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16

「……それで目が覚めたら小屋の中にいて、身体を縄で縛られてたんだ」


「そこに俺がやってきたんだな」


 僕が小さく頷くと、少年は腕組みをして眉間に皺を寄せた。


「んー、こりゃちょっと面倒な事になったな」


「僕も聞きたい事があるんだ。どうして僕達はあの村の人達に捕まえられたの? それに、ローリエンで出会った男達がどんな風に関係しているの?」


「おいおい、質問は一つずつにしてくれよ」


 少年は困惑の表情を浮かべながら、少しずつ事の真相を喋り始める。事実が明らかになるにつれ、僕の心は驚愕に揺さぶられる事になった。彼の説明によれば、僕達がローリエンで出会った男達はこの辺りで幅を利かせているごろつき集団の一員らしい。そしてあの村は、その集団に脅されて言いなりとなっているのだそうだ。


「今までは村で取れた食べ物をアイツらに渡すくらいのもんだったけど、まさか人を監禁するまでに落ちぶれるなんてな……」


 少年は盛大な溜息をついた。


「まあつまり、お前の話と合わせるとこんな感じだろ。その護衛とやらの依頼内容を知っていたアイツらの一員は、お前らがこの辺りまでやってくるだろうと考えた。ローリエンから真っ直ぐ王都を目指すなら、ここを通らない道理は無いからな。それで、あの村の人間にお前らの特徴を伝えて、似た奴がいたら捕まえるように命じた。そこにお前らがまんまとやってきて、眠り薬を食事に混ぜられてしまったってわけだ」


「でも、それならどうして僕だけ置き去りにしたんだろう」


「そりゃ、男だからだろ」


 平然と発せられた彼の言葉を受け、僕の身体にはまるで電流が流れたような衝撃が走った。その短い言葉の裏を察してしまったからだ。そして途端に、強い焦りの感情が胸の中を満たしていく。


「なら……早く助けないと」


 自然と僕は立ち上がっていた。いてもたってもいられなくなったのだ。


「おいおい、ちょっと待てよ」


 落ち着け、と言わんばかりに少年は僕を手で制する仕草をする。


「ろくな考えも無しにアイツらの所に行くのは止めた方が良いって」


「でも、こうしてる間にもミレナ達が……!」


「だいたいお前、アイツらのアジト知らないだろ」


 あ、と僕の口から自然と声が出ていた。確かに彼の言う通りだ。僕はごろつき達の住処も、ミレナが閉じこめられている場所も知らない。


「だからさ、取りあえず座れって」


「けど……」


「俺も協力してやっからよ。アイツらはマジで気に入らないからな」


 そう言って、少年は僕にウインクしてみせた。


「けどよ。取りあえず、作戦を考えなきゃ始まらないだろ?」






 あれから。僕は少年の案内でごろつき達のアジトまでやってきていた。彼らの根城は村から少し離れた場所にある砦だった。少年によれば昔の遺物らしく、その話を裏付けるように外壁は古汚い。遠目からなら誰かが住んでいるようにはとても見えないだろう。旅人の通り道からもだいぶ逸れているし、隠れ家としては絶好の場所だと思った。


 僕達は近くに丁度良い大きさの岩を見つけ、それに隠れて砦の様子を伺う事にした。既に夜は明けようとしていて、空にはうっすらと明かりが混じり始めていた。


「んー、分かってはいたけど警戒厳重だな」


 少年は真剣な眼差しで砦の門を見つめていた。そこには二人の門番がいて、唯一の出入り口を守っている。村人とは違って腰には剣が差してあり、腕っ節も強そうだ。


「やっぱり、強行突破は無理そうだね」


「ああ」


 僕の言葉に、彼は門から目を離さずに頷いた。


「予定通り、あの作戦で行くか」




 ずっと機会を待ち続け、しばらく経った頃。ようやく僕達にとって好都合な事が起こった。


「よし、やってきたぞ……」


 隣の彼が嬉しそうに唇を歪める。眼差しの先は砦とは丁度反対側、それも遠くに向けられていた。視線の向こうでは二人の若い男達が沢山の酒瓶を抱えて歩いてきている。少年曰く、あの村では食料は手に入れられても酒を入手出来ないので、少し遠い別の町まで新入りが調達に行くのだそうだ。その当番が帰ってくるのがちょうど早朝というわけだ。新入り達は他のメンバーが区別して命令を出しやすいように、特別な服を着ている。僕達が目的としているのはそれだった。雑用係の服を入手すれば、僕達は堂々と門から中へ入れるというわけだ。しかも新入りとして潜入すれば見かけない顔であったとしても警戒はされにくい。


 そして幸いにも連なる岩々のおかげで、砦の位置からでは彼らの姿が視認出来ないのである。少年の合図で、僕達は彼らに気づかれないように移動し始めた。


「はぁ、雑用係ってのは面倒くさいぜ」


「しょうがねえだろ、そういう決まりなんだから」


「早く偉くなりてえなあ」


 僕達は彼らの会話を聞きながら、背後から忍び寄る。彼らは長い徒歩での移動での疲れか、全く気づいた様子も泣く話を続けていた。


 僕達は目くばせをかわして、次の瞬間。


「うわっ! なんだお前ら!」


「やめろ! う、うわあああああ!」




 新入り達の悲痛な叫び声が辺りに響き渡ったが、無情にも砦の同胞達の元へは届かなかった。

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