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23

 エリシアの突拍子もない提案に、少年やミレナは強い衝撃を受けたようだった。そしてそれは、僕も同じである。


「それって依頼とか何とかの、王都までアンタを護衛するってやつか?」


「はい、そうですよ」


 彼女はパッチリとした目を瞬かせて、


「でも何で知ってるんですか?」


「お前らを助ける前にアイツから聞いたんだ」


 少年が顎で僕を示すと、エリシアは合点がいったというように小さく頷いた。


「なるほど、そうだったんですか」


「けどよ、俺ってここの辺りでしか生活した事ないし」


 彼は肩を竦めて、


「都の事なんかこれっぽっちも分かんねえぞ。大体、俺って盗賊だし」


「でも、私達の事を何回も助けてくれたじゃないですか」


「それはアイツらが気に入らなかったからさ。ここの近辺の町を縄張りにして派手に暴れ回ってたし。普通に生活している奴らにまで迷惑をかけてたしな」


「けど、アンタだって盗人でしょ」


 口を挟んだミレナに対し、少年は不服そうに眉を釣り上げた。


「俺はアイツらとは違う」


「どこが違うのよ」


「俺が盗みを働くのは悪い事をやってる奴らからだけだ。あくどい事をしてない奴から物を取ったりしねえよ」


「アンタ、この前ダンジョンでアタシ達の獲物横取りしたわよね」


「いや、あれはだな」


 ミレナからジト目で凝視され、少年は頬を掻きながら、


「ダンジョンに落ちてるものは、早い物勝ちってルールがあるだろ」


「そんなルールないわよ」


「暗黙の了解みたいなもんじゃねえか。だいたい、お前だって宝探しやってたんだろ? 盗賊と似たようなもんだろ」


 うっ、とミレナは言葉に詰まったようで、それっきり口を閉じてしまう。僕は彼女と少年の話を聞きながら、エリシアの提案について思案していた。


 ――確かに、良い考えかもしれない。


 先ほどのようなごろつき達と出会った時、流石にミレナ一人しか戦闘慣れしていないというのは不安だ。その点、彼は喧嘩慣れしていそうだし、身のこなしも素早い。共に行動してくれれば、とても頼りになるのは僕が一番よく知っている。


 それに。彼の一番の武器はその器用さだ。何かトラブルに陥った時、猪突猛進になりやすいミレナだけでは何となく安心出来ない。小道具を使って鎖を外したり出来るのも、もしもの時はたいへん役に立つだろう。


 ――もしかして、ミレナよりずっと護衛に最適なんじゃ……。


「ちょっと、何考えてんのよ」


「ええっ!?」


 ふと気がつくと、ミレナが不審そうな目で僕の顔を覗き込んでいた。僕は慌てて言葉を返す。


「べ、別に何も考えてないよ」


「いーや、何か考えてた。アイツとアタシを交互に見てた」


 どうやら、無意識のうちに思考が態度に表れてしまっていたらしい。彼女の目つきが訝しげに細まっていく。


「まさかとは思うけど、アイツの方がアタシより役に立ちそうとか考えてたんじゃないでしょうね」


 ――す、鋭い。


「そ、そんな事ないよ」


 背中に冷や汗をびっしりとかきながらも、僕は平静を装って否定した。しかし彼女はどうにも納得していない様子で、


「……怪しい」


 と、未だに疑念の晴れていない様子であったが、やがて目を逸らした。取りあえず、何とかなった。僕は心の中で安堵の息を吐く。一方、僕と彼女が会話をしていた間、少年は腕組みをしてじっと考え込んでいたのだが、しばらくして笑顔を浮かべた。


「そうだな、王都にはいつか行ってみたいって思ってたしな」


「それって……」


 少年の言葉に、エリシアの顔がパアッと明るくなる。彼は彼女に対し軽く頷いた。


「ああ、俺もお前らについてくよ。一応、金も貰えるんだろ?」


「勿論です」


「じゃ、決まりだな」


「はい、よろしくお願いします」


「うん、よろしくね」


 僕やエリシアとは対照的に、ミレナの方はすぐに返事をしなかったが、両目を瞑り、渋々といった口調で、


「ま、別にアンタ達が良いっていうなら、アタシは別に文句言わないわよ」


 と、ぶっきらぼうに言った。


「……相変わらずだなあ、まあ良いや」


 ところで、と少年が話題を変える。


「まだ、お互いの名前教えてなかったよな」


「アタシはミレナ」


「私はエリシアといいます」


「僕は……まだ無かったりする」


 僕の言葉はどうやら少年の意表を突いたらしく、彼は目を丸くした。


「どういう事だ?」


「まあ…、ちょっと色々あって」


「そうなのか。なら、まあいいや」


 少年は一旦、息を大きく吸ったかと思うと、親指を立てて自らの顔を示しいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「俺の名はフォド。改めてよろしくな!」




 こうして、僕達三人の旅に新たな仲間が加わったのだった。

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