んだ。
「(んな……!?)」
「んー、まー、これくらい焼けてれば上出来かな?」
火から少し肉を上にずらし、加熱する力を弱くする。その状態で、ナユタは肉のみ団扇で叩き、周辺に臭いを散らせた。
もちゃもちゃ。
口の中のものを、ナユタは飲み込んだ。
「(……い、いや、あれはないだろ。いくら”女神の加護”を受けているとはいえ、流石に……)」
大半の冒険者は、軍人や騎士団同様、教会で女神の加護を受けている。これにより、肉体の性能強化だけではなく、免疫力アップ、サバイバルにもある程度耐えられるように身体が強化される。
しかし、だからといって好き好んでサバイバルに取り組む冒険者たちは少ない。あくまでも生活の糧として行っているばかりなので、誰が好き好んで過酷な状況に身を放り投げるかという話だ。
そこのところを、ナユタは軽く無視していた。
確かに腹は下さないだろうとも。
しかし、だからといって何故腐った肉を喰らう。
わけもわからずシャーリーズが混乱していると、上空から不穏な気配。
魔力を撒き散らしながら飛ぶ、「掃除人」ーージョウグは、よだれを垂らしながら得物を探していた。
「シャーリーズはん、準備!」
ナユタの言葉に、彼女は弓を構えた。
ジョウグは、死肉を漁るモンスターである。海中でモンスター化した鮫であるが、自身よりも強い生物が海中におり、新天地を求めて空中をさまよう、そんなモンスターがこれだ。
陸上にも陸上でこのジョウグよりも強いモンスターがいたため、結果的にはハイエナのごとく、死肉を漁ったり横取りしたりする生き物となった。
無論、人間くらいだったら襲うこともある。
しかし、森の奥の奥にでも行かなければ、まず遭遇することはない。
そこを行けば、ここの位置取りはジョウグにとってかなり分が悪い場所だろう。
森に生息する彼らだが、本来なら火山帯は苦手で寄り付かない。
しかし、ここの土地はその形状がかなり独特であり、いくら彼らといえど、エサを探して飛び回れば、火山を通過すること必須である。
「じゃー、お仕事するさー」
そう言いながら、ナユタは腰から双剣を取り、構えた。
次回は戦闘回。さーていつの投稿になることやら(白い目)