#3 フェノ=クリチャード
「イツキくん大きくなったねぇ〜何年ぶりだろうか。」
「いえ、まだ一ヶ月も経っていませんよ。」
この少し弱々しい声と僕の嫌いな頭の掻き毟り方。
以前宿泊客として規定時間過ぎても出て行かず、しまいには部屋へ大事な資料とやらを忘れていった迷惑な男性。
「あっはは、そうだっけ?まぁ、あの時は本当に助かったよ。」
前回はフードで顔を見ることはできなかったが、始めてこの人の顔を見た。
肌は白く少し短めの金髪と尖った耳。
エミルと同じエルフ族だろう。
しかし、予想通りの弱々そうな顔立ちだ。
「エルフ族だったんですね。」
「そうだよ、僕は〈ユークリッド〉じゃなく〈王国〉出身なんだけどね。」
この〈カマストマード〉には沢山の集落や町がある。
各種族ごとに集まってできた町などが多く、各種族ごとで大きいところとして、エルフ族なら〈ユークリッド〉、ドワーフ族なら〈マッドリード〉、獣人族なら〈アニュード〉が有名だ。
そして、種族ごとによる隔たりのない集まりでできたのがこの世界で一番大きい首都〈王国〉にあたる。
ちなみにここ〈ケイトボール〉はケトネール族の集落の一つとしてある程度有名だそうだが、僕は知らなかった。
「私はトイ=スクリュー、気軽にトイって読んで構わないから。」
それで、どうして宿屋の君がこんなところにいるんだい?」
「いや、成り行きでここに....」
「ところで君が抱えているその子は一体?」
「え、ああ。ウチに居候しているノヴァです。」
「ん?ノヴァ?・・・上の名前はは?」
「たしか、セントケイルだった気がします。」
「そうか。」
トイさんがなぜノヴァの苗字を聞くのか少し気になったが、それよりもなぜこの人もここにいる方が気になっていた。
「トイさんはなんでこここに?」
すると、家からおじさんがドアを開けて出てきた。
「おお、トイさんじゃあありませんか。」
「あ、どうも早速情報を手に入れたので伝えに来ました。」
「おお!待っておりました!!」
どういうわけが僕には全く分からなかった。
「む・・・」
「あ、ノヴァが起きた。」
「う・・・イツキか・・・」
「もう大丈夫?」
「うむ、大丈夫だ。」
ノヴァを静かに降ろした。
「ところであの品弱そうな男は誰だ?」
「弱そうって・・・確かにそうだけどそんなこといったらダメだよ。
「あっはは、そうだね。確かに私はいつも部屋にこもってばかりだからしょうがないよ。君がノヴァ=セントケイルだね。
御目にかかれて光栄です。」
トイさんは膝立ちをしてノヴァのしたから手をとって手の甲にキスをした。
「うむ。」
「え・・・」
このひとノヴァのこと知ってるのか?
「このトイさんはの、王国の役所のもので今も我々の為にレプシトム病の治療法を調査してくれておるのじゃ。」
「え?トイさん役所の人だったの!」
「へへー、照れるじゃないか。」
いや、まだ褒めてはいないんだけど・・・
「いつまでも立たせるわけにはいかぬから中には入ると良い。」
「そうですね。それでは村長さんの家にお邪魔します。」
♢
「お主らには悪いの。こんなおじさんに付き合ってもらって。おかげで、少しだけ気持ちがスッキリした。」
「いや、そんな、ことよりおじさんはここの村長だったんですか!?」
「そうじゃが。」
な、全く気づかなかった・・・
「それで、トイさん。情報とはなんですか!」
「落ち着いてください、村長さん。イツキくんたちはいいんですか?」
「そうじゃな。」
「あ、僕らは村長さんの娘さんの様子を見ていていいでしょうか?」
「心配してくれるのはありがたいが、うつっても知らぬぞ・・・まぁ、大丈夫じゃろう。
もう一人がよく一緒にいるが、病がうつらぬから、きっと大丈夫じゃろう・・・」
村長さんは僕とノヴァをある部屋の前まで連れて行ってくれた。
「ここじゃ。すまぬがワシはトイさんから話を伺いたいので先に戻っておる。」
「分かりました。」
村長さんが去った後、ノヴァに尋ねた。
「ノヴァ・・・これって。」
「お前も感じるか・・・」
部屋の扉の前からでも感じる何か悪い空気。
「病気じゃなくて呪いだな。」
「そうか。」
ドアを軽く叩いて念のため合図をおくって、中へ入った。
中にはベットに一人の女性が横たわっていて、その横にベットに持たれて寝ている女の子とそしてその隣にいる見たことのある毛並みの大きな犬がぐったりしていた。
