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 足元には十分気をつけながら、僕は草の根をかき分けつつ先行する二人の後を追う。道中も異質な戦闘音は止む事がなく、金属性の物体がぶつかり合う甲高い響きがひっきりなしに続いていた。


 しばらくは黙々と進んでいたミレナとフォドだったが、急に足を止めたかと思うとしゃがみこみ、僕達に向けて手を下ろすような仕草をする。どうやら真似しろという事らしい。僕とエリシアは腰を屈めて背を低くし、彼らの近くまで歩み寄った。


「どうしたんですか?」


 ひそひそ声で訊ねるエリシアに対し、ミレナはこっちに来いと言うように手招きをする。彼女はその指示に従ってミレナの側に寄る。そして、促されるがままに前方に視線を移し、そしてハッとしたような顔つきになった。続いて、ミレナは僕にも同様の仕草を見せたので、僕はエリシアに倣って前方を確認する。伸びきった雑草にだいぶ視界を遮られていたが、それでも様子を確認するには充分だった。


 ――ごろつきだ。


 僕は心の中でそう呟く。少なくとも、斧や棍棒等の様々な武器を持ち、薄汚い衣服に身を包んで無精髭を生やしていて、なおかつ人相の悪い人間達で構成されている集団がまともな可能性はかなり低いだろう。一目で見て、僕達がローリエンで遭遇した奴らと同じような人種だと直感した。人数はここから見る限りでは、十と二、三人といった所か。


 ――もしかすると。


 僕の頭に一つの仮説が浮かぶ。ひょっとして、彼らがフォドの言っていた『僕達の追っ手』ではないだろうか。そう考えた僕が彼に自分の説を唱えると、


「さあ、どうだろうな」


 と、フォドはポリポリと頬を掻いた。


「ここはアイツらの縄張りから随分と遠くだし、多分違うんじゃねえかと思う。アイツらのボス同士で交流はあるかもしれねえけど」


「でも、一体誰と戦っているのかしら」


 不思議そうにミレナが呟く。僕達がここでこうして会話している間にも、戦闘は未だ続いていた。しかし、ここからでは彼らが相手をしている人々の姿は見えない。どうやら、丁度僕達の反対側で戦っているらしい。


 取りあえず、僕達が身を潜めている周辺の植物は背丈が長いので、ここに隠れていればひとまずは安心だといえた。だが、それはあくまで僕達に限っての事であって、必死の思いで抗戦している誰かの益には全くならない。助けるとするなら、早急に策を練る必要があるだろう。


「どうする? 一気に飛び出す?」


 ミレナの質問に、フォドは軽く頷いた。


「そうだな。敵の数が多いし、奇襲でもかけなきゃ勝ち目は薄いだろうさ」


 ただ、と彼は言葉を濁しながら、


「俺達が加勢する方が、どんな奴らなのか確認しないと迂闊に手は出せねえよ。もしかしたら、賊同士の争いかもしれねえし」


 なるほど、彼の意見は至極もっともだ。


「とにかく、しばらく様子を見て……」


 と、フォドが口を開きかけた時である。


「おい、まだ抵抗する気か?」


 戦闘が繰り広げられている方から、一人の男が嘲るように喋るのが聞こえてきた。そのドスが効いた口調から察するに、恐らくはここにいるごろつき達のボスだろう。隠れている僕達からも、男のずんぐりした体つきや人相の悪い顔つきは目にする事が出来た。その太い手には大きな斧が握られていた。僕達は息を潜めて、耳を澄ます。やがて、


「悪いけど、理不尽な暴力に屈する気はさらさらないんだ」


 という静かな、それでいて強い決意の秘められたような少年の声がした。その響きからして、僕達とさほど年は離れていないだろう。


「……あれ?」


 僕の側で、ミレナがか細い声で独り言のように呟く。


「この声、どこかで……」


 知っている人なの、と僕は彼女に訊ねようとしたが、ボスらしい男が鼻を鳴らし、僕が口を開くのを遮った。


「フン、この期に及んで、よくもまあそういう口が利けるものだ」


 彼の言葉と同調するように、その他の男達からドッと笑いが洩れる。


「流石に、一人では分が悪いとそろそろ気づいたらどうかと思うがね」


 ――一人で?


 僕は驚きから、危うく声を出してしまうところだった。僕達がこの場所に到着するまで、結構な時間があった筈だ。そしてその間中、先ほどの声の主である少年はこの大人数の大人達と戦い続けていたという事になる。しかも、単独でだ。少し、信じられない話ではあった。恐らくミレナやフォドであっても、厳しい戦闘に違いないと思ったからだ。


「そちらこそ、そろそろ手を引いてくれないか」


 あくまで冷静かつ穏和な口調で、未だ姿の見えない位置にいる少年が男に語りかける。


「同じ人間同士、傷つけ合うような真似はしたくないんだ。そちらが攻撃を止めるのなら、俺の方も剣を鞘に収める」


「ハハハハ!」


 少年の言葉がよほど笑いのツボにはまったのか、男は腹を抱えて笑い出す。


「とんだ甘ちゃん野郎とは聞いていたが、噂以上だな! お前にはたんまりと賞金がかかっているんだ! 目の前に大金があるのに、まんまとそれを逃がす奴があるかよ!」


 ようやく笑いの収まった様子の男は、手に握った大斧を再び構えると、今度は脅すような口調で少年に告げた。




「そろそろ諦めたらどうだね、名高き勇者さんよ」

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