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 太陽が空の天辺まで昇り詰めている頃、僕達はグランドドラゴンの住処とされる洞窟まで到着した。入り口は山の斜面の陰にひっそりと存在していて、普通の旅人であれば自然と見逃してしまうだろう。


 話し合いの結果、僕達は休憩を取らず、すぐに洞窟の中へ入る事にした。今日は魔物と遭遇していないので体力に余裕がある事と、突入を明日に伸ばして一日多くこの近辺に留まるリスクを考慮しての結論である。


「中はけっこう暗いみたいだな」


 目を凝らして中を見つめながら、フォドが言う。


「そうね、松明を取り出しましょ」


「メノさんは持っていますか?」


「それくらいの用意はしとる」


 僕が背負っていたバックパックの中から、ミレナとフォドはテキパキと必要そうな道具を取り出していく。メノは既に自らの松明を手に持っていた。


 準備が済んだのを見計らって再びバックパックをからおうとした僕を、ミレナが手で制止した。


「ちょっと、なに背負おうとしてるのよ。荷物はここに置いていくの」


「え、でも」


 予期せぬ言葉に僕は動揺した。こんな所に荷物を置き去りにしていけば、いつ魔物に荒らされるか分からないではないか。


 僕の内心を読み取ったのか、ミレナは以前にも見せたような解説モードに入った。


「ここに泥棒なんていないし、盗まれるのは心配しなくていいでしょ。むしろ中に余計な物を持ち込んで、アンタの動き鈍らせる方が心配だわ」


「けど、モンスターに滅茶苦茶にされるかも」


「確かに有りうる話だけど、その時はその時よ」


 彼女は肩を竦めて、


「二つを天秤に掛けて、どっちがより危険かって事くらい分かるでしょ」


 確かに嫌というくらい理解出来た。


「う、うん」


 彼女の指示に従って、僕はバックパックを岩陰に隠す。もし魔物に見つかったら無事では済まないかもしれないが、僕に出来るのはそうならないように祈る事くらいだ。ちなみに、エリシアやメノの私物は当人達がそのまま持っていくらしい。


 全ての用意が整ったのを確認した後、フォドが明るい口調で叫んだ。


「それじゃ、竜退治に出掛けるとしますか!」




 洞窟に足を踏み入れて最初のうちは外から差し込む日光が僕達の行く先を照らしていたのだが、それもだんだんと弱まっていき、すぐに僕達の視界は松明の灯りに頼らざるを得なくなってしまった。


 内部の空気は予想に反してとても乾いていた。微かに風が流れているので、空気の通り道は存在するようだ。ほとんど植物も生えておらず、まさに岩の迷宮といった印象を受ける。生き物の鳴き声や生活音も耳に入らず、しばらくは僕達が闊歩する足音だけが洞窟の中に木霊していた。あれほど外で僕達に襲いかかってきたモンスター達も、何故か姿を現さない。


「何だか、こんなに静かだとちょっと不気味ですね」


 周りを恐々と見渡しながら、エリシアがか細い声で呟く。


「まるで、生き物が住んでいないみたいです」


「竜の住処じゃからの。他の下等な魔物は近付く事すら拒むのじゃろう。多分」


「多分かよ」


「人に聞いた話じゃからな。本当かどうかは分からん」


「ちょっと、ストップ」


 突然にミレナが真剣な声で呼びかけたので、僕達はすぐに足を止める。彼女がいつになく戸惑ったような表情を浮かべていて、注意深く辺りに視線を走らせている。


「おい、どうしたんだ」


「何か金目の物でも見つけた?」




「……岩、増えてない?」




「え? 岩?」


 僕は彼女が何を告げたいのか、全く分からなかった。慌てて周りを見渡してみると、言われてみれば確かに散らばっている大岩の量は増えている気がする。でも、なんで彼女はそこに違和感を覚えているのだろうか。


「けっこう奥まで来ましたし、そのせいじゃないでしょうか?」


 僕が思った事をエリシアが代弁してくれた。しかし、ミレナはそれでも釈然としていない様子で、身振りで僕達に後ろを振り返るよう促す。その指示に従って、僕は驚愕した。僕達が今まで歩いてきた道に数多く散らばっていた筈の大岩のほとんどが、綺麗さっぱり消え失せてきた。勿論少しは残っていたのだが、先ほど通った道なのだから不自然だとはっきり理解出来る。


 ――けど、ならこの岩みたいな物体は何なの?


 僕が首を捻りかけた、まさにその時である。僕達を囲むように存在している岩の一つ一つが、急に震えだしたかと思うと。


「お、おいおい!」


 フォドの焦った叫びが洞窟内に響き渡る。


「これって魔物じゃねえか!」


 そう、不気味な岩の正体は紛れもないモンスターだった。体全体が岩のような色彩をしている事と、体の一部を引っ込めていた為に魔物とは気がつかなかったのだ。しかし、その四本の足を広げて甲羅のような岩から首をもたげている様はまるで、僕にとある生き物を連想させる。自然と僕は口に出していた。


「……なんか亀っぽいね」


「おお、そうじゃ!」


 そして、僕の言葉を受けて何か気づいたらしく、メノは手をポンと叩いた。




「コイツらはロックタートル。鉱石を食べる魔物じゃよ」

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