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この度異世界で拾われました。  作者: れぇいぐ
フェリオードへようこそ
4/9

♯2 ノヴァ=セントケイル

よし・・・・あいつにしよう。


僕は茂みの中からウサギを食い散らかしている狼一匹に集中した。

一本の矢を弓で引き・・・・・

狙いを定める・・・・


「すー・・・はー・・・」


静かに深呼吸をし矢の尾をつまんでいた手を離した。

スパンッと矢は一直線に狼の頭を狙った。


しかし、その矢は見事に当たったが、当たった部分は土のように硬くヒビが少し入った程度だ。


な!?・・・・・魔物か!!


今朝のゴブリンと同じ魔物。

しかし〈カマストマード〉の原生している動物と違って魔力を持った動物は魔界から来たとされ、魔物と同じ扱いをされる。


ウサギを食べていた狼は自分の身を守る土の魔法を使っていたようで、普通に矢を弾いてしまったようだ。


僕はすぐに走り出した。


魔法を使えない僕に倒すことができるわけがない。


僕に気付いた狼はすぐさま僕に襲いかかろうと追いかける。

僕は走り続けた、ひたすら逃げているように見えるが、そうではなくある場所を目指していた。

もちろん狼の方が速く、徐々に距離を詰められて行く。


僕も何も考えずに狩に来ているわけではない。


そう、あと少し・・・・

もう少しで・・・・・


目的のある方向へ走り続けて、


「よし、今だ!!!」


あるところで思いっきり脚に力を入れ、縄を編んだ罠の上を飛び越えて振り向いた。


よし引っかかってくれ・・・・


そして狼が残り数メートルと来た所で驚く事が起きた。


「わらわが助けてやろう!!!」

「え!?」


突然目の前に現れた幼女はそう言って、狼に向かって魔法を使った。

その魔法は黒く、狼の下から一本の黒いトゲが突き出し、狼を貫ぬいて倒した。


魔物の中の狼を倒した少女は僕の方を向いて、腰に手を当て偉そうにいった。


「どうだ!わらわの力!!」

「ちょっと、お前そこは!!」

「きゃっ!」


その時だった。罠が発動して、その少女は網に捕らわれて上へ釣り上げられた。


「にゃ、なななななななんだ!?」

「あー・・・あ。」


僕は呑気にそれを眺めた。

この辺りでは見ない派手な格好をしていて、釣り上げられた少女の足元からスリッパが落ちた。


ってか何でスリッパ履いてるんだ?


「お、降ろせ!!!わらわを降ろせ!!!

今すぐ降ろせ〜!!」

「分かった分かった。だから暴れるなよ。」


この子一体誰だ?


