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2. 骨拾いのナユタ――2

 

 

 鍛冶屋に向かうシャーリーズであったが、その前に一つ確認することが出来た。

 道中発見した、船に乗ってきた商人と話している村長の方へと向かう。


「無理ですよ、染髪剤は。ここに来るまでに『元素嵐』が強いんで、色が変わっちゃうんですよー。いくら原因があるとはいえど、もともとここら辺ではよく起こるじゃないですか」

「そこをなんとかなぁ。俺だけじゃなくて、需要は結構あるんだが……ん? ちょっと待っててくれ」


 シャーリーズの姿を確認して、商談を一時中止した村長である。商人も村長とは勝手知った仲なので、それで気分を悪くすることはなしない。すぐさま村長から言われた品物リストに目を通しはじめた。


 村長は、顎鬚を撫でながらシャーリーズに笑顔を向けた。


「どうしたシャーリーズ、何か用か?」

「少し確認したいんですが……。今、『尻尾』の方で大きな依頼があると聞きました。でも何故、その情報が船に連絡されなかったのでしょうか」


 映像通信装置(というか結晶)が、近年はどの船にも搭載されている。気象変動などをすぐに通達したり、遭難した場合にSOSを出したり出来るようにという配慮からである。

 なので、そう考えればシャーリーズの乗っていた船に、その情報が回っていないのはおかしいだろう。


 彼女の確認に、村長は困ったように笑った。


「あー、すまないな。ちょっとした裏取引があってなぁ」

「裏?」

「別に裏ってわけじゃないんだけどなぁ。……さっき染髪剤の話したろ? そこにも少し関係してくるんだがな」


 村長は、肩を竦めて語る。


「『元素嵐』って、分かるよな?」

「特定の物体の元素配置をおかしくして、何らかの異常を引き起こす現象でしたっけ?」

「ああ、それだ。で、そのお陰でここの列島だと、染髪剤とか、スパイスとか、一部の商品が取引できないでいるんだが……、その発生頻度を増やしてる原因が最近みつかってな」


 村長の話によれば、こうである。

 元素嵐を引き起こす原因のモンスターが、最近島で発見された。

 その討伐を、特別依頼として今行ってもらっているところである。


 島の頭から尻尾に向けてモンスターたちを追い込み、そちらで一斉に駆除する予定とのことだ。


「もともとそのモンスターがどうしてこっちに来たかっていうと、まぁ、とある国の『変な』ダンジョンから流れてきたものらしいんだけどな」

「とある国の、『変な』ダンジョン?」

「噂でしか聞いたことないんだが……、アレだ、楽しいらしい」

「はい?」

「俺もよくわからん」


 ともかく、その国のダンジョンから、その妙なモンスターが島に流れ着いたらしい。


「そんで、そこの王様とモンスター管理の責任者と、ちょっくら取引してな。別に『元素嵐』以外は害がないらしいんだが、いつまでも一部の商品が取引できないってのは拙いだろ?」

