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 結局、僕達はメノと共に竜の住処と噂される地まで行く事になった。彼女が腕利きの情報屋から仕入れた知識によれば、グランドドラゴンはロルダ山脈の奥地にある洞窟の中に生息しているらしい。偶然にもその場所は現在地から王都へ向かう道筋にあり、僕達がほとんど回り道をしなくて済むのは幸運と言えた。道中、屈強そうなモンスター達に幾度となく襲われた。最初のうちはミレナとフォドの活躍で難なく切り抜けられるレベルの魔物にしか遭遇しなかったのだが、だんだんと山脈の中心部に近づくにつれて凶悪な怪物が出現するようになった。集団で襲われると彼女達でも歯が立たなくなる事態になってしまい、そうなると僕達に残された選択肢は逃走しか無かった。


 そこで、メノの力がこの上なく役立った。薬売りを自称するだけあって、彼女は様々な薬品を所持していた。中でも人間には効かない眠り薬は逃げる際に打ってつけのアイテムで、これに僕達は随分と助けられた。彼女の持つ傷薬も市販の物より随分と効果が高く、エリシアが使える治癒魔法と併せて、戦闘をこなす二人のサポートに随分と役立っていた。


 そして、僕の役目はただ一つ。




「うー、重い」




 久しぶりの荷物持ちである。




「ふう、何とか倒せたか」


 メノと出会ってから数日後の昼間、目の前に倒れている巨大なトロールを前にして、息を弾ませているフォドは短剣を持つ手の甲で額に浮かんでいた汗を拭った。険しい道を歩いていた最中に起こった、突発的な戦闘の後である。


「だいぶ、アタシ達じゃ手に負えない相手も増えてきたわね」


 ミレナの方も肩で息をしていて、今回の戦闘でだいぶ疲弊している様子だ。彼女は構えていた剣を鞘に戻し、


「結構、奥まで来たんじゃない?」


 と、後ろにいた僕達に話しかける。エリシアとメノはそれぞれ持参の地図を広げると、


「そうですね、今がちょうど中心部の辺りです」


「うむ、目的地は近いの」


 と、同意の言葉を告げた。


 いつもなら大抵の魔物の肉は食用として拾っておくのだが、トロールの死体は回収せず、このまま放置しておく事になった。ミレナやメノによれば、トロールの肉はあまりに不味くて食えたものではないらしい。尤も、近くに寄らなくても漂う強烈な異臭が鼻を突いていたせいで、僕もその事は何となく予想出来ていたのだが。


 相変わらず岩がゴロゴロしているせいで進みにくい大地を進んでいく。荷物が増えた為に以前より格段に負担がかかってしまう上、そこそこ高い気温も僕の体力をじわじわと奪っていく。空を漂う雲が時折に太陽を隠してくれるのが不幸中の幸いだった。


「よっこらせ、と」


 僕の隣では、メノが小さな掛け声と共に自分の身の丈の半分もある岩をよじ登るようにして乗り越えている。やはり、体型からしてこのような場所は苦手としているようだ。その様子を僕と同じく横目で眺めながら、フォドが首を傾げる。


「やっぱり、アンタってどう見ても子供みたいだぜ」


「またその話題かの」


 メノは聞き飽きたとでも言うように深い溜息をついて、


「人は見かけによらないんじゃぞ」


「いや、まあ、それは分かってるけどさ」


「別に好きでこの姿でいるわけではないのじゃ。それに、お前自体が子供じゃろ」


 う、と彼はか細い声を出して、それっきり口を閉じた。


「そういえば」


 続いて、エリシアが話しかける。


「メノさんは店を持たれていないんですか?」


「ん? そうじゃよ」


 うちが作るお薬はちょっと特殊じゃからの、と彼女は屈託なく笑う。


「町中に閉じこもっていてはロクに材料も手に入らないのじゃ。だからこうして、いろんな所を旅しとる」


「へえ、凄いんですね」


 尊敬の眼差しを彼女へと向けるエリシア。その熱っぽい視線を受けて、メノはフフンと得意げな表情を見せた。


「おだてても何も出ないのじゃ」


「でもさ」


 ミレナがおもむろに口を開く。


「それって、ただ自分の店を持つ余裕が無いだけじゃないの?」


 ギクッ、とメノの身体が一瞬強ばった。


「べ、別にそんな事はないのじゃ。金ならタンマリとある」


「じゃあ、とっとと店を開けば良いじゃない」


「そ、それはそうじゃが」


 メノの慌てた様子を見て、ミレナの口元に確信めいた笑みが洩れ出す。


「もしかして、都とかすんごく儲かりそうな所に店を出したくて、ケチってせこせこと金貯めてるだけなんじゃないの? 材料がどうのこうのとか言う前に」


「ううううっさい! 断じてそんな事はないのじゃ!」


 この様子からして、どうやら図星を突かれたらしい。メノは顔を真っ赤にして、


「大体、お前こそ訳有りじゃろ。年頃の女が剣を振り回して、親の顔が見てみたいものじゃ」


 彼女の口撃に、今度はミレナの頬に朱がさした。


「なあんですってえ!?」


「どうせロクな育ちじゃないんじゃろ」


「もう一回言ってみなさいよ!」


 続いて始まった凄まじいほどの喧噪に、僕もエリシアもフォドもしばらく閉口せざるを得なかった。その凄まじさたるや、地震でも起きているかと錯覚させる程で、彼女達の叫び声を聞きつけて魔物が現れなかった事からもその強烈さは分かるだろう。


 ――なんか、騒がしい女性が二人になったなぁ。


 メノの気性がミレナのそれと似てるように感じられて、僕は洞窟までの道中に若干の不安を覚えたのだった。

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