疑問抱きつつも網を釣り上げている一本のロープを重りからほどき下へ降ろした。


「イテ。」


さっきまで暴れていた性格とは思えない可愛らしい声だった。

もちろんそんなのは驚いた一瞬だけで、性格に可愛らしいは感じなかった。


「お、おい!!こ、これはにゃんだ!・・・なんだ!!!ほどけないぞ!!」


僕は溜め息混じりで答えた。


「ほどけないんだよ。。。」

「な、ならわらわの魔法で!!」


少女は手を網にかけ目を瞑って力を込めた。

するとその手から黒い気体のようなものが漂いはじめたが、それと同時に網は緑色に発行して少女の魔法を打ち消した。


「な!?」

「だから封印の魔法を込めてあるからほどけないだ。」


本当はこの網の中には魔物の狼が捕らわれているはずなのだがこうなるとは思いもしなかった。


「おい!じゃあお前がほどけ!!」

「元々僕の魔法じゃないから魔法を解けないよ。」


それにこんな小さな子がエミルの魔法勝てるわけ無いよな。

さっきみたいに打ち消されるだけだ。


「お・・・・おまえ・・・・魔王を・・・・侮辱しやがって・・・・」


少女は今でも泣きそうな顔でそう言った。


「はぁ・・・何言ってるんだが・・・・取り敢えずエミルに魔法を解いてもらってほどいてやるから、宿まで連れて行くぞ?」

「う・・・っう・・・・」


さっきまでの威勢はどこいったのか、弱そうにコクリと頭を上下させた。


僕は少女が倒してくれた魔物の狼を縄で縛って引きずった。


「なぁ、君の名前は?」


宿に着くまで時間つぶしに少女に声をかけた。

僕に抱えられている少女は不機嫌にこう言い返した。


「お、お前などの様なものに教える名前などない!!」

「そうかそうか、僕はイツキって言うんだ。」


少女相手にムキになるような僕ではないので、優しく自分の名前を教えてあげた。


「ず、ずるいぞ・・・・・う・・・・・ノヴァ・・・・・・」

「え?エヴァ?」


小声で正直聞き取れなかった。


「ち、違う!!ノヴァ!ノヴァ=セントケイルじゃ!!」

「ノヴァちゃんか〜。」

「・・・気安くちゃん付で呼ぶな・・・・」

「え、何?」

「何でもない!!ノヴァ様と呼べ!!」

「はいはい・・・・ノヴァちゃん。」


少女は顔を赤らめ、騒ぎ立てた。


「カ〜!!だからノヴァさまと・・・・」

「それで歳は幾つ?」

「だ〜か〜ら人の話を聞け〜!!」


僕は少女相手にからかって遊んでだけのようだった。


「ノヴァちゃんのお家は何処なんだい?」

「え・・・わらわの居場所は・・・・」


さっきまでうるさかった少女は何処へ行ったのか、うつむいて言葉を詰まらせていた。

僕は余りノヴァちゃんの嫌ことを詮索しないようにした。


「そうか・・・・ならノヴァちゃんの気が済むまでフェリオードに泊まっておけばいいさ。」

「フェリオード?」

「僕とエミルが経営している宿の名前だよ。」

「ふ〜ん。」

「そろそろ着くかな。」


森を抜けて、崖が見えてきた。

崖の前で立ち止まって、下にある建物を指差した。

初めて僕が会った時、エミルが僕にしてくれた時のように。


な・・・・なに!?


しかし、過去のことを振り返っている余裕はなく、建物から煙が出ているのを見た僕は唖然として何が起きているのか理解出来なかった。


「ど、どうしたのだ?けみゅ・・・煙が出ておるではないか?」

「わ、わかんない・・・・」


僕は建物の周りも見渡した、そして向かいの道路を見て、その先にある〈鋼鉄の森〉への入り口の道を見た。


「エミル!!」


その入り口の道を歩いていたのは、背の低い3人のゴブリンと抵抗するエミルを抱えた僕の1・5倍くらいの巨体の生き物だった。


「エミル!!!」


もう一度叫んだがそれは彼女に聞こえたところで何の意味も成せない。

僕は無我にその崖を飛び降りた。


少しでも速く・・・・エミルを助けなきゃ!!


「ば、バカか!!お前魔法も使えない人間のくせに!!」


そう、やっと気づいた。


僕には何の力もないのに、なぜこの高い崖を飛び降りたのか。

助ける前に自分の命を落としに行っていることに・・・・

それになぜ、この少女も巻き込んでしまっているのか。


僕はバカだ!!!


一度味わったことのあるような衝撃が体を突き抜けたあと、僕は意識を失った。


・・・・・


僕は死んだのかな・・・・エミルを助けられず、無関係な少女も巻き込んで・・・・


「ッハ!?」


突然目が覚めた。


あれ、・・・生きてる?


「ん?」


僕は寝転がっていた僕の太ももを枕にして寝ている少女を見つめた。


ノヴァちゃんが・・・?


「おい、起きろ!!」


僕は少女の体を揺らして起こした。


「ん?・・・・・え?・・・・あ・・・・何をする!!」


少女は理不尽に僕の体を蹴り飛ばした。


「え、そ、それより君が助けてくれたのか?」

「そうだ!!だからお前は馬鹿か!!魔力もないくせにあんな高さの崖から飛び降りるなんて!!!」

「・・・・ごめん・・・・」


幼女に本気で説教をされ、謝る良い歳をした男性。

シュールな画だった。


「わらわも久々に本気で魔力を使ったせいか眠くなったではないか!!」

「それは僕にはどうこうすることはできないけど、まずはありがとう。」

「な、べ、別に礼を言われるほどではない!!わらわの身を守っただけじゃ!!」


少女は誇らしげの手に腰をあて胸を張った。

僕はそんな少女より、後ろの建物から少しずつ煙が強くなっている方に目がいった。


やばい!!すぐに火を消さなきゃ!!


