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「え、分かったの?」


 僕の問いに、エリシアはコクンと頷いた。注目を受けて恥ずかしいのか、彼女の頬は淡い桃色に染まっている。


「あ、あのですね」


 彼女はつっかえつっかえ口を開きながら、ゆっくりと前に出た。


「きっかけはフォドさんの言葉だったんです」


「俺?」


 意外な指名に驚いたのか、フォドは目を瞬かせて自らを人差し指で示した。


「はい。『正攻法が駄目なら、別の見方をやってみる』って、フォドさんはさっき言ってましたよね?」


「まあ、言ってたけど」


「それで、私も少し別の見方をしてみたんです。そして、気づきました」


 多分、と彼女が首を傾げながら、言葉を選んでいるかのように口ごもる。僕達は口を挟まずに、彼女が自分の考えを整理して、再び話を始める時を待った。


「……多分、最初に見たあの図が『ひっかけ』だったんだと思います」


「ひっかけ?」


 ミレナがぼそりと呟きつつ顔をしかめて、橙色をした髪の毛をを手で弄くり回す。長いこと一緒に旅をしてきているので、僕はその行動の意味をすんなりと理解する事が出来た。彼女の脳内がこんがらがっている時の癖だ。しかし、僕もまた彼女と同様、エリシアが言う『ひっかけ』の意味に関してはさっぱり分からなかった。一体、どういう事なのだろう。


「今にして思えば、問題の文章も『ひっかけ』の一部だったんだと思います」


 彼女はなおも謎めいた言葉を呟き続ける。いよいよ、僕の頭もパンクしかけてきた、その時だ。


「そろそろ、教えてくれんかの?」


 ウズウズした様子で、メノが訊ねた。エリシアは彼女の問いに無言で頷くと、壁の方を向いて、先の二人と同じように黒石を並べ替え始める。僕達は彼女の後ろ姿を食い入るように見つめ、作業が終わるのを今か今かと待ち続ける。


 そして。


「これが、恐らく答えだと思います」


 エリシアは僕達の方に振り向くと壁から身を放し、手で自身が作り上げたその図を示した。




□□□ □□□ □□□

■■□ ■■□ ■■□

■■□ ■■□ ■■□

■■□ ■■□ ■■□

■■□ ■■□ ■■□




「あっ」


 自然と僕の口は驚嘆の声を発していた。そしてようやく、僕は彼女が今まで言わんとしていた事を理解出来るようになった。僕達は今まで『黒い石で七を表現』しようとしていた。しかし彼女は逆に『空いているくぼみで七を表現』したのだ。これが恐らく、先ほど言っていた『見方を変える』の真意だったのだろう。よくよく考えると、問題の文章では『黒い石を全部使って七を作れ』とは書いていても、『黒い石で七を作れ』とは書いていない。微妙な言い回しの違いだけれども、最初に並べてあった図と合わせて、確かに僕達はまんまと『ひっかけ』られていたのだ。


 次の瞬間。僕達の小部屋が振動を始め、先ほどまで三つの七が並べられていた壁が轟音を上げて左右に開いていく。しばらくして揺れは収まり、僕達の目の前にはぽっかりと空いた大穴が出現したのだった。






 あれから。僕達は新たに出来た道を進み続けていた。ロックタートルの群れが追ってこないか危惧していたのだが、それは杞憂に終わった。どうやらこちらは彼らの縄張りではないらしい。


 穴の奥は一本道の通路になっていて、僕達はひたすら前へと歩き続けていた。


「アンタのお株、奪われちゃったわね」


 おもむろにミレナがそう喋りかけてきて、僕はその言葉の意味が分からずに小首を傾ける。


「お株、って?」


「ほら、前にダンジョンで同じような目に遭った時、アンタが謎解きしたでしょ。だからてっきり、またアンタが解決するのかなって思ってたんだけど」


 そう言って、ミレナはエリシアの方に視線を移す。彼女はメノとフォドから只今絶賛中で、前にも増して顔を真っ赤にして俯いていた。


「今回はエリシアに先を越されちゃったわね」


「そうだね。でも、無事にあそこから抜け出せて良かったよ」


 本当は少し悔しかったけれど、本心は言わないでおく事にした。それに、彼女に訊ねたい話題もあったのだ。


「ところでさ、この穴って一体どこに通じてるんだろうね?」


「さあねえ」


 ミレナは肩を竦めながら、


「さっきの仕掛けからして、前みたいに昔の魔術師かなんかの住居だったみたいだけど。また財宝ザックザクの場所に出れたら最高よね。今度は奪う奴もいないし」


 彼女の瞳が輝きを増してきて、僕は苦笑する。これまでの探索では数多くの敵に囲まれていたせいで、宝探しをする暇なんて皆無だった。


「グランドドラゴンの住んでる場所に通じてるとか、どうかな?」


「んー、そうね」


 僕の問いに、ミレナは腕を組んで考え込んだが、やがてかぶりを振る。


「普通さ、わざわざ人間が仕掛け施して竜を守ったりする?」


「あ、そうか」


 色々と彼女と話している間に、どうやら道も終わりに近づいてきたらしい。松明の灯りが届かない遙か遠い場所に、僅かな光が見え始めた。僕は若干の不安を抱きつつも、みんなと共にそこを目指して歩き続ける。




 そして、僕達は出口の先へと辿り着いた。

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