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この度異世界で拾われました。  作者: れぇいぐ
この度異世界で。
1/9

#1 目が覚めれば

初の異世界ものです。

こちらは一つの章をまとめて投稿する形なので更新がだいぶ滞ることがあります。

僕は今日中学を卒業し、打ち上げでみんなと外食をした。


いつも一緒にいてくれる幼なじみの由良(ゆら)

僕の面倒を見てくれていた彼女とは違う高校に通うことになる。こうしていつもの様に一緒に帰えることが出来なくなる。もうたくさん合うことも出来なくなる....だから今....早く僕の思いを伝えなくちゃ。

隣の由良と同じ速度で歩いていたが、僕は立ち止まって名前を呼んだ。


「由良!」


突然呼ばれ、彼女も少し驚いているようすを見せた。


「どうしたの伊月(いつき)?」

「あの....」


かっこよく決めたいところだが、こういう緊張に慣れていない僕は口ごもってしまう。


「その由良!」


もう一度彼女の名前を叫ぶ。それから軽く息を整えた。

いつもと様子の違う僕をみて心配したのか

「どうしたの?」と聞いてきた。


僕は決心して、こう叫んだ。


「その。

由良のことがす、好きです!!

僕と付き合ってください!!」


叫び声は夜の住宅街の闇へ響いては消えていった。


「え?」


よし、はっきり言うことができた。

後は由良の返事だけだ。

緊張で胸の鼓動が限界まで高鳴り、息を呑んで待った。

まだ5秒も経っていないだろうが、僕にとっては数分、いやそれ以上経っている。


早く、早く。と最高の答えが帰ってくるのを期待して待った。

彼女の口が開くととさらにドキドキしてきた。


しかし、それは自分の期待していた言葉ではなく、恐れていた方の言葉だった。


「....ごめんなさい。」

「え。それって、無理ってこと....だよね。」


それを聞いた僕は頭の中が真っ白になって何も考えられなかった。


「うそ....」


僕はそう呟いて、泣き始めた。


そうか、いつも僕はこんな風に泣き虫だから由良は嫌なんだ...

家がすぐ近くってだけで、僕の面倒を見てくれていたんだ...

恥ずかしい...こんな僕を見ないで。


そして僕はそこから逃げ出した。


「伊月!!」


後ろから彼女が僕の名前を呼んで止めようとしたが、今の僕にそれは聞こえなかった。

一生懸命走った。

何も考えず、目から涙を流しながらひたすらまっすぐに走り続けた。


「ウソだウソだウソだ....」


まるで現実から逃れるように、自分にそう言い聞かせて走る。


「こんなんだったら死んだ方が....」


ついには自分の存在までも消したくなりはじめた。


走り続ける僕に突然強い光が横から近づいて来るのに気づき、すぐ横で鈍いクラクションの様な音がするのも聞こえた。


次の瞬間、全身に強い衝撃とともに激痛が走り、そして直ぐに何も感じなくなった。


ブレーキの様な地面を擦る音が聞こえ、知らない男性が僕を呼びかけていた。


かすんだ視界に、後から追いかけてきたのか由良の姿も見えた。


そして徐々に全てが真っ暗になり、ただただ、「いつき!!」と叫ぶ由良の声が聞こえた。


「いつき!!」


ああ、由良は僕を追いかけてくれたのか....


「いつき....」


由良....僕の初恋....


「いつき....」


初恋?....僕は誰に?....


「....いつき...」


僕は誰だ?....この声は?....いつき?....


薄れゆく意識の中で一生懸命考えた。

しかし、何も思い出せなくなっていく、もともとそんな記憶が無かったかの様に。


・・・・


そしてとうとう何も聞こえなくなり、何も考えられなくなった。


ただ、暗くて何も見えない。


自分がどこにいるかも分からない。


何も感じない。


・・・・



草の揺れる音、自然の心地よい匂い。


突然自分の体があるのを感じた。


あれ?僕は....


「んむんむ....」


口も動く。


重かった目蓋も軽くなり、ゆっくり開いた。

その先に広がる高い木々に青く綺麗に透き通るような空。

その空には小さな鳥達が自由に飛んでいる。


....ここは?


まだ体に上手く力を入れられないせいか、初めて立つ子鹿のように震えながら体を起こした。


周りは木々ばかりで、緑しか見えなかった。


「っう....」


ここはどこだ?


思い出そうにも何も思い出せない。


自分は誰だ?


これも思い出せない。

思い出そうにも何も思い出せない。

思い出そうとすればするほど頭に痛みが走る。


「だめだ....」


わけもわからず歩き始めた。


ゆっくり、ゆっくりと。

どこに向かおうとしているのかも分からず、一歩一歩歩いた。


ガサガサ


「!?」


すると茂みから一匹の狼が現れた。

ゆっくりと獲物を捉えるような鋭い目をしてこちらに歩いてくる。


「あ....あああ」


食われる!!

思い出がなくても、これは危ないことは理解できる。


ゆっくり後ずさり、振り向いて一気に駆け出した。


「うぁあああ!!」


な、なんでこんな目に....

ここはどこなの!!!


