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「須田は? 遅いのか?」
「さっきケータイに来た。残業だとさ」
苦笑を浮かべた越谷は、
「お前たち売れっ子は大変だな。こちとら毎日が肉体労働だ」
江島も、共通の友人、須田も、ゲームメーカーでグラフィックデザイナーをしていた。共に実力を認められ、これから大きく躍進しようとしている。一方越谷は、統合失調症と言う精神の病に罹患しつつも、福祉施設で働いていた。非常に不規則な勤務形態で、今夜は朝の9時過ぎに終わった夜勤明け。明日、と言うか今日は久々の休みだ。
「覚えてるぞ。御来光に向かって叫んだよな。『福祉の愛に生きるぞー!』って」
「忘れてくれよ。愛と労働は等価じゃ無い。じゃなかったら、『福祉』しながら『福祉手帳』もらって無い」
まだ微苦笑を浮かべている越谷に、江島は、
「どーよ。病気は?」
「相変わらず。クスリが増えた。声もするよ」
「幻聴か」
「まあね」