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 長く続く一本道を抜けると、再び無数の通路と小部屋に彩られた空間が現れた。どうやら、この一帯は他の冒険者の探索が殆ど及んでいない区域らしい。幾度となく、僕達の前には数匹のメランディオ達が姿を現し、僕達はその度に連戦を強いられた。先ほどのように花粉攻撃を仕掛けられる事も度々あったが、一気に多量の花粉を浴びなければ麻痺の進行そのものは緩やからしい。注意して距離を取り続けていれば、手足が軽く痺れるなど、大体は時間が経てば治まる程度の異常で済んだ。絶えず彼らと接近しているミレナが少し心配だったものの、やはり身体の鍛え方と場数が違うのか、彼女は鮮やかな身のこなしで花粉の散布範囲から離脱するなど、危なげない戦い方を続けていた。


「あっ! 見て見て!」


 訪れた小部屋の壁際を指さして、セティが嬉しそうな声を上げた。


「あそこ、宝箱がある!」


「えっ、どこどこ!?」


 敵の影を探していたらしいミレナは、すぐさま彼女の発言に食いついた。


 辺りに魔物の気配も感じなかったので、僕達はすぐに宝箱に近寄り、屈み込んだ。


「早く開けようよ」


「焦らないで。アタシが開けるわ」


 中に財宝の隠されているだろう古めかしい大箱の前で、セティとミレナが興奮気味に言葉を交わし合う。


――それにしても、二人ともウキウキしてるなぁ……。


 勿論、僕もその例に洩れないのだが。焦らないでと言っている本人が、一番焦っているような気がするというのは、何となく妙な感じだ。


 結局、ミレナが中身を確かめることになった。橙髪の少女は目を爛々とさせて、ゆっくりと眼前の宝箱を開く。


 大きな容器の中に入っていたのは、一束の野草だった。


「え、これって」


 宝箱の中身に見覚えがあったので、思わず声を上げてしまう。僕の横からミレナの作業を眺めていたセティも、


「……これ、街で買った薬草だよね。毒消し用の」


 と、拍子抜けしたような口調で言う。


 そう。彼女の告げた通り、宝箱の中に入っていたのは、道具屋で安価に手に入れることの出来るような、何の変哲もない回復アイテムだったのだ。


「これは、ハズレね……」


 慎ましやか過ぎる戦利品を取り出しながら、ミレナはガックリと肩を落とす。すっかり意気消沈している彼女の眼前で、中身が無くなった宝箱は即座に消失した。


「宝箱って、こういう何の変哲もない物も入ってるんだ。てっきり、中身は珍しい物ばかりって思ってたけど」


「まあね……苦労して発見した宝箱の中身が何処でも手に入るアイテムなんてことはザラにあるのよ」


 まるで苦労話を披露するかのような語調で、ミレナは語った。そういえば、僕達が最初のダンジョンの奥で開いた宝箱の中身も、そこらに生えている薬草だったと思い出す。


「端金で手に入る錆びた剣とか、防御性能の全くない布製の服とか。酷い時といえば、ゴブリンの目玉一個なんてのもあったわね」


「ゴブリンの目玉……」


 一体、何に使えばいいのか。というより、どうしてそんなものが宝箱の中に入っているのか。


――ていうか、宝箱が自然に出現するのも何だかおかしいような気もするし……。


 前にミレナに質問したとき、彼女は理屈は分からないが常識だという主旨の返答をして、僕も一応は納得した。けれど、改めてよくよく考えてみると、その常識は何となくおかしい気がしてならない。その『何となく』という曖昧な疑念の理由が、どれだけ追求しようとしてもハッキリしないのだけれど。


――まぁ、今悩んでもしょうがないことか。


 二人して絶賛落胆中である少女達を見やりながら、僕は人知れず頭を振った。

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