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14

 階段を上りきり、僕達は辺りの様子を確認する。部屋の中は見る限りなら一階と同じ構造で、僕は少しだけ安心した。前のダンジョンは階を上がる毎に嫌な仕掛けがあったので、つい身構えてしまっていたのだ。


「取りあえず、注意して進むわよ」


「うん」


 彼女の後に続いて、僕は部屋を後にする。通路を歩いていく中、お馴染みのゴブリンやスライムといったモンスター達と遭遇したが、彼女は難なくそれらを倒していった。下で出会ったアイスベアーのような強敵と鉢合わせしないか、僕は気が気でならなかったが、今のところは大丈夫だ。


 しかし、この階でも僕らは未だ宝箱のような掘り出し物を出来なかった。松明で照らされるのは専らガラクタ同然の代物ばかりで、近づいてその事が発覚する度に僕と彼女は深い溜息をついた。


 そんな中、ふと入り込んだ一本道の細長い通路を歩いていると、僕の視線は道の端に落ちていたとある物体に釘付けとなった。


「ねえ、ミレナ」


 前を行く華奢な背中に呼びかける。彼女はすぐに立ち止まってこちらを振り返った。


「何よ」


「あれ、見てよ」


 僕は先ほど自分が発見したものを指し示す。それは黒い布の切れ端だった。何かに引き裂かれたようにズタボロになっているが、塵埃が積もっているわけでも無く、地面に放置されて間もない感じがする。


 紛れもなく、つい最近に人の出入りがあったという証拠だった。


「これって」


 ミレナは僕の指さしたそれを凝視しながら近づき、しゃがみ込んで拾い上げる。一拍おいて、僕は口を開いた。


「誰かがここに来たって事だよね」


「……大方、冒険者か盗賊ってトコでしょ」


 彼女は小さく首を振って立ち上がる。


「まだ、中にいるかな?」


 もしかすると助けが得られるかもしれない、そんな淡い期待が僕の胸に浮かんでくる。しかし、彼女は先ほどと違って首を大きく横に振った。否定の仕草だ。


「その可能性は低いわね」


「どうして?」


「だって、それにしては徘徊してる魔物の数が多すぎると思わない?」


「あ……」


 確かにここに来るまで、彼女が倒したモンスターの数は相当だった。ミレナは難しい顔つきで肩を竦める。


「多分、コレの持ち主は出来る限り戦いを避けてここまでやってきたのよ。それで、この痕を見ると恐らく」


 そこで一旦言葉を切り、彼女は手にしているボロ布の切れ端を険しい目つきで眺めた。


「アタシ達が下で出会ったアイスベアー、もしくはアイツ以外の強くて凶暴な魔物に襲われた。アイツには外傷が見当たらなかったから、もしこれの持ち主が遭遇したのが前者だったとしたら、多分逃げるという選択を取っている筈。今のアタシ達と同じようにね」


「じゃあ、もしかして……」


 僕の脳裏に最悪の状況が思い浮かび、背筋に寒気が走る。


「その人、死んでたりとか?」


「考えたけど、それも微妙なのよね」


 彼女は複雑そうに眉をひそめた。


「今まで歩いてきた所、血痕なんて残ってなかったでしょ?」


「ん、と」


 僕は記憶を巡らせる。意識はしていなかったが、確かに血の跡は見かけなかった筈だ。


「多分、無事に逃げられたとは思うんだけど。この中に潜伏するなら安全を確保しようとしてモンスター達を倒している筈。けれど全く数は減っていないし、彼らの死骸も見当たらなかった。既にここを脱出したって考えるのが適当ね」


 今のアタシ達には関係ない事だけど、と彼女は布切れを道端に放って再び通路を歩き始める。その後ろに続きながら、僕は建物に入る前に聞いたくしゃみをふと思い出した。もしかするとあれは、ここを脱出した誰かのものだったのかもしれない。






 しばらく枝分かれの無い道を淡々と進む時間が続き、その終着点は行き止まりだった。


 しかも。僕は目の前に広がる光景に戦慄する。


「が、骸骨……?」


 そう。立ち塞がる壁の前には無数の人骨が散らばっていた。一人二人どころではなく、数十人は軽く下らないだろう。これらの方はあの布とは違い、相当の年月が経っているようだ。何しろ、既に肉が削げ落ちて骨だけになってしまっているのだから。


 ミレナの方もこの場の異様な雰囲気に少なからず圧倒されてはいたようだが、流石にずっと旅を続けていて免疫があるのかもしれない。


「あら、何かしらコレ」


 と、何かに気がついた様子で抵抗無しに岩壁へと近づく。彼女につられて恐々と視線を移すと、壁の上には三つのでっぱりがあった。どうやらスイッチのようだ。それぞれに色付きで違う絵が描かれている。しかし、あまりに場違いなイラストで、僕の心の中に沢山のハテナマークが浮かんだ。ミレナの方も同じ心境のようで、顔に脱力の色が浮かんでいる。


「ミカンにバナナ、リンゴ?」


 彼女が面食らったように呟いた。


「そ、そうだね」


 僕は頷いて相づちを打つ。どうして、このような絵が描かれてあるのか。あまりに不思議でならない。


 その時、スイッチ群の近くに文字が書いてある事に気がついた。


「あれ? 何だろ」


 僕は遠目から文章を読む。そこにはこう書かれてあった。




『食べようとした時に花が咲かないのを押しなさい。

間違うと死の呪いが降りかかるから、気をつけてね!』

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