「ごめんノヴァちゃん!!!手伝ってくれ!!」

「え!!なんじゃ!!」


僕は少女の手を握って火が徐々に強くなっていっている建物に向かった。


一体何処から火が・・・・


少女を連れてフェリオードの辺りを走った。


「あ、あそこだ!!」


少女は火が出ているのを方を指差して僕に教えてくれた。


「裏庭か!!なら。」


僕は一目散に水の組み上げポンプへ向かった。


まだ火は大きくないしこのくらいの近くなら!!


僕はそばに置かれたタライに水を汲み上げて水の入ったタライを持って火にかけた。


「わ、わらわはどうすれば!?」

「そこにバケツがあるはず!!」

「わかった!!」


少女はバケツをとってそこへ水を汲み上げる。

そして僕はその組み上げたバケツと空になったタライをを交換し、火の元へ持って行ってと繰り返した。


「はぁ、はぁ・・・やっと消えた・・・・」

「も、もう腕があがらん・・・・」


火が消え、ひと段落いれていた。


「じゃない!!エミルを助けなきゃ!!」

「ゴブリンとオーガに連れて行かれたエルフの子のことか?」

「ああ、そうだよ。」

「そのエミルという子なら自分であんな雑魚倒せるのではないか?

ワシの魔力を封印するほどの力を持っておるのじゃから・・・・」

「そうかもしれない・・・・けど・・・・エミルは怖いんだよ!」


僕が叫んだことで、少女は驚いて涙目になっていた。


「ご、ごめん。」

「え・・・・な・・・なにが・・怖いんだ・・・?」


少女は泣きそうな喋り方で質問してきた。


「エミルは魔物が怖いんだ。特に魔界から来た魔物は・・・・・」

「なぜ怖がるのだ・・・・?」

「僕も詳しいことは知らないけど、エミルの両親は6年前に魔物に襲われて殺されたんだ・・・・」


ひどい話だ。両親を目の前で殺されたのだから、それはトラウマになってしまう。


僕は少しずつ怒りが込み上げてきて思ったことを目の前の少女にぶつけた。


「魔物がこの辺りをうろつくようになったのも、エミルの前にいることがあるのも魔界と協定なんか結ぶから・・・エミルが怖い目に・・・・・・」

「ご・・・ごめん・・・・」

「なんでノヴァちゃんが謝るんだい?」

「ご・・・め・・・ん・・・・」


だからなんで謝るんだよ・・・・


「わかった・・・わかったから泣かないでくれ・・・・」

「ごめ・・ん・・・・」

「謝らなくていいから、ノヴァちゃん・・・・・エミルを助けるのを手伝ってくれないかい?」

「・・・・うん。」


少女は両手で涙を拭いながら承諾してくれた。


正直こんな小さな子を危険な目に合わせたくない・・・・

けど、ノヴァちゃんはエミルの封印魔法を打ち消すほどの力がある・・・

僕一人じゃ勝てる相手じゃない・・・・


「わ、わらわに任せろ!!」


少女は泣き顔から無理やり笑顔を作ってそう言った。




「ここが鋼鉄の森とやらか。」

「そうだね。」


僕とノヴァは高くそびえ立つ銀色の木々を目の前に思わず魅入ってしまっていた。


「凄いな・・・」

「まさかお前、すぐ向かいに暮らしておるのに来たことないのか?」

「そのまさかだよ・・・・」


もう4年も経つのにこの森に入るどころか、ここまで近くまで来たことはない。


エミルがこの森は危険だとか言ってたからな・・・・


エミルから聞いた話だとこの森に生えている鉄のような木々は硬く、力自慢のドワーフ族でさえ歯が立たなく、様々な魔法を試みるがことごとく弾かれてしまうらしい。

そのため森は徐々に侵食を進め、森の土地を広げていき首都〈アリアード〉までの道は遠くなる一方で、うちに泊りくる客はよく文句を言っていたものだ。


「おい、あれはなんて生き物だ?」


ノヴァは目の前の銀の木の枝に停まっている生き物を指差した。


「あれは鳥?・・・・けどなんか違うな。」


その鳥の翼はまるで鉄の羽で覆われているように反射し、クチバシは何でも砕いてしまうのではないのかというくらいに固そうな金属でてきていた。


