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「厄介な能力って、何だよそれ」


「簡単にいえば……寄生かな」


「寄生?」


 フォドが驚いた様子で聞き返すと、ノルスは軽く頷いて、


「ああ。ゲルーテの中では生き物に寄生して体を乗っ取ってしまう事が出来るんだ。魔力が格段に強力な個体に限るんだけどね」


「おいおい、まさか」


 フォドは強ばった顔つきで少女に視線をやり、


「あの子にそのゲルなんちゃらが取り付いてるなんて言わないよな?」


「いや、それは大丈夫だよ。あいつらが寄生出来るのは犬とか熊とかそういう動物で、人や竜のような知性の高い生物は操れない」


 その代わり、とノルスは苦々しげに言葉を続ける。


「そうやって自由に走り回れるようになったゲルーテは危険でね、自身が敵と見なした相手になら何にだって攻撃を仕掛けるのさ。無差別にね」


 彼は少女の身に起きた出来事を語り始める。この少女は村の付近で遊んでいた時にその動物に寄生したゲルーテの襲撃を受けた。悲鳴を聞きつけてやってきた大勢の大人達が彼女の元に駆けつけ、流石に命の危険を感じたのかゲルーテは逃げ去った。しかし、少女は背中に酷い切り傷を負い、そのまま昏睡状態に陥ってしまったのだった。このままでは、彼女の命は一月も持たないだろうとの事らしい。


「じゃあ、さっきの話に出ていた例の薬草って」


 僕の問いかけに、ノルスはコクリと頷く。


「そう。ゲルーテの毒に効果がある薬草の事さ」


 幸いな事に、村人達の話に依れば、その貴重な薬草は前に村付近で見かけた事があったらしい。


「だからアンタ、あの林にいたのね」


「そういう事……まあ、まだ見つけられていないんだけど」


「なら、手伝ってほしいというのはその薬草探しなんですか?」


「うーん、当たらずも遠からずかな」


 エリシアの言葉にノルスは困ったような笑みを浮かべるも、次の瞬間には口元を固く引き締めて僕達を見回す。そして、彼が僕達に頼もうとしている『手伝い』の説明を始めた。そのゲルーテに対する解毒作用を持つ『ウィーヌ草』が確実に存在する場所がある。そこはクレサ村からずっと北に行った所にあるジメジメとした深い森で、その奥地にはゲルーテの生息地がある。恐らく村近辺までやってきたゲルーテの個体が育ったと思われる所だそうだ。


 しかし、そこまで知っているにも関わらず、ノルスが今までその森へ足を伸ばさなかったのは、奥地へ進む為には沢山の強力な魔物を退けなければならないからである。たとえ魔王を倒した勇者といえども、彼一人では突破出来ない難所なのだそうだ。だからノルスは単独で行動出来る場所に限定して薬草を探していたのだが、僕達の助力があれば例の森を探索出来ると考えたらしい。前に同行した事があるミレナは言うまでもなく、共にごろつき達と戦ったフォドの実力もまた評価しての事だろう。


「どうだい、協力してもらえないか」


「私からもお願いします」


 沈黙を貫いていた少女の母親が深々と頭を下げる。僕達は自然と顔を見合わせた。それぞれの顔色を伺うに、どうやら全員の答えは一致しているらしい。


「エリシア、ちょっと寄り道になっちゃうけど構わない?」


「勿論です」


 ミレナの質問に、顔を引き締めたエリシアは首を激しく横に振った。


「困っている人を見捨ててはいけませんから」


「アンタ達も良いわね?」


 彼女に問いかけられ、僕とフォドは同意の頷きを返す。


「それじゃあ……」


 顔を上げた母親の顔には安堵の笑顔が浮かんでいた。


「聞いた通りよ、ノルス。一緒に薬草探し、付いていってあげるわ」


「ミレナ……みんな、ありがとう」


「本当に、本当にありがとうございます」




 それから僕達はあてがわれている小屋へと戻り、明日の事について話し合った。ノルスとミレナとフォドが北の森へ出掛けるのは半ば決定事項であったが、エリシアは村に残る事が決まった。たとえ効き目が薄くても、治癒魔法で少しでも少女の体を癒しておきたい彼女が望んだからだ。反対する者は皆無だった。


 ――そして、残ったのは僕一人……なんだけど。


「あの、僕はここに残っていいいかな? ほら、僕って戦いの役には立たないし」


 魔物が潜んでいる森に行きたくないからそんな事を言っているのではないか、こんな質問を誰かに浴びせられたら、僕は本心から首を横に振れないだろう。勿論、凶悪な怪物達に対する恐怖もあった。けれど、戦闘の足手まといになってはいけないという気持ちも充分にあった。


 ――自分の力量は、これまでの旅で自覚していたから。


「みんなが森に行っている間、僕はエリシアの手伝いをしてるよ……って」


 何故かミレナとフォドが口を寄せ合ってひそひそと話していたので、僕は困惑して話を中断する。やがて会話が終わったかと思うと、ミレナは僕に対してビシッと人差し指を突きつけた。


「いや! アンタには一緒に付いてきてもらうわ!」


「ええ!?」


 予想もしなかった命令に戸惑う僕の両肩を、フォドはガッチリと掴む。そして、


「いいか、俺達にはお前の力が必要なんだ」


 と、かなり真剣な口調で告げてきた。




「お前にしか出来ない事が、あるんだ」

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