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半分実話です。
ご笑読くださいませ。
ぼくらの明日
~BOUNDLESS OUR WHEREABOUTS~
日付が変わって午前1時過ぎ、井の頭通りに面したコンビニではバンダナを無造作に巻いたバイト店員が、本日発売分のパンを棚に並べていた。その様子を横目で見ながら、越谷智和はドリンク類の並ぶ棚から缶コーヒーを3つ手に取り、頭を軽く振って視界を遮る邪魔な前髪を払った。床屋代を惜しむあまり、半年以上も放っておいた髪はあちこちがはね、見た目にも非常に暑苦しい。そのため、先日ついに近所のディスカウントストアでカチューシャを買ってしまった程である。20代も半ばを過ぎた青年が、自宅でのみとは言え蓬髪にカチューシャを付けている姿は、あまり褒められる姿ではない。
レジで支払いを済ませ、外に出た越谷は自転車を押しながらコンビニの裏手へ回った。店内倉庫への鉄扉の隣が、1階にコンビニを含むこのマンションの入口である。隣家との間にある駐輪場に、銀色に輝く友人のバイクが停めてあるのを確かめて、自分もそこに自転車を置いた。
小さなビルなので、エレベーターは設置されていなかった。狭い階段を3階まで上り、友人の部屋のチャイムを鳴らす。夏の終わりの虫たちの声と、意外な程大きく聞こえる下の通りを行く自動車の音に混ざって、部屋の奥から小さくチャイムが漏れ聞こえた。その音を聞いて、慌ててドア横のプレートで名前を確かめた。江島。間違いない。越谷は習慣付いてしまった、半ば強迫神経症的な自分の確認作業に苦笑した。最近、常に何かに焦燥感を抱いているような気分がそうさせているのかとも考えるが、よく分からない。もちろん、精神障害者保健福祉手帳の持ち主である越谷の、病的なものの1つであることは間違いは無かったが。