もしあんなくちばしで襲われたらただでは済まないだろうな・・・・


「なんて鳥だろ?」

「お前もわからんのか。」


こんな鳥を見たことあればこんなに驚かないさ。


「多分ここでしか生息していない生き物じゃないか?」

「ふーん。」


その鳥は入口の見張りでもしているのではないかというくらい、微動だにせず僕らを見つめている。


「そんなことより早く助けに行こう。」

「そうだな。」


この森の入り口であろうところから二人ならんで入り込んで行った。

ここの木々は伐採できないためか、道らしい道はなく、何と無く木々の感覚が広い道をぐねぐねと歩いて行った。


あたり見渡しても銀一色。足元に生え植物も銀色に光っているが、ここの木とは違って鋼のように硬くはなく、どこにでも生えている緑色の植物のように踏めば優しく潰れてしまう。


イツキはさっきまで隣に並んで歩いていたノヴァの歩く速度が遅くなり、自分の焦り抑え少女に声をかけた。


「大丈夫か?」


振り返ってみれば少女は歩くたびに何かからダメージを受けているように痛そうな顔をしていた。


「・・・・うう・・・・」


ノヴァの足元をみたところあることに気がついた。


「な、傷だらけじゃないか!!」


彼女の裸足の足には細く薄い切り傷が幾つもあった。


「ここの植物の葉先は相当固いようだ・・・・」

「会った時にスリッパ履いてなかったっけ?」

「崖から飛び降りたせいでどっかいってしまった。」


結果僕のせいとなることとなるようだ。


「だ、大丈夫じゃ・・・助けると約束したのだから。」


僕にはちゃんと責任を負わなくちゃいけない義務がある・・・・


「ほれ。」


イツキはノヴァに背中を向け、しょっていた麻袋と筒状の矢入れを下ろし、背中を丸めしゃがんだ。


「にゃ、なんだ?」

「ほら・・・おぶってあげるよ。」

「わらわは大丈夫だ!」

「いいから!!」

「むむ・・・・・」


ノヴァはイツキの背中をしばらく見つめ、不気味な笑みを浮かべてイツキに近寄った。


(なら、遠慮せずに乗らせてもらおうか。)


「では行くぞ。」

「え?ちょっと?」


ノヴァはイツキの肩に足を掛けて、イツキの肩の上に乗った。


「さぁ行け!!サラブレットォオオ!!」

「・・・・」


おぶってあげるつもりだったけど・・・・・

しょうがない・・・僕が悪いわけだし・・・・


ノヴァのふくらはぎをつかんで膝を伸ばして立ち上がった。


「おおお!高いぞ!!」


緊張感のないノヴァに対して少しいら立ちながらもイツキは我慢して歩いた。


「すごいな!!わらわのオヤジの肩からでは見えない高さだ!!」

「ノヴァちゃんのお父さんはそんなに小さいの?」

「いや、むしろでか過ぎる。わらわは肩の上で胡座をかけるぐらいにな!

それに肩の上に乗るのも苦労するしな。」


ノヴァちゃんのお父さんって何者なんだ・・・・


「向こうから風の魔力を感じるぞ!」

「本当か?」


僕は少女の指差す方向へ転ばないように小走りで向かった。


「徐々に近くなってるぞ・・・・魔物の魔力も感じる!」


彼女の指差す通りに向かえばそこには小屋のようなものが見える。


あそこに逃げ込んだのか?


小屋のそばまで近づくとノヴァに顔を向けた。


「大丈夫?」


僕は少女に確認を求めた。


「うむ、大丈夫だ。」


イツキはしゃがんでノヴァを肩から降ろす。

それからイツキは自分自身の靴を脱ぎ始めた。


「な、何をしておる?」


不思議に思っているノヴァに対し、イツキはその靴を渡して答えた。


「はい。いざとなって逃げられなかったら困るだろう。」

「そしたらお前はどうなる?」

「大丈夫・・・エミルは絶対に助け出して無事に帰るから。」

「お主の言っていることがめちゃくちゃだぞ。」


ノヴァと顔を合わせて小さく笑い合った。

そしてノヴァには大きくぶかぶかな靴を履かせた。


「それじゃあ、ここで待っててね。」

「危なかったらわらわの方に来い!

