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「ここらで一回、昼食にしようか」


 森に入ってだいぶ時間が経ち、枝葉の陰から顔を覗かせる太陽が僕達の頭上近くまで上ってきた頃、ノルスがそう提案してきた。誰も反対する者はおらず、僕達は足を止めて休息を取る事になった。近くにちょうど手頃な倒木があったので、僕はその上に腰掛ける。そして、村の人達に作って頂いた木製の大弁当箱を開いた。


 中身はギッシリと詰まったサンドイッチだ。しかも全て具材が同じというわけではなく、新鮮なレタスやトマトに牛肉を挟んだ物や、フワフワの卵にハムが包み込まれている物、マヨネーズで和えてあるサラダパスタがそのまま使われている物など、様々な種類が揃っている。彩りも鮮やかで美しく、見る者は食欲をそそられずにはいられないだろう。僕達は同時に喉をゴクリと鳴らすと、一斉に箱の中へ手を伸ばした。


 森に入ってからずっと歩き続けで疲労が溜まっていた事もあり、いっそう食事が美味しく感じられる。しばらく、僕達は黙々とサンドイッチを頬張り続けた。そして、すぐに弁当箱の中身は空っぽになってしまった。


「えー、もう無いのかよ」


「おやつにって渡されてたパンならあるけど」


 名残惜しそうな様子で箱の端っこに残ったパンかすを口に運んでいるフォドに、僕はごく普通のパンを荷物から取り出して差し出す。彼は喜びいさんでそれに飛びついた。


「やりいっ! サンキュー!」


「それにしても、だんだんと暗くなってきてるわね」


 手の甲で日光から目を守りつつ、ミレナは真上に視線をやりながら呟く。彼女の言う通り、奥へ進む度に木々が密集していき、森の入口と比べれば地面まで届く光が格段に少なくなっていた。


「これでもまだ、浅い所だからね」


 ノルスは顎に手をやって考え込み、


「ゲルーテが生息しているような深部まで行けば、肉眼じゃ視界が効かなくなるだろうな……」


「アンタ、ちゃんと松明持ってる?」


 ミレナの言葉を受け、僕は荷物の中を確認する。


「うん、しっかりあるよ。予備の分も」


「じゃ、何とかなりそうね」


「後、どれくらい歩くんだ?」


 いつの間にか手渡した分を平らげていたフォドが、小さなゲップを吐きながらノルスに訊ねた。


「今のペースだと、まだまだ結構かかると思うよ」


「具体的には?」


「んー、運が悪ければ夜までかかるかもしれない。すぐにウィーヌ草が見つかるとも限らないからね」


「うえっ、マジかよ」


 狼狽してガックリと肩を落とすフォド。僕は反射的に荷物の中をまさぐっていた。よし、まだ食料は沢山残っている。前もって余分に持たされていたので、少なくとも明日の朝くらいまでは保つだろう。


「でもま、ロルダ山脈の時よりはマシじゃない?」


 ミレナは苦笑いを浮かべながら、


「少なくともこっちの魔物は攻撃が通じるし、ヤバくなったら逃げる事も出来るし」


「変な仕掛けも無いしな。それにしても、あの詐欺師め……」


 言葉のペテンに引っかかった事がよっぽど悔しかったのか、フォドは拳を震わせる。一方、僕はあの黒いフードを被った彼女の幼い容姿を脳裏に浮かべながら、ふとこんな事を思っていたのだった。


 ――メノさんが、居てくれればなあ。


 ちょっと狡い所はあるが、それでも一流の薬売りである事には変わりない。彼女がいれば、たとえウィーヌ草が無くとも少女を快方に導けるような薬を作ってもらえたかもしれない。かなりお金は取られるかもしれないけど。


「変な仕掛け、って何だい?」


「ああ、ちょっと前にね」


 ミレナから詳しい話を聞かされ、ノルスは残念そうに腕組みをした。


「へえ、俺も解いてみたかったよ。そのパズル」


「いや、アンタじゃ絶対に無理よ。断言出来るわ」


「随分と失礼な事言うじゃないか」


「そうそう、コイツって結構謎解き上手いのよ」


 おもむろにミレナが僕を指さす。いきなり話題の中心になったので、僕は思わずドキッとした。何故かノルスの両目がキランと光る。


「おお! それは本当かい?」


「う、うん。上手いって程じゃないけど」


 いきなり身を乗り出してくる彼に対し、僕は少し引きながら頷く。何でこんなに、彼は嬉しそうにしているんだろうか。


「実を言うとね、クイズに関しては俺も自信があるんだ。とはいっても、考える方だけどね」


「え、そうなんだ」


 勇者の意外な一面を聞かされ、僕は驚きから目を見開く。しかし、


「また始まった……」


 と、何故かミレナはうんざりした顔つきになり、自らの頭を手で抑えた。


「言っておくけど、あんまり、というか全く期待しない方がいいわよ」


「全く好き勝手言うなあ、君は」


 ムスッとしながらノルスはじっと考え込んでいた様子だったが、やがて両手をパチンと叩く。


「よし、思いついたぞ!」


「……もう一回言うけど、絶対に深く考えちゃ駄目よ」


 僕とフォドに執拗な忠告をしてくる彼女の事などまるで無視するかのように、ノルスはあの爽やかスマイルを浮かべたまま、明るい口調で僕達に問題を言い放った。




「じゃあ、行くよ。『ドロドロの手を持った植物の名前は何だ?』 分かるかい?」

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