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――あのオーラは!


 見覚えがあった。数日前にエリシアと共に訪れた、アイレーヌ教の聖地。そこで遭遇した魔物の纏っていたものと、全く同一だったのだ。


「え!? 一体どうなってるの!?」


 僕同様、突然の事態に戸惑っている様子のセティが、禍禍しい復活を遂げた魔物に恐怖の視線を注ぎつつ叫んだ。


「あのマザーってのは、もう倒せたんでしょ!? なのに、どうしてまた動き始めてるの!?」


「アタシに聞かれても分かんないわよ!」


 ミレナもまた、混乱の秘められた大声を上げた。魔物との戦いは百戦錬磨の彼女も、流石にこの異質な状況の前では冷静さを失ってしまったらしい。


「でも、こんな事って……」


「アンタ、何か知ってるの?」


 僕の呟きを聞き咎めたらしい剣士の少女が、鋭い口調で訊ねてくる。


「うん、実は……」


 聖地で起きた出来事について、僕は事情を知らないセティにも分かるように、掻い摘んで説明した。


「なるほどね……じゃあ、今のアイツが纏っているオーラは、アンタとエリシアが出くわした強力な魔物の纏っていたヤツと凄く似ているってわけ?」


「そうなんだけど……どうしてだろう。さっきまでは普通の状態だったのに」


「ちょ、ちょっと!」


 慌てたようなセティの声が、耳に入ってきた。


「アイツの身体、再生してるんだけど!」


「ウソでしょ!?」


 ミレナは目を見張った。首の傷が治っていることに気がついていた僕もまた、ハッと息を呑む。癒えていたのh首だけではない。魔物の全身に付いていた切り傷も、そこらに無惨な姿で投げ出されていた無数の触手群も、全て完全に回復していたのだ。


「そんな話、聞いたこと無いわよ。前に戦った時だって、一度倒せばそれで済んだのに……」


「……やっぱり、あのオーラの影響なのかな」


 聖地に出現した魔物も、その戦闘能力が他の個体と比べて大幅に向上していたという話だった。眼前のメランディオマザーも、ひょっとすると同じような影響を受けているのかもしれない。魔物の身に纏わりついている暗黒のオーラは、時間と共にその色を濃くしていく。その変化と連動し、魔物は更に強化されているように思えた。


「見て! 逃げ道が!」


「あっ、防がれた……」


 セティの指し示す方向に視線を移すと、今し方、僕達の歩いてきた通路への出口を、急に増殖した根が覆い尽くすところだった。周りを見渡すと、一ヶ所だけでなく、この広間から通じている全ての出入り口が封鎖されてしまっている。


「……どうやら、生かして帰す気は向こうに無いみたいね」


 そう言って、ミレナは唇を噛んだ。


「アイツを絶対に倒すわよ。アタシ達が生き残る術はそれしかないわ」


「でも、ヴィリンが……」


 僕が壁際に倒れて身動き一つしない少年を見やりながら言うと、


「心配だけど、今は放っておくしかないわ。まず、あの厄介な魔物を処理するのが先決よ」


「……そうだね」


 薄情な物言いにも聞こえたが、確かに正論だった。その上、ヴィリンを治療しようとすれば、必ず誰かが彼に駆け寄らなければならない。一時的な戦力ダウンは避けられないし、その隙を相手が見逃してくれる筈はなく、僕達の状況は更に不利になってしまうだろう。しかも、敵の注意が彼に向くかもしれない。


 そういったリスクを考慮すると、ヴィリンに危害が及ばないうちに、先にメランディオマザーを倒してしまうのが得策だと思った。そこまで思案を巡らせた矢先、


「来たよっ!」


 セティの叫びが広間に響きわたる。


「アンタ達はまず後ろに下がって! アタシが注意を引き付けるから!」


「分かった! セティ、こっち!」


「う、うん!」


 魔術士の少女を伴い、僕は後退する。剣士の少女は自身を標的として振り下ろされた触手をジャンプでかわしつつ、残っていたマジックカードを掲げて反撃した。下の仕掛けで用いた『ウインド』のカードだったらしく、明るい緑色の風が大気を斬り裂きながら、今し方に地面へ打ちつけられた触手に命中する。しかし、直撃を受けた筈の部分には、掠り傷一つ付かなかった。


「レン! 来るよ!」


「え……うわっ!」


 ミレナの戦いぶりを心配と共に見守っているうち、死角から別の触手が僕を標的として迫っていたらしい。


 間一髪、大剣で敵の攻撃を受け止める。その直後、強烈な衝撃が両手首を襲った。


「ぐうっ!?」


――以前よりも、攻撃が重い……!


 明らかに、威力が桁違いだった。やはり、敵はあの正体不明のオーラの加護を受け、力を増しているらしい。ミレナの行ったカードでの反撃で傷一つ負わなかったことから考えて、防御力も強化されているだろう。


――ただでさえ苦労して倒した相手なのに、これ以上パワーアップするなんて……。


 生きて此処を出られるんだろうか。不安感が胸に押し寄せてくるのと同時、首筋を冷たい汗が伝っていく感覚がした。


「それっ!」


 後方で詠唱を始めていたらしいセティが鋭い氷柱を放ち、大剣と激突した後に下がっていく触手を攻撃する。しかし、やはり効果は薄いようだった。

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