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15

 やがて、僕の身体を地に縛り付けていた縄が解けていく。自由を取り戻した僕はようやく安堵感を覚えられるだけの余裕を取り戻し、少年に精一杯の感謝を込めてこう言った。


「ありがとう、助かったよ」


「おう、気にすんなって」


 それより、と少年は真剣な面持ちを浮かべた。


「早いところ、ずらかるぜ」


「え?」


「こんな場所にずっといたらまた捕まえられちまうじゃねえか。アイツらが馬鹿で仲間を呼ばなかったのが幸いだったけど、いつ他の村人達がやってくるか分からないんだぜ」


 なるほど、彼の言う事は至極もっともだ。


「でも、どうやって逃げるの?」


「ここは村の外れで、そんなに人も来ない場所なんだ」


 少年は立ち上がると、小屋の中を彷徨いて食料を手に取っていく。


「だから、俺がいつも使ってる抜け道を使えば、少なくとも朝までは誰にも気づかれずに村を抜け出せる。ほら、お前も持てよ」


 両手一杯の食べ物を押しつけるようにして手渡され、僕は慌ててそれらを受け取った。少年は再び小屋の奥へと赴き、自分の分の野菜やら干し肉やらを抱え込む。


「よし、これで取りあえず目的は達成と……さ、ずらかろうぜ!」


「え、ええ!?」


 言うが早いか、彼は扉に身を隠しつつ外の様子を確認した後、僕に指で合図をして小屋を出ていく。慌てて僕もその後に続いた。どうやら僕が閉じこめられていた場所は丘の上のようで、見下ろすと燦々と灯った民家の明かりが目に入ってくる。少年は道のあちらこちらに点在する茂みに身を隠しながら道を下っていった。僕はその後ろに続きながら、


「ねえ、逃げるのは良いけど。食べ物を盗むのはちょっと……」


 と問いかける。


「お前、別に悪い事してアイツらに捕まえられてたわけじゃないんだろ?」


 不服そうなニュアンスを含んだ問いかけに、僕は歯切れの悪い返答をする。


「それは、そうだけど」


「なら良いじゃねえか。仕返しと思えば良いんだよ、こういうのは」


「で、でも。僕、盗人にはなりたくないし」


「じゃあ、たまたまお前が入れられてた小屋ん中に食えそうなものが落ちてたから拾ったって事にしとけよ」


「それを泥棒って言うんじゃ……」


 そんなこんなで会話を続けるうちに、僕達はあっという間に丘を降りていた。続いて彼が向かったのは、民家の辺りとは逆の方向で、そこには魔物の進入を防ぐ為の柵が張り巡らされている。


「ねえ、どうやって村を出るの?」


 僕は隣で自信満々の笑みを浮かべている彼に訊ねた。


「まさか、柵を登るって言わないよね? 荷物抱えて両手塞がってるし」


「お、やっと食料盗む気になったのか」


「いや、そういうわけじゃないけど」


「しーっ、声が大きいぞ」


 両手に荷物を抱えたまま、器用に人差し指を口の前に持っていく少年。僕はその様子を見て、慌てて口を噤んだ。


「まあ、見てろよ」


 少年はそう言って一旦抱えていた食料を地面に置くと、柵をごそごそといじり始めた。


 ――何をしているんだろう?


 疑問を浮かべながら僕は作業の様子を黙って見守る。すると甲高い音がして、次の瞬間には柵の一部が外れてしまっていた。呆気に取られてあんぐりと口を開いてしまった僕に、少年は得意げな笑みを浮かべる。そして地面の荷物を再び手に抱えると、


「ほら、急いで脱出しようぜ」


 と、たった今出来た出口の向こう側へと歩いていってしまった。慌てて僕はその後を追う。僕が通り抜けた後、少年は今度は外から柵をいじくり、出口は再び隠された。端から見れば、何の変哲も無いただの柵にしか見えないだろう。それくらい巧妙に隠された出入り口だった。


「それじゃあ、取りあえず安全な場所に行くか。ついてこいよ」


 悠々と歩いていく少年と共に、僕は村を後にした。






 僕が少年に案内されたのは、村よりずっと離れた森の奥に存在する洞穴だった。聞くところによると、彼はここの近辺で厄介事になった場合、よくここを訪れて騒ぎが収まるのを待つのだという。僕は地面に腰を下ろした。


「ほら、お前も食えよ」


 村から持ち出したパンを差し出され、僕はそれを受け取るのに躊躇する。しかし、悩んだ末にそれを受け取った。最早ここまで運んでしまったのだから、今更少年の盗みに加担していないとは言えないだろう。それに、村の人々の仕打ちに対する怒りもあって、罪悪感も少々薄れていた。


「しかしまあ、お前もとんだ奴らに目をつけられたもんだな」


 僕に手渡したのと同じパンをかじりながら、少年は同情の視線を向けてくる。


「まあ、ローリエンであんな騒ぎを起こせばアイツらも黙ってはいないだろうなとは思ってたよ。しっかし、よりによってアイツらが根城にしてるこっちの方にやってくるなんてな……」


「ねえ、君は彼らの事を知ってるの?」


「知ってるよ。うんざりするくらい」


 少年は肩を竦めながら溜息をつき、やがて何かを思い出したように瞬きをした。


「そういえば、お前の連れ達はどうしたんだ」


「それは……」


「何か訳があるんだろ。話せよ」


「……実は」


 僕は今までの一部始終、ローリエンでのいざこざから村で彼に助け出されるまでを掻い摘んで説明する事にした。少年は口を挟まず神妙な面持ちで、時折頷きながら僕の話に耳を傾けていた。

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