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18

「ほら、ここだぞ」


 男に案内され、僕達は食料倉庫へと到着した。男に礼を言いつつ、僕と少年は荷物をその中へと降ろす。ようやく肩が軽くなり、僕はふうと小さく息をついた。


「本当にありがとうごぜえました。それじゃあ、俺達はこれで失礼します」


 少年がそう言い、僕達が本格的に砦の中を探索しようと歩きだした時だった。


「おい、ちょっと待てよ」


 男に呼び止められ、僕達は足を止めて振り向く。男は意地悪い笑みを浮かべていた。


「な、何ですかい」


「俺はお前らの頼みを聞いてやったんだ。今度はお前らが俺の頼みを聞く番だよな」


 ――ああ、きっとろくな頼みじゃ無いんだろうな。


 僕は内心でそう直感した。


「あっしらは新入りですから、大した事は出来ねえです」


「なあに、そう怖がらなくてもいいぜ。ただちょっと、見張りの当番をかわってほしいだけだよ」


 見張り、という単語に思わず僕達は目を見合わせた。


「見張り、ですかい?」


「ああ。お前らも聞いてるだろ。ちょっと前に俺達がいざこざを起こしたってやつを捕まえたって」


「へ、へえ」


 取りあえず、少年は話を合わせておく事にしたらしい。


「それで、俺はさっき交代で見張り番につく為に通路を歩いていたというわけだ」


「そ、そうなんですかい」


「だから、お前ら俺の代わりに見張りやれ」


 男は背伸びと共に大きな欠伸をしつつ、


「もうちょっと眠りてえんだよな」


 と、重たそうな眼を擦りながら言った。


 ――これはチャンスだ!


 僕は内心でガッツポーズをした。警備の目があるだろうという事は少年との作戦会議で話題になっていたが、見張りそのものになってしまえばその心配も無くなる。彼女達を助ける作業もスムーズにいく筈だ。


「へい、分かりやした。けど、場所はどこなんですかい?」


「ったく、自分の住んでる場所の事くらい知ってろよ」


「申し訳ねえです」


 気だるげに歩き出す男。その背中を追いながら、僕と少年はさりげなく笑みをかわした。




 複雑に入り組んだ通路を進み、階段を上る。二階も下と同様に迷路のような構造になっていた。しばらく歩いた後、他のそれに比べて異彩を放っている鋼鉄製の扉が見え、僕は男の後に続いてその中へと入った。


「おい、交代の時間だ」


「ふう、待ちくたびれたぜ」


 見張り用と思われる古びた椅子に腰掛けていた人物が大きく両手を伸ばす。僕は二つの理由から再び身が強ばっていくのを感じた。一つは椅子に座っていた人物のせいだ。その人物もまた、僕達とローリエンで騒ぎを起こした三人のうちの一人だったのだ。そしてもう一つの理由は、手足に鎖をはめられて床に放置されているミレナとエリシアの姿を発見した為である。彼女達は僕達の事には気がついていないらしく、ミレナの方は憮然として両目を固く閉じ、エリシアの方は力無く地面を見つめていた。どちらにも乱暴を受けた様子は無く、僕は少しだけ安堵した。


「あれ、そいつらはなんだ?」


 後ろに控えている僕達に気づいたのか、男は訊ねた。


「服見りゃ分かるだろ。新入りだよ」


「いや、それは分かるが……何故ここまで連れてきた」


「コイツら町で色々と調達して今さっき帰ってきたらしいんだが、食料倉庫の場所が分からないってんで俺が案内してやったんだ。その見返りに見張りを代わってもらおうって寸法よ」


「なんだそりゃ、釣り合わねえ取引じゃねえか」


 ガハハ、と椅子に座っている男は愉快そうに笑った。釣られたように立っている男も口の端を歪めて僕達を振り返る。


「なあに、ちょっとした社会勉強ってやつさ」


「新入りを騙しただけだろ、それは。しかし良いのか?」


「何がだ」


「コイツらを見て、ボスがひどく気に入ってた様子だったじゃねえか。もしソイツらが誤って女共を逃がしたりしたら、俺達まで責任取らされるぜ」


「おいおい、相手は身動き取れない小娘二人だぜ? いくらコイツらでも逃がしはしねえだろうさ」


「……まあ、流石にそうだろうな」


「それにしても、良い気味だな」


 立っている男はくっくと笑い、倒れている二人の女を見下ろした。


「あの小生意気な小娘がこうやって大人しいと気分が良いぜ」


 男の言葉に反応したのか、ミレナの眉が目を閉じたままピクリと反応する。それを見て、男は満足そうに鼻を鳴らした。


「それじゃ、俺はまた一眠りしに戻るぜ」


「ああ、俺も行こう」


 見張りの当番だった男は椅子から立ち上がり、


「お前ら、くれぐれも油断したり居眠りなんかするんじゃないぞ」


 と僕達に釘を刺した。


「へえ、任せて下せえ。ところで、いつまで見張っていれば良いんですかい?」


「まあ、朝には別の奴が交代に来るだろ。それまでの辛抱だ」


「分かりやした」


「じゃあ、後は頼むぜ。新入り」


 最後にそう声をかけて、男達は廊下を歩いていく。僕達は扉の隙間から彼らを覗き見た。やがて男達が角を曲がり、その姿が完全に消えた所で、僕と少年は互いに頷き合う。そして出来るだけ音を立てないよう、扉をゆっくりと閉めた。




 ――作戦、開始だ!

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