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「9年間付き合って結婚したからな。何となくで通じるよ」
「オレには分からん」
「分かってやれよ」
越谷がカラになった缶を、江島に投げた。空中でキャッチすると、シンク脇のゴミ箱に入れる。
「まだまだ考えらんねー。お前は偉いよ。よく決心したな」
微かに悲しそうな表情を一瞬浮かべた越谷は、
「ウチにゃ両親、親父もおふくろもいないからな。冴もその分気楽だろうから」
愛妻の名は、冴と言った。越谷は一度息を付き、
「あの親父が、ホトケになっちまうとはね。世の中、どう転がるか」
「肺ガンだっけか?」
「そ。その息子がヘビースモーカー。――灰皿くれ」
ポケットから、くしゃくしゃになっている『キャスター・シンフォニックマイルド』を、何とか出そうとしている越谷に、
「そこいらの使ってくれ」
江島は目で示した。
「灰皿だけはたくさんあるのな、相変わらず」
「寝タバコはしてないぞ」
「当たり前だ」