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 ミレナと僕は町の中心である広場まで戻ってきた。空には朱が差し始めていて、その影響か先ほどよりも人通りは少ない。それでも結構な数の出店が残っていた。特に料理店の方は今からが稼ぎ時だとでも言うように外へ出しているテーブルや椅子を増やしていて、その様相は僕の心を再び落胆の谷底へと突き落とす。


 彼女はそのまま広場を進み、何かを探して辺りをキョロキョロと見回す。やがて、


「あ。あった」


 と呟いて、とあるデカい木製の立て札の前に近づいた。そこには種類や大きさの異なる様々な用紙が留められている。どうやら全部メモ書きのようだ。


「これって、掲示板?」


 何だか懐かしい響きのある言葉だと感じながら、僕は彼女に訊ねた。


「そうよ。この町の依頼掲示板ね」


「依頼……?」


「そ、大きな町なら、大体どんな所にもあるの」


 そう前置きして、ミレナは『依頼掲示板』のシステムに関して話し始めた。


「ここには誰でも依頼を張り出す事が出来るわけ。そして、誰でも気に入った依頼を引き受ける事が出来るの」


「それで、その依頼を達成したら報酬が貰えるの?」


「そうよ。最初っから明記してあるのが多いけど、中には予め報酬を書かないで引受人をタダ同然に働かせる腐れ悪徳依頼人もいるから注意しなきゃね」


「な、なんか実に感情のこもった言い方だね」


 だんだんと顔つきが険しくなっていく彼女に、僕は愛想笑いを浮かべて言った。


「べ、別にアタシはそんなのに引っ掛かった覚えは無いわよ。とにかく、今からしなければならないのは、アタシ達に出来てなおかつ金を稼げる依頼を探す事なの。分かった?」


「うん、分かった」


 僕は頷き、掲示板に目を通す。すぐに良さそうな依頼を発見し、僕はそれを指さした。


「ねえ、これはどう?」




『私の田圃にスライムが大量発生して困っています。誰か駆除して頂けないでしょうか。』




「ミレナだったら、簡単に達成出来るでしょ?」


「ちょっと、アタシ任せにするつもり?」


 彼女の棘を含んだ声に、僕は慌ててフォローを入れる。


「い、いや。別にそういうわけじゃ」


「それに」


 と僕の言葉を遮って、彼女は依頼の端を指し示す。


「ここをよく見てみなさいよ」




『報酬は自家製の野菜です。よろしくお願いします。』




「……あ」


 僕は口をあんぐりと開けて固まってしまった。彼女は肩を竦めて、


「ちゃんと最後まで確認しなさいよね」


 と、呆れたような口調で言った。


 それから、僕達は沢山の依頼に目を通し、これはという者を提案していったのだが。






「これ、どう?」


『凄く獰猛なトロールの集団が町の辺りを彷徨いていています。まだ危害を加えられた住民はいないようですが、町長としてこのまま野放しにしておく事は出来ません。手練れの冒険者様が居られましたら、どうか退治して頂けないでしょうか。報酬は五万ゴールドです。』


「ほほー、アンタって手練れの冒険者様だったんだ。どうぞ頑張って下さいね。お一人で」


「……無理です」




「ねえねえ、これは」


『魔法薬を調合しているのですが、手違いで「グランドドラゴンの鱗」が不足している事に気がつきました。ロルダ山脈の奥地に生息しているらしいので、もし宜しければ取ってきて頂けないでしょうか。報酬は十一万ゴールドで、お望みでしたら作れる範囲で魔法薬もお付け致します。どうぞよろしくお願いします。』


「……ドラゴンがどんな生き物か、知ってる?」


「……だいたい想像がつきます」




「ミレナ! これはかなり良いんじゃない? 僕だって手伝えるし」


『キレニア草を百本程集めては頂けないでしょうか。キレニア草はこの町の周辺に広く生息している植物なので、手間はかからないと思います。良かったらお願いしますね。』


「報酬明記されてない。タダ働きの疑い高し」


「……失念してました」




「あ、これ簡単そう」


『最近、恋人に振られて精神的にキツいです。掃除や食事もおぼつかない状態なので、誰か家事を手伝いに家まで来てくれませんか? 報酬は一日滞在で千ゴールドです。


 追記:二十代以下で彼氏がいない女性のみ募集します。面接有りです。』


「ぶん殴って良い?」


「いや、だって凄く楽だし金稼げるし……いえ、何でもないです」




「じゃ、じゃあこれは!」


『両親から早く身を落ち着けるよう急かされて困っています。誰か優しい女性の方、私と結婚して頂けないでしょうか。報酬は広大な土地と何不自由無い暮らしです。


 追記:二十代以下で彼氏がおらず、掃除・料理・洗濯が得意な女性のみ募集します。面接有りです。』


「ぶっ殺すよ?」


「ご、ごめんなさい。許して下さい」






 そんなこんなで、全くロクな依頼が見つからず、僕らはどちらからともなく深い溜息をついた。


「何だか、とことんツいてないわね」


「そうだね……」


 辺りはだいぶ暗くなり、もうそろそろで陽は沈みきるだろう。せっかく町に着いたというのに、このままでは普段と変わらずキャンプ就寝だ。出店で美味しい食べ物も頬張れない。そんなのは真っ平御免である。


 気を奮い立たせて、僕はまだ閲覧していない依頼へと目を向けた。その時だ。




「なぁ、良いだろ?」


「い、いや。それは……」


 僕達のすぐ後ろで、なんだか嫌な響きが漂う男の声と、狼狽えているようなか細い女の子の声がした。

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