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「……これってつまり」
僕が後ろを振り向くと、ミレナがやれやれといった感じで首を振った。
「まーたいつぞやみたいな謎かけみたいね」
「これってつまり」
おずおずといった調子でエリシアが口を開く。
「この文章に沿って石を並べれば、違う場所へ出る道が出来るって事ですよね」
「そうみたいじゃの」
「じゃ、さっさと終わらせてここを出ようぜ」
脱出法が見つかった事に安心したのか、フォドが陽気な口調で言った。
「とにかく、この問題を解けば良いんだろ?」
彼の言葉に、僕達は壁に作られたくぼみを食い入るように見つめる。僕は近くに書かれていた問題文をもう一度確認した。
『黒い石を全部使って、7を3つ作れ。さすれば道は開かれるであろう。』
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――黒い石の数は二十四個だから、これらを使って七を三つ作るには……。
「あ、これって簡単じゃない!」
僕がまだ回答を模索し始めた矢先、ミレナが嬉しそうに叫んだ。どうやら、何か閃いたらしい。しかし、僕は前にダンジョンで彼女が繰り広げた頓珍漢な推理を思い出して一抹の不安を覚えた。
僕の心情を全く意に介していない様子で、ミレナは壁に近寄ると石をごちゃごちゃと弄くって、僕達に振り向いた。その表情には絶対的な自らへの自信が満ち溢れている。
「これで間違いないわよ!」
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入り口は塞がれていて空気の通る隙間すらない筈なのに、何故だろう。ひゅうと僕達の後ろを冷ややかな風が吹き抜けていくのを感じた。痛いくらいの沈黙が辺りを支配する。
「ちょっと、何でアンタ達そんなに固まってんのよ」
当の本人は僕達の反応がお気に召さないようで、不服そうに眉を釣り上げる。
「少しはアタシを褒め称えなさいよ」
「……いや、お前」
誰も口を開かない中、フォドが呆れたように彼女の握られた右手を示した。組まれた指の隙間からいくつかの黒石の姿が確認出来る。
「ちょっと、と言うよりはかなり発想が単純過ぎるぞ。だいたい、石全部使ってねえじゃねえか」
そう、恐らくここにいる全員がミレナの示した図を脳内で作り上げていただろう。しかし、あれでは確かに七を三つ作る事は出来ても、石が三個余ってしまう。『黒い石を全部使って』という指示に当てはまらなくなってしまうのだ。
自分の凡ミスに気づいたのか、ミレナの顔が一気に朱色へ染まっていく。そして勢いよく僕達に背を向けると、
「そ、そうよ。ちょっとした冗談のつもりだったのよ」
と、か細い声で弁明しながら石を元の位置へと戻していった。
「でも、今のは重要な点ですよね」
困惑した様子で、エリシアがポツリと呟く。
「普通に七を三つ作ろうとすれば三個余ってしまいますけど、どうやったら余りを作らずに済むんでしょう」
「馬鹿正直に答えて破れるんだったらわざわざ問題を出しておく意味も無いの。きっと、頓知をきかせなければいかんのじゃろ」
メノの言葉がグサリと突き刺さったのか、ミレナの後ろ姿がギクリといった様子で動いた。
それからしばらく、全員が押し黙って考えに耽り、静かな時間が流れた。
そして、その長い沈黙を破ったのはフォドだった。
「お、一つ思い浮かんだぜ」
彼はくぼみの前に立つと、ミレナのように石を外したり埋め込んだりして、彼女とはまた別の図を作り上げた。
「まずはこうだ」
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「……どうして二十一なんですか?」
小首を傾げるエリシアに対し、フォドは得意げに解説する。
「『七を三つ』だろ? 七を三つ合わせたら二十一じゃねえか」
――なるほど、そういう考え方もあるんだ。
僕は妙に納得した。
「でも、さっきアタシに言ってたじゃない。石を全部使ってないって」
先ほどのお返しとばかりに、ミレナが声を上げた。
「アンタのそれだって、だいぶ石が余ってるでしょ」
「数えてみたところ、五個余ってるの」
二人の指摘に、フォドはくっくと不適な笑い声を洩らす。
「まあ、見とけって。正攻法が駄目なら、別の見方をやってみるまでさ」
そして、彼は残っていた五つの石をくぼみへとはめ込んだ。そして、作業を終えた彼は声高らかに叫ぶ。
「これで、どうよ!」
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――シーン。
何も起きない。
「……失敗みたいですね」
「ええ!? 何でだよ!? ちょっと太い『1』に見えるじゃねえか!」
「あのさ」
僕はおずおずと、盛大に困惑している彼に話しかけた。
「流石にそういう……何というか」
上手い言い方が思い浮かばずに言葉を濁す僕の後を、メノが継いだ。
「盗賊がやるようなセコい考え方は無しって事じゃろ」
「なっ!」
今度はフォドの顔が真っ赤に紅潮した。
「誰がセコいだ! 誰が!」
「プッ!」
耐えきれなくなってようで、意地悪い笑顔を浮かべたミレナが吹き出す。それを彼は見逃さなかった。
「そこ! 典型的アホみたいな回答してた奴が笑うな!」
途端、彼女の笑みが即座に消え失せ、血管がプチッと切れる音がする。
「誰がアホですって!」
「アホだろ! それも最上級の!」
「言ったわね!」
そして白熱していく二人の大喧嘩。その様子を僕は苦笑して見つめ続けていた。
――うわあ、やっぱりこの二人は相性悪いよ。
そして喧噪の真っ最中、一人が躊躇いがちに口を開いた。
「あの……」
声の主であるエリシアが、恐る恐るといった様子で白く華奢な手を上げる。
「答え、分かりました……多分ですけど」