「つまり、村長は髪を染めたいと」

「飛躍するんじゃねぇよ。間違ってはいないが、それだけが理由じゃないさ」


 かくして、その王国から多少の賠償金と、レアアイテム(ダンジョンからとれる貴重品)が送られることとなったらしい。


「……裏取引じゃないですか」

「いや、裏じゃないんだよ。どっちの国でも、その話は開示してるし。ただまぁ、そんなに害はないから、他所んところに知らせる必要もなかったってだけだ」


 いまいち納得できなかったシャーリーズであったが、少なくとも島民が納得してるなら口出しするものではないだろう。


 話の腰を折って悪かったと、商人に頭を下げるシャーリーズ。彼女より少し若そうな商人は、顔を赤くして「大丈夫ですよ」と返した。



    ※    ※    ※    ※



 鍛冶屋は、妙にがっしりした作りだった。

 吹けば飛んでしまいそうな村の家屋が続く中、唯一と言って良いほど強固なつくりを持つ、レンガの家屋である。


 煙突からは水蒸気と共に、鉄分が多く含まれた独特な臭い。

 金属と元素が焼ける臭いが鼻にきついが、シャーリーズはむしろ少し楽しそうだった。


「失礼する」

「はい、いらっしゃい」


 ゴーグルをかけた女性が、シャーリーズに返事をした。

 店のカウンターに人は居ないが、特殊な魔術加工がしてあって金の入った棚は簡単に開けられない。それを一瞥した後、工房の置くから歩いてきた女性を見た。


「……あら、こんな時にシルバーランクかしら?」

「いや、ブロンズだ」


 ギルドカード(といってもこの世界では名刺くらいの意味合いしかないが)を見せるシャーリーズ。「あら~、慣れた感じだったからてっきり。ごめんね?」と言う女性は、何というかこう、男前な雰囲気だった。


 女性は、さらしの上からタンクトップのようなものを着て、下は作業着のズボンを履いていた。


「貴女が鍛冶師か?」

「違う違う。それ、うちのお爺ちゃん。むしろこっちは細工師の方ね。……魔法陣も、少しくらいなら刻めるわよ?」

「そうか」


 シャーリーズの右腕を見て、少し驚いてからそう言ったのだから、自称に偽りはないだろう。

 彼女のガントレットに使われている術は、少々特殊というか、変わったものである。

 一瞥でそれを理解したのだから、腕は良いのかもしれない。


「で、わざわざ『鍛冶師』を指名するってことは、お爺ちゃんに用事かしら? シャーリーズさん」

「いや。今ここに、ナユタという冒険者が来てると思うんだけど」

「……へ?」


 鍛冶屋の娘は、顔を引きつらせた。


「えっと……、こんなこと聞くのもアレだけど、『骨拾い』に何か用?」


 ナユタという冒険者が「骨拾い」と呼ばれていることを、彼女は看板娘から聞いていた。

 その由来までは知らないが、一様に骨拾いの彼について微妙な表情を浮かべる看板娘である。おおかた、あんまり良い理由から呼ばれているわけではないのだろう。


 だが、実力的に問題ないというのなら一度は会ってみようというのが、シャーリーズの考えであった。基本的にそういった噂ばかりを当てにしない彼女は、ある意味冒険者の鑑である。


 そんな彼女の姿勢を理解し、ギルドからの紹介状を見た鍛冶屋の娘は、「う~~~ん」と強く唸った。


「確かに男手が欲しい、実力も欲しい、性格的にも問題ないって意味でなら、『骨拾い』は最適なんだろうけど、でもねぇ……。あんまりオススメはしないわよ?」

「何かトラブルでもあったのか?」

「そういうわけじゃないんだけど、彼は、何というか……」


 逡巡した後、彼女はシャーリーズの両肩に手を置いた。


「感化されるのは良いけど、人間やめるようなことはしないでね」

「は、はい?」

「あんなのが何人も増えると、こっちが正気で居られなくなりそうだから……」


 それだけ言って、彼女はシャーリーズを店の奥へ案内した。

 わけが分からないと思いつつも、彼女についていくシャーリーズ。


 工房の奥では、痩せた老人と大男が武器を鍛えているようだった。


「そーれ、よいしょー!」

 老人の掛け声に。

「アッ、んっアぁン・・・、エぇえーイッ!」

 甲高い声で打ち返す大男。


 大男とはいっても、冒険者の中では割と平均的な背丈だろう。

 ややモヒカンチックな赤毛に、少し色黒の肌が腕や首元から見える。


 しばらく二人は作業を繰り返し、やがて一本の剣が完成する。


「んん~~~~、いまいち! もっと早く振り下ろさないと加工は大変だぞッ!」

「おやっさん、厳しーですよー……」


 大男の声は、先ほどまでのものとは逆で妙に低音だった。

 あと結構小さい声だった。


 シャーリーズは思わず聞いた。


「……何で声が裏返ってるの?」

「……ん、声量、あんまないのさー」


 よく聞けば普通に「えい、ふ、は、えーい!」みたいな掛け声をしているようなのだが、変な高さになってるためかそう聞こえない。思わず質問したシャーリーズだったが、まさかの即答に思わず苦笑いが零れた。