「ん・・・イツキ兄の匂い・・・イツキ兄!!」
ベットに持たれていたもう一人が起き上がって飛びついて来た。
「けどなんでイツキ兄が?」
「フィロ!?それじゃあ、倒れてるのってフェノか!」
二人の大きな声のせいで、寝ていたはずのフェノが目を覚ました。
「どうしたの・・・フィロ・・・ってい・・・イ、イイイイイイツキくん!?何でここに?」
「フェノ、ちょっと落ち着こう。」
フェノはフィロの姉で僕やエミルと同い年。
活発な性格フィロとは反対にフェノは大人しく、恥ずかしがり屋な性格だ。
始めて合ったときは言葉も通じ無い上話しかけようとしてもよく逃げられていた。
けど、どうしてフェノが・・・
「フィロ、どうしてこのことを言ってくれなかったんだ?」
「だ...だって。」
「あ...のね、ごめん。イツキくん。
私がそうお願いしたの、他の人には心配かけたくなかったから。」
「そうか・・・けど何か言ってくれれば僕たちにも出来ることかあるかもしれないじゃん!!」
「ないよ。
だって、王国の人たちでもこの病気の治療法を知らないの・・・だから何も・・・ゴホッ。」
「お姉ちゃん!」
「ごめん、ちょっと熱くなりすぎたかも・・・けど、フィロもフェノも僕の大事な家族みたいなものだからさ...
何かあったら頼ってよ。」
僕はフィロの頭を撫で、ベットで横たわっているフェノにも優しく撫でた。
今の僕は昔とは違う・・・それなりに力がある。
何かしてあげることはある、だから・・・
「うん。分かった。ありがとう。」
「そういえば、メッシュのすがたが見えないけど・・・」
メッシュはフェノのパートナーの虎だ。
「え...メッシュ?そういえば最近帰ってこない...」
「パートナーならそばにいてあげないといけないのにね。」
「...いいの。私は情けないパートナーだもの...」
獣人族の伝統で小さい頃から必ず与えられる動物のパートナーはいつもそばに寄り添うのが鉄則だが、動物も生き物、主がその動物にふさわしくないと思われると離れて行ってしまうことがあるらしい。
だからって、病気にかかったから離れるだなんて....ひどい話だ....
「それじゃあゆっくり寝て。」
「スノウ行くよ。」
「あ、待って。お願いがあるの・・・もし、メッシュを見つけたら連れて帰ってきて。」
「うん。」
これ以上病人には迷惑をかけまいとフィロと一緒に部屋を出て村長たちのいる方へ戻ることにした。
「イツキくんが.....家族みたいって.....」
フェノは嬉しそうな顔をして撫でられた頭に触れた。
♢
「な、なんですと!?」
そんな村長の大声が僕らを急かした。
待合室に着くや否や何が起きたかを尋ねた。
「もう、おじいちゃんフェノが寝てるんだから静かにしてよ〜。
イツキ兄もびっくりしてるじゃん。」
「みっともないところを見せてしまってすまぬ。
ところで、フィロ。
その若者と知り合いじゃったのか?」
「え、おじいちゃん。このイツキ兄が今も私達の牛乳を買ってくれてるんだよ!」
「なに!?そうか!お主らがフェリオードの方か!」
村長は僕の手を握って嬉しそうに上下に振った。
「おじいちゃん知らないでここに連れてきたの?」
「うむ、たまたまこの村に来てしまったから、紹介していたところじゃ。」
「そうだったんだ。」
僕もまさかこの人が村長で、フィロとフェノのおじさんだとは思ってなかった。
「そうじゃ。それでトイさん。本当なのか!?治療法が見つかったって!」
「はい・・・書物を探っていたら実はあるものを見つけまして。
どんな病も治すことの出来るという薬で、動物や村長さんの娘にかかっているこの謎の病もきっと。」
「それではいますぐ!」
「落ち着いてください。」
まぁ、無理もない。
この深刻な状況は今すぐにでも打開したいのは当然のことだった。
「その薬はあるものが必要でして....。
今それを手に入れることは不可能かもしれないんです。」
「それじゃあ・・・わしらは・・・」
なかなか話の折り合いが見えないことに、さっきから静かだったノヴァが怒り出した。
「ああ!焦れったいぞ!!その必要なものとは何だ!?
人間の魂か!?それとも龍の鱗とでも言うのか!?」
「え?」
「おお、そうです。ドラゴンの鱗です。さすがです、ノヴァさん。」
ノヴァの言ったセリフに引っかかるものがあるが、本当にドラゴンの鱗だったことにみんな驚いた。
「「「ドラゴンの鱗!?」」」