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 新たにフォドを仲間に加え、僕達は足早に王都への旅を再開した。足早にというのは、僕達に恨みを持つごろつき達が追っ手を差し向けてくるかもしれないというフォドの意見があった為である。彼によれば、あのごろつき達はとても執念深いタチなのだそうだ。特に、彼らのボスである銀髪の男は一際受けた恨みを忘れないのだという。決して油断は出来ないが、彼らの縄張りさえ抜けてしまえばひとまずは安心だろうとの事だ。その為、僕達は人通りのある道を避け、出来る限り人目につかないルートを選んで進んでいた。


「その、どの辺まで行けば安全なのでしょうか?」


 手に持った杖をついて慎重に歩きつつ、エリシアはフォドに訊ねた。真っ赤に燃え上がっている太陽はすっかり沈みきろうとしていて、ほんのり薄暗い夕焼け空が僕達の頭上に広がっている。ずっと漂っていた爽やかな草原の芳香はすっかり鳴りを潜め、代わりにゴツゴツした岩だらけの大地が姿を現していた。


「……そうだな」


 大量の荷物を背負い、汗をダラダラとかきながら一歩一歩踏みしめるように進んでいるフォドは、一拍おいてから彼女の言葉に反応した。


「取りあえず、ロルダ山脈を越えれば安心出来ると思うぜ」


「ロルダ山脈?」


 聞き慣れない地名を耳にし、僕はバックパックの重みに耐えながら会話に割り込む。


「あそこだよ」


 少年が僕達が進んでいる荒れ地の先を指し示す。目で追うと、遙か遠くに高く険しそうな山々が連なっているのが見えた。その山脈は僕達の視線から見て、まるで進路を遮るように横に伸びて続いている。よく目を凝らしてみても、僕はその端を見る事が出来なかった。


「メリスティアの都はあの山脈を越えた先にあるらしいぜ」


「何だか、すっごく登るのが面倒そうだね」


「アタシはこっちの方角から来たわけじゃないから、詳しい事は分かんないんだけど」


 ミレナが口を挟んだ。


「人に聞いた話じゃ、ロルダ山脈を越える旅人は少ないらしいわよ。ほとんどの人が山を迂回して行き来をしてるみたい」


「はい、私も神父様からその道を通っていくように言われました」


「うーん、けどなぁ」


 フォドは苦々しい表情を浮かべ、


「やっぱり、そこら辺の旅街道を使うのはやっぱり危なっかしいぜ」


「でも、あの砦からは結構離れてるし、そこまで不安にならなくても良いんじゃないかな」


「仲間がいるんだよ、仲間が」


「仲間?」


「そ、仲間っつうか部下かな。交易品とかを運んでくる商人を狙って略奪するような奴らさ。ま、大抵の商売人達は腕の立つ傭兵を雇っているから襲われたりはしないけどな。酷い目に遭うのはちっぽけな金をケチった新米商人くらいさ」


 なるほど、と僕は思った。各地を回って物を売っている人達を襲うのは確かにごろつきらしい。


「でも、僕達って金目になりそうなもの持ってないし、出くわしてもそんなに心配いらないんじゃないかな」


「……いや、問題はそういうとこじゃないんだ」


 うーん、とフォドは唸り、しばらくは言葉を迷っている様子だった。


「何ていえば良いのかな。アイツらみたいなごろつき軍団っていうのは、変に仲間意識が強いんだよ」


「それが問題なの?」


「ああ。要するに俺達はあのボスに赤っ恥をかかせたわけだ。それで、アイツらがみすみす俺達を見逃してくれるとは思えねえ。今頃は顔を真っ赤にして下っ端に俺達の事を追わせてる筈さ。目的地が王都って事もバレてるしな」


 だから、と少年は一段と重い口調で言葉を続ける。


「足の速い奴には先回りさせて、現地の奴らに俺達のような奴がいたら捕まえておけって伝えてあるだろうな」


「私達が眠らされた村の人達のように、ですか?」


「そうそ。まあ、あれは俺達を取り逃がした連中が腹いせに言っていただけで、別に本気でお前らを捕まえようとしてたわけじゃないだろうけどな。今回は相手のボスを出し抜いちまったわけだから」


「リーダーの面目丸つぶれ、ってわけね」


 ミレナが愉快そうに笑みを洩らした。


「ま、アタシ達をあんな場所に閉じこめたバチが当たったのよ」


「でも、それじゃあ困りますね」


 エリシアは不安げに顔を俯けて、


「今もこうやって人目につかないように歩いていますけど、結局王都に進もうとするとロルダ山脈に阻まれてしまいますし」


「いっその事さ」


 僕の頭に、とても簡単な解決策が浮かんだ。


「その山登っちゃえば良いんじゃない?」


 自分ではとても無難な提案に思えたのだが、何故だろう。エリシア以外の二人がとても冷ややかな視線を僕に向けてきた。僕は予想外の反応に思わずドキッとしてしまう。


「アンタ……それ本気で言ってんの?」


「いや、だって。そうした方が王都まで近いんでしょ? それに相手だって、僕達が山を登るなんて考えてないかもしれないし」


「それはまあ……有り得るけども」


「あのね、ハイキングに登るような山とは違うのよ」


 ミレナは大きな溜息をつきながら、ロルダ山脈の方角を指さして言った。


「あの山脈はね、魔物の巣窟なのよ」

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