待機しておるからの!」

「その時はよろしく。」

「みゃ・・・・任せろ!」


ノヴァは照れ臭そうに返事した。


「それじゃあこの袋を預かってくれる?」

「いいぞ。だけどこの中には何が入っているのだ?」


ノヴァは疑問を持ちながらも素直に麻袋を受け取ってくれた。


「狩りに使っていたものだからあまり役に立たない物ばっかだよ。」

「そうか。」

「それじゃあ。」


僕は弓を片手に矢が何本か入った入れ物を背負って小屋へ近づこうとした。


「い・・・・イツキ!」

「ちょ、声が大きいよ。」

「すまぬ・・・・これを渡したくてな。」


ノヴァは何かを放物線に投げ、僕はそれをキャッチした。


「・・・・矢?」


それは矢の形状はしているものの、真っ黒の染まっていて不気味さを感じさせるものだった。


「さっき肩に乗せてくれた時に勝手にくすねてわらわの魔力を込めてみた。

魔力を持たないお前が無事でそれを使えるか分からぬから、慎重に使うのだぞ。」

「分かった。ありがとう。」

「うむ〜・・・・絶対に助けるぞ!!」

「うん!」


今度こそ僕は小屋へ近づいた。


こっちは裏かな。


イツキは木の影に隠れながら小屋の表の方へ回った。


ん?何か騒がしいな・・・・


「おじさんよお、少しの間この小屋に入れてくれるだけでいいんだよ。」

「だめだ!」


あの巨体のオーガが小屋の主であろう老人と言い争っているようだ。


よし、今なら・・・・・・

エミルを助けるんだ・・・・


僕は矢入れから矢を抜き取り、弓に引っ掛け、静かに弦を引く・・・・


僕はエミルを肩に担ぐオーガの首筋に目標を定めた。


後は手を離せば・・・・けど狙ったところへ当たるかな・・・・・

けど・・・・もしもずれてエミルに当たったら・・・・


失敗への恐怖心が身体中に伝わり、呼吸は荒くなり、弓を構える手の震え中々目標が定まらなくなってきてしまった。


「あ」


そんな驚嘆な声ととも矢の尾はつかんでいた指から滑り抜け、発射してしまった。


スパンッ


狙いの定まらない弓から発射する矢はもちろん狙ったところへ飛ぶわけでもなく、運良く急所に当たるというわけでもなかった。

それは横を抜け、小屋の壁に突き刺さった。


「ん?なんだ?」


そこにいたオーガとゴブリンたちはこちらを振り向いてイツキがいることに気づき、ゴブリンの1人が指差して言った。


「あ!あいつ!あの宿で俺らをこけにした奴だ!!」

「そーだそーだ!!」


やばい見つかった!


「あ、まてコラァ!」

「逃げんじゃねえよ!!」

「そーだ!!」


その場から走り去るイツキを3匹のゴブリンは追いかけた。


僕は何やってるんだっ!


僕はノヴァのいた場所へ急いだ。


「くそ!逃がすか!!」

「そーだ!!」


ゴブリンたちはまだ追いかけてくる。


そろそろ元の場所だけど・・・・


「お、来おった来おった。イツキ!!」


ノヴァ!?


自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、聞こえた方向にはノヴァが木の枝の上でロープを掴んで立ってた。