「助けて〜!!!」


僕の叫び声は森に響き渡り、その音で鳥たちは止まっている木から飛び立たせた。


僕は泣きながら走っているのがまるで、デジャブの様に感じながらもひたすら恐怖から逃げる。


その後ろを狼が容赦無く追いかけてくる。


だめだ....

このままじゃ捕まる!!!


「ん?」


向こうの木の絵だから一瞬光の反射が見えた。

それは自分に近づき、それがなんなのか分かった。


「矢!?」


しかしその矢は自分に飛んできたものではなく、後ろの狼を仕留めるものだった。


僕は振り向いて狼が倒れたことを確認して、走るスピードを下げ、やがて止まった。


「ハァ...ハァ...」


僕は一気に気が抜け、地面に膝を置いた。


た....助かった....

けど、誰が。


「ブイジョダ?」


「え?」


僕はその声に反応して上を向いた。

僕と同い年くらいか、まだ幼さが少し残った顔立ちの少女が弓を片手に、手を差し伸べてくれていた。


「ブイジョダ?」


せっかく少女は僕を助けてくれたのだが、何を言っているか僕には理解できなかった。


僕はその少女が差し伸べてくれた手を取り、立ち上がった。


ガルルルル


後ろで狼が苦しそうに立ち上がり、再び獲物を捉えようとするかのように、僕らを睨みつける。


「行こう!!」


言葉じゃ通じてないかもしれないが、それでも叫んびながら彼女の手を取った。


このままじゃヤバイって伝わるように。


もしも、彼女の弓が正確だとしても弓で射るのに必要な矢がなくては意味がない。

しかし見たところ、さっき僕の横をすり抜けたのが最後の一本だったようだ。


僕は彼女が差し伸べてくれた手を握り後ろに引っ張ったが、ビクともしない。


「早く!!逃げようよ!!」


通じない言葉をもう一度叫ぶが彼女は狼の方を見つめ、弓を構えて引っ張る。


僕はそれでも早く逃げようと彼女に向かって叫び続けた。


「矢が無いのに何やってるんだよ!!

早く逃げないと!!」


言葉が通じなくてもいい、いいから....

だから、お願い!!!

早く....早く逃げようよ!!!


しかし、見たことのない現象を目の辺りにし唖然としてしまう。


彼女の弓に風が集まって、まるで矢があるかの様に形どっていく。


そして、彼女は今でも襲いかかりそうな狼に向けて、風で出来た矢を放った。


スパンッ


狼はとどめをさされ、息の根が止まった。

僕は何が起きたのか理解出来なかった。


おかしい、僕の居た場所はではこんな事が出来るはずがない、まるで魔法を使ってるようじゃないか....


彼女は一息ついて、弓を下ろした。

それから、木のそばに置かれた麻袋から、ロープを出して動かなくなった狼を縛って引きずって僕の前に来た。


「ソブナステリオ?」


「・・・・」


相手が何を言っているか理解できない以上、何も答えることが出来なかった。

それ以前に僕がこの世界にいるのもおかしく感じて、怖くなってきた。


本当にここは何処なんだ....

僕は何で自分の言葉の通じない、常識も通じないようなところに....

もう嫌だよ....


自分も誰かも分からない、何も記憶がない。

それだけでも不安でいっぱいだ。

誰かに助けてもらいたい、僕のことを知らなくてもいい、言葉だけでも通じればいい。

最悪、自分の常識の通じる世界にいたい。


そんな時だった。


涙目になった僕の頭を彼女が撫でてくれた。

昔から僕はこれに励まされていたような、何故だか気持ちが落ち着いてきた。


「マリアゾナ、トモニティロール!」


また彼女は僕の知らない言葉を言って、震える僕の手を握った。


何だろう、

僕は前にもこの手を握ったような....

温かい....


彼女の手から感じる温もりが、僕を安心にさせてくれた。


「ア・ドオソリ!!」


「え。」


彼女は僕を何処かに連れて行くように、その握った僕の手を引っ張った。


僕はそれに抵抗もせず、引っ張られるままについて行った。


森の木々を避けて前へ、ひたすら前へ進んだ。

木々を抜けたところで体に強い風が当たるのを感じた。


僕は彼女に引っ張られ、崖の上に連れて来られたようだ。


何でこんなところに...?


「マワソネレ、マワソネレ。」


彼女はそう言って、下の建物を指差した。

その建物は木造建築で、少し老朽化している。


あそこが彼女のお家?

流石にこの高さから降りるのは危険だ...


しかし彼女はお構いないしに崖を飛び降りた。

僕を道連れにして。


「ぎゃああああああ!!!」


今日だけで何回叫んだだろうか。

予想外の事ばかり起きてるからだろうか。


着地する数メートルのところで、また彼女が魔法のように下から風を起こして、僕たちを包み込んでゆっくり着地した。


着地した途端僕は力ふっと抜け、その場に座り込んだ。

そして崖の方を見た思った。


こんな高い崖から飛びおるなんて一体何を考えてるんだよ....

....あ!!


よく見たら崖に沿って掘られた階段があるのに気づき指差して彼女を怒鳴った。


「階段あるじゃないか!!」


もちろん彼女は僕が何を言っているか分からない。

それでも彼女は僕の指差す方向から何を言いたがってるか分かっているかのように、ニタニタしながら此方を見つめた。


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