 振り返った大男。なんとなく物欲しそう? な子犬みたいな目と、少しすぼめられた唇。

 赤毛に肌の色、先ほどの声の高さ。看板娘から聞いていた特徴を一通りそろえた、いわく『変な』冒険者はそこに居た。


「貴方がナユタか。……案外普通だ」

「……何、どういう風に聞いてきたー? というか君は誰ぇ?」


 ナユタは、なんとなく間延びした喋り方だった。

 今のところ、確かにちょっと変わっているようではあるが、これくらいはまだ普通の範疇だろうとシャーリーズは考えた。


 世の中には「王子珍道中」という小説の主人公のごとく、水上を笑いながら走る変態じみた所業を行う冒険者も居るくらいなのである。

 そいつは普段から「うけけけけけっけけ」とか変な笑い声を上げていたが、それにくらべればまだまだナユタは普通の範疇だった。


「ねー、誰このビューティ? 誰このビューティ?」

「そんな褒められ方されたのは初めてだけど……。シャーリーズだ。ブロンズの冒険者で、準シルバー依頼突破している」


 看板娘が書いた「依頼状」をナユタに見せた。「私一人で運ぶには、討伐依頼の数として微妙だから手伝って欲しい」

「ジョウグのキモ、十個……? 別に、そんなに気にしなくても大丈夫じゃないー? 実力もそこそこあるみたいだし」

「いや、行くとなるとキモも大きいし。あと、抱えたままでは戦うこともままならない」

「なる↑ほど↓ねー」


 独特なイントネーションでこたえるナユタ。

 なんとなく会話の調子が乱され、シャーリーズは少し左頬が引きつった。


「まあどうせ鍛冶以外暇だから手伝ってもいいけど、私に一緒に依頼受けてくれって言うんなら、条件があるけどかまわない?」

「ああ、聞いておこう」

「骨」


 ナユタは、先ほど鍛冶師の老人と鍛えていた剣を指差した。


「あと牙を私に譲る、それが条件。もし欲しいんなら、割合はそっち3、こっち7で」

「? ああ、別に構わないが」

「このビューティー、話がわかる人だよぉ……」


 ナユタは突然泣き出した。

 わけもわからず、シャーリーズは混乱した。


 助け舟とばかりにか、鍛冶屋の娘が耳打ちする。


「ほら、ああいうのって素材だけど、武器の材料になったりもするじゃない。それで前によく揉めてて、最近じゃソロで仕事することが多いのよ、『骨拾い』は」

「なるほど……」


 呼び名から予想はしていたが、やはり骨集めを主な目的としている冒険者であるらしい。

 確かに、シャーリーズが「普通の」弓使いであったなら、鍛冶屋の娘が指摘した部分の問題が出てくるかもしれない。


 だが幸運なことに、彼女は「元素を矢に変えて」狙撃する「魔弓」の使い手であった。

 必然、そういった類の問題はあまり起こらないと考えてよいだろう。


 なんとなく、色々と散々な印象を抱かせられていた相手に親近感の湧いたシャーリーズであった。


「そういうことなら、あまり心配しないでも大丈夫だ」

「そう言ってもらえると、たす↑かる↓わー……。じゃあ、よろしくねー!」

「ああ、宜しく」


 こうして、ナユタとシャーリーズは即席パーティーを組むこととなった。


 後にシャーリーズは述懐することとなる。

 この時は、まだこのナユタという男のことを色々と良いように誤解していたと。

 

 

????「……信賞必罰でございます」

???「ビンタじゃないのはいいけど、チョップも少しは加減をおおおおッ!」

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