イツキはそっちの道へ走り、ノヴァのいる方向へ近づく。


「そこじゃイツキ!!」


なるほど、これを仕掛けたか。


僕は走る先に何があるのか理解した。

そして、大きくジャンプしてそれをまたぎ、立ち止まった。



追いついてきたゴブリンたちは立ち止まったイツキの背中に容赦無く飛びかかった。


「よし!今だ!!」


ノヴァはそう叫びながらロープを引っ張るように木の枝から飛び降りた。

イツキに襲いかかったゴブリンたちは

設置していた網に捕まり、見事に宙にぶら下がっていた。


「うおおお!なんだこりゃぁ!?」

「あぁん?ハメやがったな!?」

「そうだろ!?」

「くそ、こんなもの俺らの爪で引き裂いてやる!!」


しかし様子を見るに引き裂くこと出来ないようだ。


「はっはっは無駄だ無駄だ!わらわの魔力の込めたそのロープはおまえらえtに引き裂くことはできぬわ!!」

「くそっ!あんなガキの罠にかかるなんて!」


ゴブリンたちは小さな少女に負かされたことがよほど屈辱なのだろう。


「凄いねノヴァちゃん!」

「だろ!わらわの天才的な作戦!!」


ははは、自分が引っかかった手なんだけどね。


「よし!!それでは後はオーガだけだな!」


自分の作戦が上手くいったのがよほど嬉しかったのか、張り切っているようだ。


「!?」


しかし、少女の後ろに巨大な影があることに気がついたころには間に合わなかった。


「危ない!!!ノヴァちゃん!!」

「え?」


後ろの大きな体の一部がノヴァを容赦無くなぎ払った。

ノヴァの小さな体は勢い良く飛ばされ、鋼鉄の森特有の硬い木の幹へ衝突し、静かに地面へ倒れた。


「ノヴァ!!」

「へっへっへ、よくもウチの子分をこけにしやがったな。」


さっきの黒い影、エミルを担いでいたオーガを見たゴブリンたちは騒ぎ出した。


「アニキ!!その小娘は魔力を使いまっせ!!」

「あぁ!そこの弱そうな男よりその少女を叩してくだせえ!!」

「そーです!!」


そうゴブリンは余計なことをオーガに伝える。


「分かったぜ、子分たちよ。」

「そうはさせるか!!」


僕はすぐに弓を何本か抜き出し、オーガに向け矢を連射した。


数本は外したものの、2、3本はオーガの胴や脚に刺さった。


・・・・!?・・・なんで・・・効かないんだよ!!


「うおおおお!」


オーガは全身に力を入れ、刺さっていた矢を次々と抜いて行く。


「俺の体にそんなもの効かねえよ。へっへっへ。」


それでもイツキは矢を取り出してオーガに発射する。

今度は刺さりもせず、綺麗に弾かれてしまう。


「くそ!」

「だから効かねえよ。」

「アニキ、小娘が起きる前に早くやっちまってくだせえ!」

「分かってる分かってる。」


オーガは弾き飛ばしたノヴァの方へ体を向け、近づいていった。


「や、やめろ!!!」


それでも僕は矢を何度も何度も飛ばし続けた、例え相手に効かなくても・・・・


オーガのデカく、強そうな手はノヴァの頭に指し向かって行く。


や・・・やめろ!!!


僕は最後の矢を矢入れから掴んだ時身体中に不気味な力がほとばしった。


これは・・・・


抜き出した矢は黒く、全体から不気味なオーラが出ている。


ノヴァがくれたやつ・・・・


『さっき肩に乗せてくれた時に勝手にくすねてわらわの魔力を込めてみた。

魔力を持たないお前が無事でそれを使えるか分からぬから、慎重に使うのだぞ。』


そんなノヴァの台詞が頭の中で蘇るが、その言葉の意味を理解する余裕はなかった。


助ける・・・・絶対に・・・・・


僕はオーガに向けその黒い矢を引く。

その時その矢から黒い何かが身体に襲いかかってくるが、そんなことも気にすることも出来ず、ただただその矢をオーガに当てることだけに集中した。


絶対に倒してやる!!!!


「やめろぉおおおおおおおおお!!!」


イツキの叫び声と同時に矢は発射した。

その矢はオーガへ一直線に飛び、オーガの目の前で一瞬黒い魔法陣のようなものを浮かべ、そのままオーガを貫いた。



「うおおおおお!!」


オーガの悲鳴は徐々に小さく、そしてオーガの体も消えていった。


「「「あ、アニキ!!」」」

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・・や・・・やったのか・・・・」


酸素が回らないせいか、上手く意識を保つことが出来なかった。


苦しい・・・・・上手く呼吸ができない・・・・身体中が痛い・・・・・


そのまま身体中に染み渡る苦痛とともに暗く深い世界へ入っていった。



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